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その場に居合わせること

 米国は何かと物騒なので、子供の登下校は親の送迎付き。うちも毎日子供を車で送り迎えするのであるが、帰りは同級生の子を一人ついでに家まで送ってやることになっている。ある日、いつものようにかみさんが送っていったのだが、道中、なぜかとても不機嫌で、家に着くと何も言わずにドアをバタンと閉めて家に入ってしまったそうな。

 その夜、お母さんから電話があって、息子の前では日本語で会話するのは遠慮してくれないかと言われたそうだ。どうも、かみさんと娘が自分のわからぬ言葉で会話しているのを見て、子供ながらにちょっと疎外感を感じたらしい。

マイアミのジョーク

 米国フロリダ州のマイアミにある古いジョークに次のようなものがある。エレベーターでたくさんの日本人が日本語でわいわい話している。一緒に乗りあわせた現地の人は黙っていたのだけど、とうとう我慢しきれなくて言った。「失礼ですが、『郷に入れば郷に従え』ということわざをご存知ですか。ここはアメリカ(合衆国ではない)なのですからアメリカの言葉を使うべきです。スペイン語で話してください。」

 英語よりもスペイン語が多く飛び交うマイアミを皮肉ったエスニック・ジョークなのである。果たして軒先を貸したはずが母屋を乗っ取られてしまった白人/黒人のイヤミなのか、乗っ取ってしまったヒスパニック系の開き直りの弁なのかよくわからないのであるが、米州(アメリカ)全体で見ると、スペイン語を母国語とする人の方が多数派なので、アメリカの言葉はスペイン語ということになるわけだ。ジョークの意味はともかく、意味のわからない言語でわいわい騒がれると、ちょっとイライラする気持ちはわからなくもない。

そこにいるのにいない奴

 最近、道を歩きながら一人でしゃべっている人をよく見かける。オレに話しかけているのかなと思うと、耳に何かをつけて携帯で電話していたりする。彼/彼女は物理的にはここにいるのであるが、その心はどこか別のところにあるのである。そこまでして電話したいのかいと悪口の一つでも言いたくなる理由の一つは、何となくぶしつけというか失礼なことをされたと感じるからである。

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コーヒー一杯ごちそうしてくれれば、生きていく糧になりそうな話をしてくれる。そういう人間にわたしはなりたい。とくにコーヒー飲みたくなったときには。