吹く風と旅情

8月下旬のある晴れた日、鹿児島県霧島市・隼人駅。

私はホームのベンチに腰掛け、40分後に来る特急列車を待っていた。
こんなに電車を待つなんて、普段の生活では全くないことだ。
することもないので、本を開く。

茹だるような暑い日だった。遠く蝉の鳴き声も聞こえる。
ここも暑いはずなのに、時折吹く爽やかな風のおかげで過ごしやすかった。
人工的な気配も熱気も孕んでいない、自然そのままの風。
風上には遠く霧島連山が見える。風はあそこから吹いてきたのだろうか。

空は夏の青色、雲もゆったりと流れている。
忙しい日常から遠く離れた光景だ。

何があるわけでもないけれど、本を読んで過ごすのも勿体ないと思う景色に、私は残りの時間を何もせずぼんやりと過ごすことにした。

隣のベンチからは、少しだけ聞き慣れない方言のまじった会話が聞こえる。
夏の終わりを宿した風が、またホームを吹き抜けていく。
私は、旅にきたのだな、と思った。

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