イベント・お出かけメモ#05 あべのハルカス美術館開館10周年記念「円空 ‐旅して、彫って、祈って‐」
昨年にチラシを見て以来楽しみにしていた円空展(あべのハルカス美術館開館10周年記念「円空 ‐旅して、彫って、祈って‐」)に行ってきました。
円空は木喰と並んで修行として各地を巡り、行き先々で仏像や神像などを掘ってその地に残し、その地の人々は彼らが残したものを大事にしまい込むというよりは日常生活で親しみをもって接することが多かった、といった説明をされることが多く、ファンも多いことから小説などの書籍で取り上げられることも多い人として認識していました。
これより前の2022年に地元の県立博物館で「三重の円空」展があり、そこでは前期・後期に分けて大般若経(円空による仏画の変化がよくわかるもの)が展示された他、三重などに残る円空仏も展示されていて、その抽象性が進む様子などを見ることができました。
仏像などの彫刻が信仰の対象としても美術品としても好きな私ですが、その好みは大日如来や如意輪観音といった豊満な感じ、かつその表情は身も蓋もない言い方をすれば「お前の愚かさを自覚しろ(お前は馬鹿か?)」という感じの意味深なほほ笑み系であって、円空仏はそんなに好みではないと思ってきていました。円空も木喰もあまりにも現代的すぎるような印象を受けており、そこが仏像としてはちょっとな、と思う主な原因だったかと思います。
ただし、木から仏を取り出すといった、漱石の「夢十夜」の第六夜を連想させる円空の作仏スタイルに注目すると、山の民みたいな円空の魅力にハマらざるを得ない気にもなります。もともと日本の仏教や神道と混ざっているところはありますが、それをさらに混ぜ、また、仏を決して遠くから敬う存在としていないところに微笑んだ目が印象的な円空仏があるのだろうなと思ったりします。
今回のあべのハルカス美術館での円空展は巡回をしない、ここでしか展示しないという企画で、約160体の円空仏が一堂に集まっている貴重な企画展です。
最初に千光寺の仁王像(吽形)があり、その木そのものの魅力をいかした作風は、一本の木から仏を彫り出す円空の思想みたいなものを強く印象づけるものでした。この展示物は写真撮影が可能で、また、ガラスケースに入っていないので、正面以外からも仁王像を眺め、また写真撮影をすることができました。
5つに分けられた展示室で、それぞれ「第一章 旅の始まり」「第二章 修行の旅」「第三章 神の声を聴きながら」「第四章 祈りの森」「第五章 旅の終わり」といったテーマで展示品がまとめられています。それぞれの部屋で背景色を変えていてお洒落です。
最初の2室は、上で書いている「三重の円空」展で見た展示品に再会することができて、お久しぶりです、と言う感じで嬉しかったです。また、奈良の法隆寺所蔵の「大日如来坐像」などの展示から、初期の円空仏の目が法隆寺などの飛鳥仏の影響を受けているとの指摘について成程と思ったりしました。制昨年に沿って展示されている各部屋の、第二室までは岐阜、奈良、三重、愛知に収蔵されている作品、それが第三章では岐阜、滋賀、埼玉、栃木となり、円空の修行の場所とそこでの作風の変化みたいなものを感じ取ることができるような気になります。展示上の意図があるのかもしれませんが、初期の護法神像のように樹の魂そのもののような神像をはじめとした神像および神像よりの仏像に円空の魅力が集まっている様な気もします。私は蔵王権現像も好きなのですが、シュッとした感じの像が多い蔵王権現が円空のてによるとちょっと違った感じになっていて、そういうところも興味深かったです。
また、第三室には大きな大黒像があったのですが、地域の有力者の庇護を受けながら修行をする円空が彫った大黒像が、その有力者の家の玄関先にどーんと置かれてあるような光景を想像させました。
そして千光寺の収蔵物だけが展示されている第四室は再び写真撮影が可能になっています。ここにチラシにも用いられている両面宿儺坐像や、地元の人が病人が出た時などに駆り出して枕元において祈ったとされる立像群などが展示されています。
背景色の緑色がとてもいい仕事をしている感じで岐阜の山寺で地域住民とともにある円空仏たちという印象を与えていました。この部屋の展示を見ると、岐阜の千光寺に行かなければならない気分になります。
また、前の部屋でもそうなのですが、このあたりからは特に一本の木から複数の仏たちを彫り出したことがわかる展示物が多くなります。
寄木造ではなく、また複数の弟子たちと製作する仏師とは異なる修行として仏たちを彫り出すスタイル、そういったものを感じさせる円空仏らしさを強調する展示になっていると思いました。おそらくは住民の持仏として頼まれたのであろう如来坐像はそれなりに丁寧に彫られていて、必要に応じて彫り分けていたこともわかる展示でした。円空作の持仏、欲しいです。
最後の第五室は千光寺以外の岐阜にある収蔵物が展示されていましたが、江戸初期に作られたとは信じがたいほどモダンな柿本人麻呂像や、写真で見たことがあっていちど実物を見てみたかった神明神社の善財童子立像・護法神立像(矜羯羅童子立像・制多伽童子立像)も第五室に居ました。こちらを見ることができただけでも嬉しかったです。
そして展示の最後に、円空仏に関する動画を視聴できるのですが、そのナレーションは津田健次郎さんでした。いい声でした。 紹介されていた荒子観音寺の円空仏彫刻・木端の会のみなさんが仏を彫る時の境地みたいなものを離しているところも良くて、荒子観音寺にも一度いってみたいと思いました。
ミュージアムグッズでは、絵葉書やクリアファイルなどの他、円空や仏像に関する書籍、仏像グッズ、岐阜の名産物などが販売されていました。今回はTシャツにとても惹かれて買ってきてしまいました。
今回のあべのハルカスの「円空展」は見ごたえがあって、会期中にもう一度行こうかと思っています。
さて、円空仏に関する小説はたくさんあるのですが、真贋の見極めが難しいという点については、北村鴻「旗師・冬狐堂」シリーズの『緋友禅』に収録されている「奇縁円空」がおススメです。