見出し画像

イベント・お出かけメモ#29 「相国寺展」(愛知県美術館)

前期展示期間(~11/4)に「相国寺展」を見にいきました。

相国寺と言えば、「相国寺承天閣館」、「相国寺承天閣館」とくれば、御所前・同志社大学のご近所ということで、同志社大学と同志社女子大学の間の通りが「相国寺通」だったことまでが連想ゲームのように思い浮かびます。そして、同志社大学に用事がある時に看板を見かけたり、あるいは用事と用事の間の息抜きに相国寺を訪れたこともあったと思い出しました。

ただし、寺社仏閣が贅沢なくらいある京都ということもあって、相国寺が歴史的にどのような役割を担っていたかについては思い至らず、愛知美術館の展示予告で「相国寺展」があることを知った時には、ひとつのお寺で企画展ができるのだろうかと思っていたのでした。恥ずかしい限りです。


珍しく縦開きのチラシによれば、相国寺は、室町幕府三代将軍・足利義満が1382年に発願し、京五山禅林の最大門派であった夢窓派の祖・無窓疎石を勧請開山に迎えた禅宗の古刹であり、金閣寺、銀閣寺の通称で名高い鹿苑寺、慈照寺を擁する臨済宗相国寺派の大本山で、展示も相国寺、金閣寺、銀閣寺ゆかりの品々(国宝、重要文化財が合わせて45点も愛知会場に来てくれるのだそうです)でした。

第一章 創建相国寺-将軍義満の祈願
第二章 中世相国寺文化圏-雪舟がみた風景
第三章 『隔蓂記』の時代ー復興の世の文化
第四章 新奇歓迎! 古画礼賛!ー若冲が生きた時代
第五章 未来へと育む相国寺の文化-”永存せよ”

の5章からなる企画の中で、特に印象に残った作品を挙げると、

第一章では、文正筆の「鳴鶴図」(重要文化財、前期展示)が圧巻でした。多くの画家を感化したとされる絵で、あとの展示でこちらの絵を参考にした絵も出てくるのですが、こちらの鶴の、特に右側(飛んでいる方。チラシなどで使われている方。)の足がとてもきれいで、鳥の中でも鶴は人に近いイメージなのだと実感しました。

あとは銅製の鳳凰。金閣寺の火災の際には修理のために屋根から下ろされていたために難を逃れたそうです。「鳳凰がみつめた美の歴史」とキャッチフレーズにあるように、室町時代から昭和までずっと金閣寺から京を眺めていたとされる鳳凰は、厳しすぎる顔をしておらず、どちらかと言うと愛らしい印象を受け、これを作った職人たちは鳳凰にどのようなイメージを持っていたのだろうか、などと思いました。

あとは、相国寺の歴史の説明のところでは、既に亡くなっている夢窓疎石を勧請開山に迎え(名目上のものとして?)、実質開山は高弟の春屋妙葩(名目上は疎石が初代なので2代目になる)こと、トップの僧侶が割と短期間で交代しているところが、ややこしくも興味深かったです。

私は 仏像 > 絵画 > 文字 の順番で仏教美術が好きなのですが、今回は禅宗のお寺なので仏像はほぼありません。ただし、あの有名な「十牛図」が第二章で展示されていたのは楽しかったです。「十牛図」の十枚の絵の中では、何もない「人牛倶忘」が好きです。その他に第二章のところでは、雪舟の若いころの作品とされる「渡唐天神図」が興味深かったです。そもそも天神さんが唐にわたるという設定が「なんで?」という感じでした。雪舟の割に線が優しい感じでした。

第三章では、秀吉・家康のブレーンを務めた西笑承兌に関する物や相国寺復興期の鳳林承章および彼の34年におよぶ日記『隔蓂記』などが展示されていますが、僧侶には詳しくないこともあって、特にすごいと思ったのは「異国通船朱印状」(西笑承兌 筆)でした。歴史の教科書で見たものの実物がここにある、ということと、国際的な場で用いられるためか、すっきりはっきりした美しい字であったことが印象的でした。そして展示品を見ている中で思ったのは、漢字でコミュニケーションできることの強さ、でした。日本から中国へ学びに行くことのハードルが、漢文などに慣れ親しんだ禅宗の僧侶や画僧にとっては多分今よりも低かったのかもしれないなと思いました。

あと、私は陶磁器が好きなので、「砧青磁茶碗 銘 雨龍」もつややかで良かったです。

第四章の主役は若冲、そして彼による「鹿苑寺大書院障壁画」だと思います。若冲は雪舟以上に線がダイナミックというか、力強いというか、圧倒されすぎるので実のところ少し苦手な画家なのですが、現代でも色あせない魅力があることはわかります。こちらでは、障壁画紹介画像が流れており、今回こちらに来ることがかなわなかった絵も含めた、壁画の全容を見ることができます。著名な画家に襖絵などを書いてもらう時の話し合いみたいなものは楽しいだろうなと思ったりしました。あるいは画家に一任するものなのでしょうか。

第五章では、明治維新期の廃仏毀釈の嵐の中で、相国寺およびそのゆかりの品々が破壊されないように、次代へしっかり伝えることができるように心を砕いた様子の一端を知ることができるとともに、江戸以降の「近年の」コレクションを見ることができます。ここでの圧巻は伝 俵屋宗達「葛の細道図屏風」(重要文化財、前期展示)。大胆なデザイン、金と緑の見事さと、同時代の画家たちがこれを見てしまったら筆を折るしかないんじゃないかと思うほどに目を奪われる作品でした。部屋をぐるっと回った後に再度じっくりと見て目に焼き付けたいと思うほど素晴らしい作品でした。ちなみに同じ部屋には、伝 辺文進 筆「百鳥図」があって、鳳凰を中心とした多くの鳥が描かれている素敵な作品もありました。絵の中の鳥、鳥の描かれ方にはついつい目が行ってしまいます。

前期展示の「鳴鶴図」と「葛の細道図屏風」を見ることができたからいいかと思う反面、後期展示の丸山応挙「牡丹孔雀図」もできれば近くで見てみたいと思っています。


なお、コレクション展(2024年度第3期コレクション展)では、「みんなの文化会館美術館」の部屋が面白かったです。そして、日本画の松田文子「哀歌」が素敵でした。松田文子さんの作品はもっと見てみたいです。