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イベント・お出かけメモ#21 「アブソリュート・チェアーズ 現代美術のなかの椅子なるもの」(愛知県美術館)
9月とはいえ「猛暑」や「夏日」が続くため、お出かけをためらう日が続いていますが、このままだと展示期間が終わってしまうと思って、愛知県美術館の年間予定を見ていて気になっていた椅子×現代美術に関する企画展に行ってきました。愛知県美術館は最寄り駅から日傘をさして長く歩くことがないので、愛知県の中では比較的気軽に足を運ぶ美術館です。その次が、最寄り駅から歩くので季節を選びますが、名古屋市美術館と名古屋市科学館(同じ敷地)です。
現代美術の企画展なので、メッセージが前面に来る展示だったり、インスタレーションや現地で完成させた作品や一般参加企画ものがあったりして割と賑やかという印象を受けるものでした。
展示は以下の5つから構成されています。
第1章 美術館の座れない椅子
第2章 身体をなぞる椅子
第3章 権力を可視化する椅子
第4章 物語る椅子
第5章 関係をつくる椅子
マルセル・デュシャン、草間彌生、岡本太郎といった知らない人はいないでしょうという著名アーティストの作品は第1章、最初の展示室にありました。デュシャンはオリジナルを廃棄してしまうことがあるらしく、確かこちらは複製だったかと思います。椅子の企画展なのに、いきなり「座れない椅子」が展示されており、来場者に「なんだこれは」という印象を与える効果があると思いました。人、男性、男性器への恐怖や不信感が強いような草間彌生の作品を見てから、岡本太郎を見ると、座面が顔なので座ることに抵抗を覚えるとはいえ、この人は人間が好きなんだろうなと思ったりします。人間に対して本能的に不安を抱くか親しみを覚えるか、そのあたりは本当に大きな違いになるのでしょう。
なお、今回は「座っても良い」椅子が何点かあり、岡本太郎の作品のうちの2つは(黄色と青)はその対象になっていたのですが、一人で来ていることもあって、美術館スタッフさんからほど近い場所にある岡本太郎の作品に座ってスタッフさんと目が合う、という間の抜けた図を想像してしまって断念しました。展示室のところどころにあった副産物産店さんの作品のイスも座ってOKというものが殆どだったと思いますが、同様の理由と壊したらどうしようかという心配があって結局座ることはしませんでした。家族連れなどのグループだったら挑戦したかもしれません。
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その奥の展示室にあったのが、チケットにも使われているジム・ランビー「トレイン イン ヴェイン」。賑やかで楽しそうなのですが、私の直後に入室した女性たちが「幼稚園児ー」と言ったのを聞いてしまい、それ以降は幼稚園児が楽しく積み上げた椅子にしか見えなくなってしまいました。そう、そういうのがあるので美術館にはどちらかというとひとりで行って黙って作品を見るのが好きなのでした。
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個人的に印象に残ったのは第3章 権力を可視化する椅子たち。
玉座のように権力者の象徴としての椅子もあれば、実際に人を殺したであろう武器(ソ連から輸入した銃)で作られた椅子、体を休めるための椅子に体を縛り付けて行われる拷問、「黙ってそこに座っていなさい」というような行動や移動を抑制するための道具としての椅子、東大紛争の際にバリケードに使われた大学の教室の椅子、文化大革命の自己批判や権力者の賞賛のために使われていそうな集会場の椅子たち、といった不穏な椅子たちの展示が私の興味に添っていて良かったです。
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この他にも、展示会HPのみどころで見た 宮永愛子の waiting for awakening -chair- の儚さと危うさや、集合体恐怖症にはちょっと怖い 名和晃平の PixCell-Tarot Reading (Jan. 2023) も面白い展示でした。
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HP掲載画像のように横からも撮影すればよかった。
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今回は企画展の入口がいつもとは異なっていたのでどこか改修でもしているのだろうかと思ったのですが、おそらくは、こちらの企画展のオノ・ヨーコ 「白いチェス・セット/信頼して駒を進めよ」をどこに配置するか、あるいはそれぞれ個性的な作品を活かした展示場所、というものが考えられたのではないかとオノ・ヨーコの作品までたどりついて思いました。そうであるならばよく練られた配置だと思います。
座ることを拒絶する椅子から、椅子本来の体を休めたり、そういうことをしてきた人の記憶を持つ椅子、権力や暴力に関わる椅子、対立の場にある椅子や家族とともにある椅子、空間を引き締める存在としての椅子、排除アートに化けることもあれば廃材などで新たに再生する椅子、そして相手を信頼し対話するための椅子といった、椅子に関する物語の最後にオノ・ヨーコの作品を持ってきたことは、落ちとしては安易なところもありますが、希望の持てるピリオドとしてぴったりだと思いました。
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教室の息苦しさと、時々の楽しさが混ざった感じ。
こちらも多分、平日は椅子に座ることも、チェスの配置を変えることもできたような説明文を読みました。おしゃべりがにぎやかな集団が立ち去るのを待って作品に近づき、説明文を読み始めたところで、私に近づいたこの作品専門の会場スタッフさんが同趣旨の説明をしゃべり始めたのでそのお話をうかがっていると、「ただしそのためには手を消毒していただく必要があり~」と言うので、ここまで説明を聞いたらそれに応えた方が良いのかなと思って手をだすと、「ただし、まずは後ろの方が先だと思います。」と私の後ろの二人組を示したのは謎でした。この流れでそうする?という感じ。
いえ、おそらくは、にぎやかな集団が作品を楽しんでいるところにその二人組が来て、説明を聞いた二人組が手前の展示室で時間を潰している時に、その賑やかな集団と入れ違いで私が作品に近づいたのだというような気がしますが、だったらその説明を今しますかね、と思いました。チェスは駒の動かし方は知っているとはいえ、岡本太郎の椅子同様に、じゃあ、スタッフさんの視線を浴びながらひとりで椅子に座ってチェスを動かして何か楽しめますかねといえばそうでもないので、「そうですかー」と言って立ち去りました。
私は説明文を読んで作品を眺めたら、あとは作品の展示場所が完璧だったので撮影できたらそれだけで良かったのですが、と、些細なことですが、せっかく楽しかった気持ちに染みが広がったような感覚を持ってしまって企画展を出ました。
二人組は今からその椅子で写真を撮ったりして楽しむでしょうから、その邪魔をするのも、それをただ待つために既にみた作品で時間を潰すのも何だったので。説明がなければ写真をとってすっきりした気分でその場を離れることができたのにな、と残念でした。お仕事としては何ら悪くはないのですが、それでも私には無駄だった声掛けがなければ良かったのにと、残念な気持ちになりました。まあ、いろいろありますよね。
「2024年度第2期コレクション展」へ口直しに行きました。こちらも撮影可能な作品は割とあったと思います。こちらの入口が、体感的にはいつもの企画展の入口でした。
愛知県美術館のシンボルになっているクリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》をはじめとする西洋絵画、それを学んだ日本近代の西洋画家たちの作品がずらっとあって満足しました。全部ではないですが「作品裏話」が書いてあるものもありました。
画布に絵を描きそれを塗りつぶして新たな構図の絵を描く、あるいは書き直す、そして完成品としての絵が残るわけですが、今はその完成品の前がわかってしまうわけで、それは研究としては大事なことは重々理解できるのですが、なにか作品を作る場合、どこを完成にするか悩んだことがあるプロ・アマチュアの作家にとっては、なかなか惨いなとも思いました。
岸田劉生の解説で「北方ルネサンス」の単語をよく見かけたのは、そのあたりを専門にしている学芸員さんがいらっしゃるのでしょうか。
私は近所の三重県立美術館所蔵の古賀春江「煙火」が好きなので、その古賀の「夏山」を見ることができて嬉しかったです。また、藤田嗣治「青衣の少女」も遠目から藤田の絵とわかる乳白色が素敵で良かったです。これらを含む愛知県美術館のコレクション作品で特に見たかった約10作品を一度に見ることができて大変ありがたかったです。
コレクション最後の展示室は、舟越桂の作品を含む彫刻でした。特に舟越桂「肩で眠る月」は、その肩側の表情が憑りつかれそうな存在感があって、写真集ではなく実物を見ることができて良かったです。
愛知県美術館は、コレクションだけではなく、その周囲の空間もとても魅力的です。ビルの中にありますが、窮屈な感じがしないところが好きです。
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手前のところで座って購入した図録を眺めることもあります。
名古屋駅からのアクセスは大変良いのですが、往復で3000円の交通費がかかってしまうので、それでも行って見たいか、という点では毎回悩んでしまうところはありますし、それだから一日に数か所を見ることをしがちですが、今回は時間の都合で愛知県美術館だけを訪れました。ちょっと残念なところはありましたが、概ね満足しました。
次は「相国寺展」。同志社大学の隣にあったので用事ついでに何度か足を運んだことがある相国寺をどう見せてくれるのか楽しみです。