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#21 こんなことがあった(奈良ホテル)

新型コロナ感染拡大が日常生活に大きな影響を与えた2020-2022年、外出の自粛が求められた時期もあって2020年東京オリンピックによる訪日観光客をあてにしていたホテルを中心とした旅行業界は大変だったと思う。もちろんそれ以外の飲食業も小売業もそれ以外の仕事も全て想定外のダメージを受けて大変だったことは言うまでもないけれども。

ただ、もともとひとりで出かける人、あるいは数名で出かける人にとっては、嫌な言葉だが「観光公害」と評されるような、観光地に人が過剰に集まるような近年の状況が無かったような静けさを楽しむことができた貴重な時期ではあった。

電車などでおしゃべりを楽しみすぎて周囲が見えなくなって騒々しくなっている人たちも一時的にいなくなったことも私にはたいへんありがたかった。

そういうわけで、感染症への注意が求められた時期も、近場を中心にちょくちょく泊まりのお出かけをした。海外に行けなかった分、その回数は増えていたような気がする。

ちょうどその頃、子どもが歴史に関心を示しだした。そこで奈良ホテルに泊まってみることにした。もちろん本館の方で。

もともと私が旅行が好きなのでビジネスホテルが中心だが子どもはホテルに泊まることに慣れている。ただし、ホテルにもいろいろあって、いわゆる良いホテルは利用者もそのホテルの雰囲気作りの要素なのでそれなりにおりこうさんの振舞が必要だということは早めに教えておきたかった。そして、できれば子どもであっても一目でその歴史を品格みたいなものが理解できるようなところで、かつ、萎縮しすぎないところ、という条件で考えれば、関西育ちの私の頭に筆頭に浮かんでくるのが奈良ホテルだった。

奈良ホテルは、おそらく過去に喫茶室を利用したことはあったものの、私も宿泊したことがないので、思い立ったが吉日とばかり予約した。

奈良自体は子どもが物心ついてからは秋の正倉院展をはじめ年に数回連れてきているので全く知らない場所ではないが、低学年の小学生にとって奈良ホテルは初めて訪れる場所だった。そしてやはり歴史のあるホテルだということはすぐにわかるようだった。

本館の建物や部屋は戦前期に外国人旅行客を意識してデザインされた感じで、ここそこのディティールが目を楽しませた。客室は天井が高め、浴室はどの時期に改修工事が行われたかわからないがコンパクトなユニットバス風、家具はシンプルながらマントルピースの趣きを残したテレビ台が特に面白かった。テレビは小さ目だが、テレビを見に奈良ホテルに宿泊するわけではないのでそれ以上大きくなってテレビの存在感が出すぎない方が良いのだろう。

この時は朝食付きで予約をしたので、夕食は外へ食べに行った。
ホテルに到着時は、三条通→菊水楼→荒池とまわったが、猿沢池側に出る道があることをこの時初めて知った。宿泊するなどしてじっくり滞在しないとわからないことがやはりあるのだと思った。

夕食を終えてホテルに戻り、新館と本館の違いを迷惑がかからない程度に探検したり、ホテル自体が資料館みたいなところがあるのでそれを熟読するなどして子どもは楽しんでいたようだった。そのホテルの雰囲気を損ねない範囲で楽しんでくれている感じが良かった。

宿泊したのは3月中旬の日が暮れるとまだ肌寒い時期であったし、やはり木造ベースなだけあって暖房を入れていても入浴後はやはり少し寒かった。それも含めて古き良きホテルに宿泊することなのかなとも思った。

そして翌朝、子どもが楽しみにしつつ緊張していたのは朝食だった。朝食は和食、洋食、茶粥定食から選ぶスタイルで、出かけたらその土地の名物みたいなものを試したい私は茶粥定食を、子どもは洋食を選んだ。案内はベテラン中のベテランという風格のしかし厳しさを表に出さない年配男性で、ゆったりとした所作ながらも的確なサービスを提供してくれて、やはりベテランはすごいと思ったりした。

ここはちゃんとしたホテルだから、そしてビュッフェじゃなくて定食スタイルで出てくるから、苦手なものまで食べつくせとは言わないけれど、できるだけ綺麗に残さず食べる方向で頑張ってみて、と部屋を出る前に言ったことを覚えていたみたいで、家にいる時とは全く違うそれなりにちゃんとしていますという感じで食べていたので、あ、やればこの年の子どもでもできるんだ、と感心して眺めていた。

ちなみに後で「自分ってちゃんとできてすごいよね(褒めろ)」というアピールをさんざんやっていたので、それなりに緊張していたのだろう。

ただし、甘いものには目がないので、出てきたフレンチトーストに添えられていたメープルシロップ(なんとポーションがふたつも添えられていた)をたっぷりとかけて、「それって、メープルシロップに浸しすぎじゃないか」と心配するほどだった。本人も食べている後半は、これはさすがにメープルシロップは多かったなと思っていたらしい。そういうものは一度にかけるのではなくて様子を見て足していく方が良いのだと理解したみたいなので結果オーライか。

茶粥定食と洋定食


その後も館内を堪能し、チェックアウト後も旧大乗院庭園を散策するなどした。チェックインの時だけコロナ感染拡大期の特殊対応ということもあって対応がもたつくところはあったが、それ以外はのんびりとした雰囲気を損ねることのない抑え気味ながらも間合いの良い振舞をするスタッフが多くて、必要最低限の接触しなしないビジネスホテルもいいけれど、こういうホスピタリティを売りにしている良いホテルもいいものだと思った。子どもにとっては「歴史的施設に宿泊する」ことがメイン目的だったが、朝から緊張するけれどきちんと扱ってくれる朝食というのも強い印象を残したみたいだった。

その後、次は帝国ホテルに行ってみよう、とばかり、用事ついでに大阪帝国ホテルに連れていったが、規模が大きすぎるのは苦手らしく、彼の中での日本のNO.1ホテルは奈良ホテルなのだそうだ。

じゃあ、他のクラシックホテルも体験してみないか、と思っている割と遊び人の母親の私であった。

奈良ホテル、学校行事の関係で土日利用になりがちですが、最近は客足が戻ってきていることもあってホテル代は強気になりましたよね。珍しく子どもがまた行ってみたいと言っているので、春休みぐらいで検討し始めているところです。