回想にあやふやを残して
愛されていたような、酷く痛かったような。
私の身体がまだ私のものでは無かった時の事を思い出す。3年以上も前のことを、私はそう呼ぶ。
私の細胞が全て入れ替われば、私は私じゃなくなる。それが3年。
5年も前のこと、貴方に愛されていたこと、貴方ってもう誰なのか、私にある貴方は、私が思い出した貴方でしかないの、もう。
それに悲しい気持ちにもならない。私の心も、体も、もう一度も貴方が触れた事のない部位になって、古傷なんて痛まない。
貴方の優しい顔を思い出す努力をするけど、写真フォルダにあった顔しか思い出せない。
喋り方も声の低さも、録音でも盗撮でもしとけば良かった。何にもないの。だから、分からないの。
あの時傷付いた心がここには無いから、あの時どうやって触れていたか、誰も残していないから、私は貴方を忘れるしかないの。
思い出せない事は悲しくないのに、忘れるしかないと思うと寂しくなる。どこにもない筈の古傷がチクリとする。何に焦がれているんだろう。
私が思い出した貴方を私が思い出した貴方を
私が思い出した貴方を私が思い出した貴方を
私が思い出した貴方を私が思い出した貴方を
私を思い出した貴方を私が思い出した貴方を
繰り返して
本当に擦り切れたフィルムみたいな貴方。
どんな顔して私を見てたのだろう。
どんな触れ方をしていたのだろう。
どんな思いで私を愛したのだろう。
全て分からなくなった。
さよならが近いね。
回想はあやふやを残して、彼の姿を消していった。
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