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Webメディアが終わり「ダイレクトメディアの時代」がはじまる
もはやWeb媒体すらもオールドメディアとなりつつある、変化の時代。
近年、YouTubeやnoteを中心とした新興プラットフォームの成長がめざましく、そこには既存のWebメディアや雑誌、テレビとは異なる「個人発信による巨大なエコシステム」が育っています。
SNSやYouTubeを一次ソースとして多くのWebニュースやテレビ番組がコンテンツを作っている時代においては、Webメディアは新しいメディアではなくなっているばかりか「ネットニュース」と言う言葉はすでに侮蔑のニュアンスを強く帯びたものとなっています。
では、そんな状況を踏まえ、個人の発信者やメディアはどう変わっていくべきなのか。
その答えとして大きな潮流となるのではないかと思われるのが「ダイレクトメディアへのシフト」です。
この記事では、そんな激しい時代の変化に対応する、新たなメディアの動きについての解説・予測をお届けします。
ダイレクトメディアとは
ダイレクトメディアは「YouTube」と「課金システムを備えたテキストメディア」という2軸を基本とし、リアルタイム性と拡散力を持つSNS(主に「X(旧Twitter)」)で両者を補完する仕組みです。つまり、仲介者に頼らず自前のメディア運営でファンや読者、視聴者と直接つながり、継続的な交流が可能な仕組みです。一般的には「個人間での手紙や電話のやり取り」を指す言葉ですが、ここでは時代の変化に対応した新たな意味付けとして用いています。
筆者プロフィール:照沼健太
MTV Japan、株式会社インフォバーンでの勤務を経て独立。2014年から2016年末までユニバーサル ミュージックジャパンのWEBメディア『AMP』の企画・立ち上げおよび編集長を務め、2018年にコンテンツ制作会社『合同会社ホワイトライト』を設立。テレビ東京やNetflixのメディア運営、レディオヘッドら数々のアーティストのCD封入解説文、HIKAKIN、米津玄師、押井守、藤本タツキなどのクリエイターや多くのビジネスパーソンの取材を担当。2023年末からはYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営(2025年2月末時点でチャンネル登録者数約5万人)。
海外の大手メディアの明暗を分けた「ダイレクトメディアへのシフト」
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「ダイレクトメディア」という言葉はまだ一般的ではありませんが、その仕組み自体はすでに海外大手メディアで成果を上げています。ここで代表的な事例として、アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」とイギリスの「ガーディアン」を取り上げます。
ニューヨーク・タイムズのダイレクトメディア・シフト
2011年にデジタル版の有料購読モデルを導入。当初は「メータード・ペイウォール」方式で、一定数の記事は無料、それ以降は有料購読が必要となる仕組みでした。この戦略により、2015年にはデジタル有料会員数が100万人に達し、2023年末にはデジタルと紙媒体を合わせた購読者数が1,036万人を超えました。これは現代メディアの成功例として広く認知されています。
ガーディアンのダイレクトメディア・シフト
2016年からは、読者からの寄付を募るモデルを導入。すべてのコンテンツを無料で提供しながら、読者に対してジャーナリズムへの支援を呼びかけた結果、2018年には100万人以上の読者から寄付を受け、経営の安定化に成功しました。
インディペンデントの失敗
一方、課金モデルの導入が遅れたために苦境に立たされた例として、イギリスの日刊紙「インディペンデント」が挙げられます。同紙はデジタル化の波に乗り遅れ、2016年3月に紙媒体での発行を終了し、以降はデジタル版のみで運営を続けています。
バズフィード・ニュースの失敗
また、2000年代後半にバイラルメディアとして注目された「バズフィード」は、2023年4月にニュース部門である「バズフィード・ニュース」の閉鎖を発表しました。CEOのジョナ・ペレッティ氏は、無料で質の高い報道を提供するビジネスモデルの限界を認識するのが遅れたと述べ、成功と失敗の明暗がはっきりと分かれる結果となりました。
……と、2010年代「すでに海外大手メディアはダイレクトメディアへシフトしていた」という話をご紹介してきました。
しかし、問題は2020年代。というか、2025年以降です。
2020年代後半は「”ほぼ個人”なダイレクトメディア」の時代へ
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2020年代は間違いなくYouTuberとTikTokerの時代です。
正確には、有力な個人がYouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームを駆使して、更なる影響力を獲得している時代と言えます。そして、2025年以降、急速に進化するAIが新たな要素として加わる中、情報の正確性に対する懸念も高まっています。
こうした状況下で、これから台頭していくのは「ほぼ個人」による小規模なダイレクトメディアだと予測されます。「ほぼ個人」とは、単なるインフルエンサーではなく、生成AIの進歩や主要プラットフォームの速報性・信頼性、さらに急速に整いつつある収益システムを活用し、少数精鋭または個人ベースでメディアを立ち上げ、収益化と拡大を見込む形態です。
つまり「個人のインフルエンサーではない」ことが大きなポイントとなります。そこにはもちろん生成AIの進化も重要な要素として関わってきますし、YouTubeはじめ現代の主要プラットフォームが持つアルゴリズムに「速報性」が重要であること、「信頼性」が求められ始めていること、そして急速に整いつつある収益システム周りの状況も関わってきます。
詳細な理由については別途記事を書きたいと思いますが、わかりやすいところで言えば、「ReHacQ−リハック−」の台頭はこの流れの一つの象徴と言えるでしょう。
ひとまず、ここでは2つのことを覚えてください。
「海外大手メディアから、すでにダイレクトメディアへのシフトは行われていた」という事実。
そして「2020年代後半はこの流れが加速し、小規模なダイレクトメディアが増加するのではないか」という予測があること。
「Webメディアが終わり、”ほぼ個人”ダイレクトメディアの時代がはじまる」
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ちょっとぶち上げるような見出しに見えるかもしれません。
でも、これはメディアの中を見てきた/見ている人ほど納得できる動きであるはず。
これまで「Webメディア」は、検索エンジンやSNSからの流入に依存し、PV数に応じた広告収益を中心に運営を行ってきました。実際にそれらの仕組みはいまだに残っていますが、広告収益だけではメディアの存続が難しくなり、コンテンツの信頼性も揺らぎやすいのが現状です。
その一方で、自身のブランド力を確立し、直接課金やコミュニティ運営を通じてユーザーとの関係を深める「ダイレクトメディア」的なるものが飛躍的に増え、その存在感を伸ばしてきたのも明らか。
さらには生成AIの進歩により、その運営コストやコンテンツ制作のハードルはより下がり、優秀な編集者やディレクターさえいれば、今後は少数精鋭や個人ベースでも十分にメディアを立ち上げ、収益化・拡大を見込める時代へと突入し始めています。
つまり「Webメディアが終わる」とは、従来のマスメディア依存型・PV主義型ビジネスモデルが崩壊しつつあることを意味します。
そして、「ダイレクトメディアの時代のはじまり」は、”ほぼ個人”ダイレクトメディアが、従来型インフルエンサーの危うさを回避しながら、大手メディアでは対応しきれないフットワークによって、時代にフィットした有益な情報を発信していくことを示します。
この変化は決して一夜にして起こるものではありませんが、すでに海外・国内を問わず「”ほぼ個人”なダイレクトメディア」の事例は数多く登場しており、もう始まっています。
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それは、恐竜が鳥類に進化し、現在の繁栄を謳歌している様子と重なるかもしれません。
2020年代後半、メディアの形はさらに大きく様変わりし、私たち一人ひとりも“発信する側”として新たなチャンスを得る時代が訪れるでしょう。
そして、そんな「”ほぼ個人”なダイレクトメディア」は、ここ日本においては「note × YouTube × X」が基本的なスタイルになるはずです。
詳しくはまた別の記事で説明します。ぜひフォローしてお待ちいただけると幸いです!
(ちなみにこれは「ワイアード」日本版の創刊編集長にして、株式会社メディアジーンCVO、株式会社インフォバーン会長である小林弘人氏が15年以上前から言い続けている「誰でもメディア」の延長にありますが、いよいよ「新しいテレビ」としての「YouTube」、新しい書籍としての「note」台頭によって、その時代が本格化したものだとも考えられます。)
(照沼健太)