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日本国憲法第五十七条

両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2.両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。
3.出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

店を出たら雪がざんざん降っていた。昼から肉と酒を体内に収め、身も心も満ち足りていた。今日気付いたけれど、恐らく私たち酒飲みは、アルコールを摂取したいというより満杯にビールが注がれたジョッキを傾けたいだけなのだろう。

そんなつもりじゃなかったのに、半額の棚に並んでいたそれを見たらやっぱり欲しくなって試着した。身長の割に足が大きく、24cm入るかなと不安だっだがまるで既に所有しているかのようなフィット感で、反対の足を入れる前に「買います」と宣言した。小さくて可愛らしい店員さんだった。
雪が降っているからという理由で雪用ブーツを買うのは些か頭が悪いように思うが、まだまだ寒い日が続くし、雨の日も履けるし、と心の中でいくつも言い訳を並べた。

あ、この店煙草吸えなくなっちゃったんだ、と店のドアに貼られた『店内禁煙』の文字を見て少し驚いた。私は非喫煙者だけど何故か周りに喫煙者が多かったせいで副流煙を吸い込むことには慣れている。喫煙席に座ることにも抵抗はないし、何なら男性の煙草を吸う姿に惹かれたりもする。
食事と飲酒をして、買い物をして、そろそろコーヒーを飲みながら一服したいだろうなと思って入店したのに、それは叶えられなかった。だけど丁寧にドリップされたブレンドコーヒーは相変わらず美味しかったし、昔ながらの少し硬めのプリンは今日も至高だった。
もちろんプリンにスプーンは付いてきたけれど、持ち手は向こう側に向けて私はソーサーに乗っていた小さなティースプーンで食べた。遠慮がちに、小さな一口を繰り返して気付いたら9割私が食べていた。

駅のエスカレーターに乗ろうとすると、小走りで駆け上ってきた中学生くらいの女の子が目の前でひっくり返った。予想外の雪でちゃんとした靴を履いていなかったせいか、濡れたエスカレーターの床で滑りほぼ逆立ちになるくらい盛大にずっこけていた。
咄嗟に手に持っていた傘と靴の入った袋を後ろに乗っていた彼に預け、少女の肩と背中を支えた。何とか立ち上がらせると、少女は恥ずかしさからか友人と一緒に大騒ぎしながらエスカレーターを降り、一度も後ろを振り返ることはなかった。色々面白くて、彼と顔を見合わせて大笑いした。怪我がなくて本当に良かった。若さって凄い。

それじゃあ明後日、会社でと言って手を振った。もし明日欠勤が出たら呼んでください、と出来るヤツアピールも忘れなかった。

全部、全部全部、忘れたくない時間だった。習慣がないため、写真は一枚も撮らなかったけれど全ての時間を記録しておきたかった。
途中何度も泣きそうになった。楽しくて幸せで、でも儚くてちょっぴり悲しくて。ジョッキを傾けながら、靴を眺めながら、少女を助けながら、泣き笑いのような複雑な表情をしていたと思う。きっと気付いていないだろうけれど、もちろんそれで構わない。

どうか、この文章を読んで死にたくなる未来が来ませんように。

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