サイドミラーの空はピンク
這い上がったのか、それとも勝手に浮き上がったのかは分からない。
二度と思い出したくないあの日々から抜け出して、この暖かい部屋で前髪を切るか悩んだり、マグカップで少し冷めたお茶を飲んだりしている時間を、死ぬほど守りたいと思っている。
10月に職場を変え、数年振りに車通勤が始まった。かつて、全ての幸せを吐き出すほどの深いため息や、理由も分からなくなるほど流れ続けた涙を吸い込んだこの車内に、あの頃とは全く違う自分がいる。
16時半に仕事を終え、職場の駐車場を出る。まだ陽の落ち切っていない空は青く澄み渡り、さあ夕飯は何にしようと考えるのに相応しい。
15分ほど車を走らせるといつもの交差点に出る。赤信号で停止し、何気なくサイドミラーを見るとさっきよりも少し陽が落ちて空がピンクになっていた。夕日の赤ではない、子どもがクレヨンで花の色を塗るときのそれだった。
夫とクリスマスケーキを食べた。一緒に過ごす4度目の冬。
ありきたりな言葉でしか言い表せないのが悔しいけれど、共に過ごす時間が増えるごとに愛おしくて大切な存在になっていく。好きだ。とても。
街灯のない、暗い道を走っていたあの頃。
息が苦しくて、生きることが苦しくて、死ぬために生きていたあの頃。
空があんな色に染まることも、この空の下を誰かと一緒に歩く未来がくることも知らなかった。
今年も一年ありがとう。
美味しい物を食べて、酒を飲んで、これからもくだらない話を。
残り一週間、余力でいきまきょう。