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日本国憲法第五十五条

両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

不公平貯金。今日誕生した言葉だ。

頭がおかしくなりそうだった。何でこんなことに、どうしてそんな風に、と脳内がめちゃくちゃになった。
今に始まったことではない。オンライン授業が始まった昨年の5月から、ずっと抱き続けてきた疑問だった。対面だったら絶対に言わないことを、PCやスマホの画面を通すと急に発することができてしまう。強気な態度、失礼な言葉遣い。もう見たくないし聞きたくない。

結局被害を被っているのは何も言わない、声を挙げない者たちだ。一番の被害者はもちろん先生であり学校側だけど、見たくも聞きたくもないことを無理矢理押し付けられて一体私はどうしたら良いというのだ。
思ったことを脳内で一周させることなく、直接口まで持っていけるような人は、さぞかし気持ち良いだろう。言いたいことを言いたいだけ、何も考えずに好き勝手発言し、全て誰かのせいにして去っていく。残された者は、ただただモヤモヤとした気持ちとどうしてそんなことを言うのだという答えの出ない疑問が延々と渦巻く。




おかしいと思わない?これって私が間違ってる?
本当に、分からなかった。さも当然という顔で正義だか正論だか知らないが、そんなものを振りかざしている人たちを見て、自信が持てなくなった。
久し振りに私から緊急招集をかけた。世界時計を見ると、カナダは夜の8時。連絡をしても非常識な時間ではないだろう。こんな些細なことでも、国境を越えないと話せる友人がいない。いや、逆に国境を越えてでも話したいのかも知れない。

私たちは損をしているよね、とこれまで何度も語りつくした話題だったが、やはり何度でも話したいことなのだ。
‟できるっぽい顔”、‟真面目っぽい顔”。
学生時代からそれでずっと苦労してきた。あの子はちゃんとしてる、言わなくてもできる。そんな風に思われて叱られることもないが褒められることもない。存在が、明らかにならない。
勉強だけでない。全てにおいて、80点を取れるのが当たり前だから頑張って85点を取っても90点を取っても褒められない。だけど、普段30点の子が60点を取れば褒められる。

ヤンキーもギャルも大嫌いだ。見た目でハードルが下がっているから、ちゃんと挨拶をするだけで褒められる。では私たちのように、正しい学生の恰好で真面目に過ごすような子たちは世界の危機でも救わないといけないのだろうか。そんなのあんまりだ。

損得勘定だけでないことは分かっている。自分で選んで真面目に生きているし一生懸命勉強も仕事もしている。なりたい自分になりたいだけ。
だけど、聖人君子ではないからやっぱり周りと比べてしまう。褒められたいし評価されたい。もはや、構ってくれるなら褒められなくてもいいとさえ思う。叱られてもいいから、私を見て欲しい。




生徒の多くが、現状に不満を抱いている。直接抗議をしないまでも、陰であれは正論だと同調している。
いい子ぶっていると思われるかも知れない。それでも構わない。7月にいなくなった先生のことを、私は守ることができなかった。分かっている。私には何もできないし、本当の理由なんて誰にも分からない。
分かっている。でも。死んだらどうするのだ。
この慣れない環境での激務の中、生徒からの心ない発言のせいで学校を去ったのだとしたら、既に私たちは彼女を社会的に殺している。

不公平だ。この世は。

真面目が馬鹿を見る。一生懸命な人が損をする。でも、どうしようもない。
いつか報われるのかな、と彼女は呟いた。死ぬ間際になったら宝くじ当たるんじゃない?と私は笑った。
不公平を積み重ね、積もりに積もった不公平貯金を、いつどこで崩そうかね。


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