ちゃんと今日もお腹を空かしている | ちろ
ここ最近機会こそ減ったものの、好きなたべものは?という質問に直面すると座り込んでしまいそうになる。
思いつかないというわけではなくとにかく無数に、限りなく選択肢が思い浮かぶので困る。そうだなあと場を濁しているうちに、走馬灯のようにあらゆる料理が頭の中を駆け巡っていく。たまに迷わず答える人がいるがうらやましく思う(こないだ友人がライチ!と即答していて微笑ましかった、し、果物なんだな…)。
聞かれるとまず、「味が好きなもの」「食卓に並ぶとうれしいもの」「許されるのであればたくさん食べたいもの」「贅沢する日にしか食べられないもの」「無性に食べたくなるもの」「人前ではあまり話せない好きな食べもの」の6つの壁があらわれる。ひとつずつ答えても良いのであればどうぞお付き合いください。
・味が好きなもの
これはもう言わずもがな、圧倒的にトマト。「トマト味」という言葉が存在するかは分からないけど、あの独自のフルーティーさと絶妙な酸味がたまらなく好きだ。パスタとあわせるのはもう王道として、煮ても焼いてもスープにしてもソースにしてもおいしくて立派だ。口に含むと救われた、と思う。サルサソースなんてもう目がハートの形になるくらい夢中だし、なんならケチャップで味付けされたものも好き。加熱さえしていればどんな状態のトマトも愛せる。加熱さえしていれば。そう、こんなにも愛しているのに、前のエッセイでも書きましたがわたしは生のトマトが苦手です。ほぼ生みたいなもんだけど、何故か湯むきしたトマトはぱくぱくいけてしまう。小学生の頃に両親とよく食べに行っていたソウルのすかいらーくの海鮮トマトパスタの味が未だに忘れられない(2006年に全店舗撤退してしまいもう食べられない)。輪切りのイカやら海鮮類が色々入っていて、ややピリ辛でおいしかったんだよなあ。ちなみに生のトマトが苦手な理由を述べますと、中身のドゥルドゥルさにいつもびっくりするのであまり好きではないです(サルサソースはドゥルドゥル感が薄いので大丈夫、なんだか上から偉そうですね…)。
・食卓に並ぶとうれしいもの
これも限りなくあるけれど、明らかな気分の上がり具合を考えると「マカロニサラダ」が浮かぶ。あと「トッポギ」。子供舌じゃんと思われそうですが、そうなんです。
マカロニサラダははじめてお店(おそらく洋食の付け合わせで出てきていた)で食べたとき衝撃を受けた。ただでさえマカロニが大好きなのに、生野菜とマヨネーズと共にいただけるんですか…?そんなの最高じゃないですか!と舞い上がっていた。家でもたまにつくるけれどレモン汁もしくはスイートチリソースを少量混ぜ込むとおいしい。トッポギは小学生の頃、学校と家の間の道中にちょうど분식점(粉食店:トッポギのような餅料理、揚げ物、麺類、キンパなどが食べられる軽食のお店)があったので、200ウォンくらいで買えるトッポギ(紙コップ入り)をほぼ毎日のように買い食いしていた。自分をつくった食べものをひとつ選ぶとしたらトッポギかもしれない。今度からそう答えよう。要はもちもちつるつるしている食べものが好きなんだろうなと思う。
・許されるのであればたくさん食べたいもの
悩みに悩んだけれど、ピータンかもしれない。京都・出町柳の「中国菜 燕燕」という中華料理屋さんで食べられる台湾ピータンをぜひおすすめしたい。ピータン特有の「卵」っぽさがなく、生姜の甘酢漬けが一欠添えてあって、しかも下に薄切りされたきゅうりと黒酢のソースが敷いてあるのが憎い。そして卵黄が、これまたものすごく濃厚でおいしい。舌なくなった…?!と勘違いするほどのなめらかさ。ゆるされるのであればこの卵黄を一生舌に纏わせておきたい。ゆるされなさそう。ちなみに燕燕さんの湯引きイカの青山椒ソースもね…是が非でも食べていただきたいです。
・贅沢する日にしか食べられないもの
こちらもね、続けて行きつけのお店のコーナーみたいになってしまって申し訳ないのですが、京都市役所駅近くの「カフェビストロ オーボンモルソー」さんのアンドゥイエットを強く推します。ちなみにアンドゥイエットというのは豚の小腸に豚の胃腸と肉を詰めたフランス料理で、ソーセージですね。腸の腸詰め。悪魔みたいな食べ物だなといつも思う。まず皿が運ばれてきたときの空気が纏ううつくしさよ。何を言っているのかわからないと思うのですが、香りがうつくしいです。深い味わいと食感も言わずもがな、噛めば噛むほどいろんな肉肉しさのレイヤーが口の中に広がるので一瞬我を忘れそうになる。
ちゃんと食べ応えがあるのにピュアで、恐ろしく速い再生速度でインド映画を観終わったあとすっきりした煎茶を飲んでほっと一息つくような、あれはなんだったんだ…という現実と夢の間で揺蕩うようなすがすがしさ。香辛料と脂のあっさりとしたバランスが絶妙。つらつら語られるより食べていただくほうが絶対に良いので(百聞は一口に如かず…)ぜひ体験していただきたい。ボンモルソーさんは食事と共に出してくださるパンがとてもとってもおいしい。しかもお持ち帰りもできるなんともありがたい存在…。おとずれるたび背筋がピンとします。
・無性に食べたくなるもの
「王将の餃子」と「サイゼのアラビアータ」のあいだで揺れますが、「サイゼのアラビアータ」を選びます。またしてもトマト料理ですね。はじめの半分はそのまま、後半はセルフの唐辛子フレークとホットソースを山盛りかけて食べる。常人には理解してもらえないほどの量をかけているので、今のところ同居人と心を許した友人らとしかサイゼに行けない。わたしはファミリーレストランが本当にだいすき(王将は違いますが…)。
・人前ではあまり話せない好きな食べもの
こんな第三者の目に触れまくりなところで書くのもどないやねんという感じもしますが。
市販のコーン缶をふたつみっつほど買って、それらを大きめの丼に全部出して、自由に味付けしてレンゲでガッとかきこむ。わたしは出汁醤油+マヨネーズ+柚子胡椒少しの組み合わせがすごく好き。もう無理だ!と家の床で大の字になる寸前などによくつくって食べています。おすすめはそこまでしません。
こうしてつらつら挙げてみたけれど、たぶんその日の気分と気温と体調やらで答えは変わるだろうし、なんだかんだいちばん美味しいのは家のごはんだなと思う。元も子もない締め方だな。
同居人ともよく話すけれど、自分らはわかりやすく食に生きている気がする。日々食べるごはんのために仕事を頑張って、つまらないこと楽しいことをこなして、家事を頑張っているといっても過言ではない。一言でまとめると食いしん坊だ。身体に気を遣って作る料理も、仕事から帰って服も着替えずに作る雑多なごはんも、ジャンキーなもの(最近はきちんと体調が左右されるようになってきたのでたくさんは食べられない)も、誰かにつくってもらうごはんもスーパーに並ぶとりどりのお惣菜たち(いつも思うがコロッケ類安すぎるよね…)も、どれもありがたくうれしく思う。食べることが好きな人と延々とごはんの話をする日を一度つくってみたい。
この文章を書いている今も今日の晩ごはんのことで悩んでいる。もう19時半。ちゃっと台所に向かいたいがあと30分ほどで送り火がはじまる。点火の瞬間だけ見てから考えることにしようかな。
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