映画「ボヘミアン・ラプソディー」-人生というストーリー-

「人に歴史あり」

宮本輝の「オレンジの壺」という小説に、この言葉がでてくる。
主人公が祖父の日記を頼りに、それまで知らなかった彼の人生に触れていく話だ。
これを読んで私は、

確かに、私に私の人生があるように、私の両親や私の祖父母、友人や日々すれ違う人たちそれぞれに、それぞれ違った「人生という歴史」があるのだ!

と気づかされた覚えがある。
私たちは同じ"今"の中で生きているけれど、それぞれにそこに至るまでの過去がある。
私が、この体で、この価値観で、このセンスで生きているのは、過去の積み重ねだということ。そして、それは私でない他の人にも同じことが言えるということ。
私たちは、過去という物語を持っていて、それをいまでも引き継いで続けている、ライブパフォーマーといえるかもしれない。


この冬、フレディ・マーキュリーの伝記的映画「ボヘミアン・ラプソディー」が大ヒットした。最大の見どころは「ライブ・エイド」の再現となるラストのライブシーンで、当時の現場の熱量を映画館でそのまま感じることができる。
Queenの圧巻のパフォーマンスと、それに応える観客の様子に、感動した。

この映画の一番最初のシーンはライブ・エイドでステージに向かっていくシーンであり、そこから回想シーンが始まる。最終的には最初のシーンに追いついてライブが始まるという構成だ。そういう意味では、伝記的映画というより、まず伝説のライブの再現があり、その前座として、パフォーマーの伝記、ライフストーリーを見る作品と言い換えられるだろう。

ライブ・エイドの映画内でのセットリストは、「Bohemian Rhapsody」、「Radio GAGA」、「Hammer to Fall」、「We are the champion」 の4曲。
どの曲もすごく響く。フレディの歌唱に、バンドの演奏に泣きそうになる。

ライブシーンの時点で、観客はフレディの人生について予習している。例えば、彼の孤独だった時期を知っている。そのうえで、バンド、友人やスタッフ、そして当時の観客を巻き込んでの圧巻のパフォーマンスを見ることができる。観客と共に「We are the champion」と歌い上げるフレディを見て、私たちの誰一人として孤独ではないことを知る。

パフォーマーを知ることで、パフォーマンスを奥深く見ることができる。初見のアーティストのライブに行く際に、事前に曲を聴くことを「予習する」と言ったりするが、この映画では「フレディとQueenを予習する」ことができる。
そうなると、曲調とか歌詞とかの表面ではなく、人間としての欲求や感情、思想に対して共感できるようになる。ストーリー構成・演出も計算されているから、なんかもう、"感動不可避"なのである。

この素晴らしい映画から学べることは、

その場の表現だけでは視聴者の心を震わすことはできない

ということだろう。個人の表現が容易な時代の中で、いかに自分のバックグラウンドである過去や価値観まで見せられるのか?が問われる。

故郷や学歴、所属で人を判断する時代は終わって行くだろう。私たちが誰で、どうやってここまで来て、いま何をしてるのか。それを上手に表現することが現代のパフォーマーに求められる。
正直さや誠実さが、それを助けてくれるのではないかと私は思っている。

#ボヘミアンラプソディー #Queen



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