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ドイツでの経験から思う、仕事はただの生命維持活動なのか
ドイツに住み始め11年目を迎えました。この年月の中で、文化や価値観の違いを数多く感じ、それらを自分なりに吸収してきたつもりです。その中でも特に「仕事」に対する考え方は、僕にとって重要であると気付きました。
子供の頃の夢
日本では、子供の頃から「将来の夢は何ですか?」と尋ねられることが多いです。過去には警察官やケーキ屋さん、スポーツ選手といった職業が挙げられてきましたが、最近ではYouTuberやVTuber、インフルエンサーといった新しい職業も人気の対象となっているようです。
しかし、なぜ子供の頃から夢という形で「将来の職業」について問われるのでしょうか。これには、教育制度や国としての構造が深く関わっていると考えることが出来るのではないでしょうか。国家が豊かな社会を維持するためには、国民が経済活動を通じて生産に参加することが必要不可欠です。そのため、教育制度を通じて、職業意識を植え付けることが暗黙のうちに行われていると解釈出来ます。
ただし、この仕組みが十分に機能しているとは言い難いでしょう。日本では、夢や目標を持つ機会は与えられるものの、それを実現するための支援体制には課題があります。特に、家庭の経済状況や教育環境の格差により、夢を諦めざるを得ない若者が存在するのも現実です。このような状況が、夢を「自己責任」の枠内に閉じ込め、実現の可能性を狭めているのではないでしょうか。
ドイツの教育制度
これに対して、ドイツの教育制度は若者の職業選択を支援する仕組みが整っています。進路選択は小学校高学年から始まり、「学業系(大学進学)」と「職業系(専門職)」に分かれます。特に興味深いのは、職場での実地訓練と学校での座学が並行する「デュアルシステム」です。この制度では、若者が給与を受け取りながら実践的なスキルを学ぶことができ、労働者としての権利も保護されています。また、大学の学費が基本的に無料であることも、若者の可能性を広げる大きな要因となっています。
日本では職業訓練制度や教育費の負担が若者の選択を制限することが多く、両国の制度の違いが将来の可能性に大きく影響を与えていると感じます。
仕事とプライベートのバランス
ドイツでは「仕事とプライベートを明確に分ける」文化が根付いています。勤務時間外に仕事の連絡を受けることは少なく、有給休暇を利用してリフレッシュすることが奨励されています。しかし、これは単に「仕事」と「プライベート」を断絶させるという意味ではありません。むしろ、両者が互いに影響を与え合うグラデーションとして存在しているのです。
たとえば、休暇中に得た経験やプライベートでの学びが、仕事の視野を広げたり、職場での創造性を高めたりすることが一般的に理解されています。また、職業選択や働き方そのものがその人のアイデンティティを表現する重要な手段であることが、社会的に認識されています。そして仕事から離れることでリフレッシュし、新たなモチベーションへと繋がっています。そのため、仕事とプライベートは一見分離しているようでありながら、個人の中では自然に交わり、人生全体の一部として統合されているのです。
日本では「有給休暇の取得率が低い」ことや、職場の同調圧力が原因で休みを取りづらい現状があります。この違いは、単に制度の問題ではなく、文化的な価値観や労働観の違いに起因していると言えるでしょう。
ドイツの飲食業と資格制度
僕が働いているリゾートホテルでは、多くの若者が職業訓練を受けています。資格取得が労働者のスキル保証と社会的地位向上に寄与している為、仕事の質を高めるだけでなく、職業そのものに誇りを持つ文化を醸成しています。この背景には、仕事がその人自身の能力や価値観を表現する手段であり、自己の一部として深く結びついているという考え方があります。
仕事とは何か
ドイツでの生活を通じて学んだのは、仕事が単なる生計手段ではないということです。それは自己実現や社会貢献の場であり、個人が自らのアイデンティティを築くための重要な要素です。そして、この仕事への姿勢が、プライベートな時間と響き合い、両者を隔てるのではなく自然に交わらせるという文化を形成しているのです。
このような仕組みを日本にそのまま導入することは難しいかもしれません。そして、そのシステムにも問題は潜んでいます。しかし、教育や職業訓練、労働文化において学ぶべき点は多いはずです。日本でも、仕事とプライベートを分けるだけでなく、互いに影響し合いながら個人の成長や社会的な意義を高めるような労働観を模索していく必要があるのではないでしょうか。