【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㉖
七月。病院の病室。
桃子が寝ている。
「だいじょうぶか」
うん、と頷く桃子。桃子桃子、ももももも。おれの妹。
顔色がいい。きれい。人魚姫みたい。
「JJ、ごめんね」
「なんもなんも」とおれ。「もも、もももも、よかった。ありがとうな」
と言っておれは、桃子のほぺたを両手ではさんで、むにむにとした。
目線が、若干よわい。笑ってもいないし、笑ってもいないこともない目。桃子。桃子。だいすき、とおれは思う。
看護婦が咳払いをして、去っていった。
ふたりきり。やったー。
🍑
義兄妹(ぎきょうだい)になろう。
とおれは言おうとした。だけど、ことばにならないわけ。
もも、もも、ももももおももも、まももももも、ここここ、ごごごごご、のののの、ほほほほほほ、よよよ、をををおおお、みたいな。
みみみみみ。
ま行と、母音お、ばかりになってた。
桃子の耳。目。桃子の目。かわいい。きれい。うつくしい。
桃子の花。くちびる(←ま行、母音お、ではないパターン)
あああ、あごー。そのあご、すきな。それ。な。
桃子ももこもこもこももほほほほ、すきすき、つけまつげ、してないのになんでこんなにぱっちりおめめ。ももももも。はなげもないな。もももも。
うぶげもすっきだよ。ずっともな。もももも。
おれは、おもったし、思う存分唱えた。
「もううるさい」
とは桃子は言わなかった。ほほえんで、おれを見てた。ずっと。一挙手一投足を。
すきなひとにみられているので、おれは、充実していた。
ことばも、どうさも所作も、なにもかも元気。
おれはうつくしかった。それがわかったしそれがうれしかった。
そしてなによりも、それよりももっと美しい存在が体外にあるのが、きせきみたいに、こころのそこからうれしくて、感動した!
いっとくけど、これは惚れたはれたではないよ。恋でもないし。
愛に近いかもしれぬ。
男女間のではないぞよ。そういうのではない。
そういうのあるじゃん。知らない?
もったいない。人生の99.9999999パーセンツを知らないとゆうことだよそれは。
言い過ぎ。
杉山一太(すぎやまいった)
言った言わない。
どうでもいい。もももももももも、ももこちゅわ~ん。と言っておれは桃子の目尻を指でぬぐった。
ぶっ倒れるぐらいの、かすやかな、夏の花の芳香がした。
本稿つづく
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