【スケッチ】不登校ここの部屋⑱ときめきに死す
おとうが好きだという『ときめきに死す』という映画を観ました。ヴィデオで。沢田研二が主演で、監督は森田芳光です。原作は丸山なんとかいう人。だれ?
うちがこの作品で気に入ったのは、海辺のペンションのような宿泊施設で主人公がステーキを食べている場面です。なんとなく冷えてそうなステーキであんまりうまくなさそうです。それを主人公はもぐもぐ食べるのです。
うちは小さな頃、おとうとおかあに連れられてステーキ・ハウスに行ったことがあります。中部の。そこでうちは生まれて初めて黒人という人種を見ました。黒くてびっくりしました。
ステーキ・ハウスは地下にあり、昏かったので、そのくらやみにその黒人兵士が浮き上がるようで、怖くてうちは泣きました。それからチリ豆のスープをのみ、固いサーロインステーキをおかあと分けて食べました。
うちは沖縄の女なので、肉といえばやっぱり豚が一番好きです。つぎに牛肉。おかあは九州出身なので鳥肉をもっとも好みます。あと魚。牛はあまり好みませんでした。獣の臭いがするそうです。そうかな?
うちと凪子ちゃんと桃ちゃんは、年が明けても学校には行きませんでした。JJはちゃんとJT小学校に通っていました。結局南極、うちも凪子ちゃんも、凪子ちゃんのお母さんも、桃ちゃんもJJも、うちの家で暮らしていました。
うちの家はS中の向い、環状二号線沿いにありました。学区的にはJJはたぶんJS小学校でしたが、そのまま東の、坂を下りたところにある小学校に通っていました。
東のあたりは弁ヶ嶽もちかく、団地もあり、殺伐とした所でしたがJJは根気よくかよっているのでした。
そしてうちらはのうのうと、広いリヴィングでチートスなどを齧ったり、とんがりコーンを指にはめたりなどしながら昔の映画を観ていました。
『赤い髪の女』という日活ロマンポルノも観ました。
「こんな風にヤられたいわねえ」
と凪子が言いました。
そうか?と思いました。
うちら三人の女子はどろどろになって、リヴィングのソファに貼り付いて溶けてゆくみたいでした。
すると、家事をしている凪ちゃんのお母さんから、薬物中毒者であった頃の話を聞いたのです。
「あのころ、私は看護師で、どんなスリク(薬)でも手に入れられる状態だったの」
と凪母は言いました。
本稿つづく