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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑦

 文章というのは、不思議なもので、自分勝手に書いたはずなのに、書き上げると誰かに見せたくなる。

 いま、平成四年の夏に書いているおれが、未来のおれに書いているように。

 一気に参号まで書き上げて、おれはこれを、衆目に晒そうという気分を抑えることがどうしてもできなかった。

 おれは職員室に行った。「失礼します! H先生にいわれて、コピーをとりにきました」

 と言った。

 H先生というのは古文・漢文の先生で、おじいで、禿げていた。

「あー、はい、どうそ」

 と、職員室にいる先生にゆるされて入室し、おれは『シークレット・オブ・マイ・ライフ』の壱号と、弐号、参号をそれぞれ、三十枚ずつ印刷した。

 そして、その三十枚を、まず、放課後、校内のあちこちに貼った。廊下とか、トイレの壁。女子トイレにすら入った。使命のためには躊躇うことがなかった。

 おれは自分の書いたもの……果たしてほんとうに自分が書いたのかもよくわからないこの文章の価値を、理解していた。

 これは、読んでもらわないといけない。

 S高には全校生徒が1,800人ほどいた。うじゃうじゃと、いる。渡りに船だと思った。おれは700人ぐらいを念頭に書いていた。そのうち300人に読んでもらおうと思っていた。その人たちが、読めてくれたら本望だと、本気で思っていた。

シークレット・オブ・マイ・ライフ 壱号

私のなまえはK。
まちがいばかりをしてきた。

小学校四年生のとき、いまとなってはどうしてそういうテンマツになったのか忘れたが、「やー(おまえ)胸とがってるな」とクラスの女子にいった。おめ子という女子だった。
「はあ? すけべ」とおめ子はいった。
「え?」と私は思ったし、言った。
すけべという意味も、よくわかっていなかった、そのときは。

みけんにしわが寄っているようなおめ子の顔が、ふっとゆるんだ。
なんとなくバカにされているな、と一瞬思った。
「見たいの?」とおめ子が言った。
「え?」と思った。見たいと思った。

「いいよ、来て」
と、おめ子が言った。
連れられて、教室の後ろのドアののところに行った。そこはついたてのような壁があり、後ろのドアののぞきガラス以外には、どこからも見られないようなスポットであった。

おめ子はシャツをあげた。
シャツのしたには下着があり、異様にふくらんでいた。
「はい、見て」
とおめ子は言った。
見ているが、と私は思った。

「下着あげればいいさ」
とおめ子は言った。
おまえがやればいいじゃん、と思った。
私は、おめ子のお腹を下着の上からさわって、半ズボンから下着の裾をだした。そしてあげた。

枇杷のようなかたまりがあった。ふたつ。ぼつぼつしている。皮ふが。
「へんと思う?」
おめ子が言った。
へんも何も、こういうのは初めて見るので比較対象がなかった。
「さわって」
と言うので、さわった。固い。思ったよりも。
痛そう、と思った。
「これ、大きくなるわけ?」と私はきいた。
「たぶん」
と、おめ子は言った。そして下着と上着をさっとおろし「おわりっ」と言った。

シークレット・オブ・マイ・ライフ壱号


本稿つづく

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