【掌編400文字の宇宙】汚言症
心太郎は北で生まれた。弟もいた。心太郎は頭がよく、弟は恰幅がよかった。生まれつき。
人間頭がよいと、まず言葉を多く覚える。善いことばも悪いことばも。心太郎は兎に角頭が良かったので、自分よりも知能の劣るものは馬鹿だとおもった。あるいは弟のこともそう思っていたのかもしれない。
ある日東京で雨が降っていたのでそれを見た心太郎の弟は「兄さん、あめが降ってきたよ」と言った。
聞いて、馬鹿じゃないのかと思った。言わずもがなであるからである。
強い雨だったので、こういう場合は驟雨というのだ。と思ったが口には出さなかった。言っても誰にもわからないからである。
家族はみな馬鹿である。心太郎は孤独を感じた。
長じて、心太郎は女を犯すことを好んだ。女というのは犯されてもよろこぶので馬鹿だなあと思った。
弟は出世して太陽みたいになった。しかし馬鹿のままであった。
心太郎はいま地獄にいる。しかし馬鹿のままである。
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