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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㊿
もう飲みすぎだろう、と思う。
若いころの、子どもの桃子はそういう飲み方をする。まだ酒ののみ方などわからないのに。案の定、二本目をのみはじめて、桃子が目をぐるぐるまわして、泥酔した。
うっとおしいな、チッと思った。
「かえろう、桃子」
「うわ、あー」
「おまえ、明日東京行くんだろ。何時の飛行機?」
「JJ、きもち、わるい」
「吐くか? 外、そとにでよう。ここで吐くなよ」
引きずるようにして桃子を外に出し、トイレに連れ込んで便器の前に座らせた。びちゃびちゃ、びちゃ。桃子の肩と背中が痙攣している。アホだなこいつ、と思う。
「ああ、はあ、ああ……」
「だいじょうぶ?」
「うん。ごめんね」
「うん。もう行こう」
店を出て、すぐまた桃子は嗚咽しだした。フェンスに寄りかかって真嘉比川に向かって嘔吐する。おえええ。おえ。おえ。ふらふらして、真後ろに倒れそうになるので抱える。おえええ。おえええ。とまだ吐いている。桃子の上半身前面がべとべとに汚れる。すっかり吐いて、桃子は地面にべったりと座る。
というか今何時だろう。空は真昼のように明るい。ようにというか、まだ昼だ。北のほうが急に暗くなってぼつ、ぼつと雨が落ちる。そして激しい雨となる。南の、上の毛(うぃーのもう)は日差しに照らされている。カタブイだ。おれたちはびしょ濡れになる。
「JJ、あの子がいる」
「え、」
「いるいる、ほら、そこ」
「どこ?」
鳥堀十字路から、また逆の本通りのほうから車のヘッドライトが輻輳している。落ちる雨に反射して、光の粒があちこちにある。
「JJ、おねがい。あの子になまえをつけて」
「え、なに」
「わたしにはできないの。おねがい、あなたにしかできないの。おねがい」
「え、えーっと、」
どこに居るんだよ? おれには見えない。
「あ、行っちゃった…」
雨雲は去り、日差しが戻った。夜になった。
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本稿つづく