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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㉛

 桃子とようやくレンラクがとれた。向こうから電話してきた。

 桃子、行かないで。

 うーん。

 何で東京? ここに居ればいいじゃん。

 行きたいの、東京。JJは東京行きたくない?

 全然。おれ、死ぬよ。死んでしまう。

 うん。

 行かないでよ(鼻をすする)

 泣いたふりしないで。

 (泣くふりやめる)なんで?

 わたし大学行きたいの。佛教大学。

 仏教? 尼さんになるのか?

 ううん。小学校の先生。

 ここにも大学あるじゃん。

 佛教大学に行きたいの。

 小学校の先生は、そこに行かないとなれないのか?

 ううん。

 じゃーなによ。

 その大学に行きたいわけ。

 東京にあるの?

 ううん。京都。

 え? なにそれ。意味わからん。

 JJも東京に来てよ。

 うん。行く。いっしょに行くよ。

 いやいや、高校卒業してからにしてよ。あ、でもそのころは京都にいると思う。

 じゃー京都行くよ。

 うん。来てね。

 いく。絶対に行く。

 うん。来て。

 桃子、会いたい。

 うん。

 いま家?

 ううん。T団地。

 公衆電話?

 そうそう。

 すぐ行く。

 おれははやてのごとく家を出た。桃子がいた。

 居酒屋に行った。居酒屋AB。

 おれはルービー(ビール)をのんだ。桃子は炭酸水。4時間ぐらい居た。おれはめずらしくたくさんのんだ。

 一木造りのカウンター・テーブルばかり見ていて、桃子の顔はまともに見られなかった。だから、その日桃子がどんな顔をしていて、どんなに美しかったのかは全然覚えていない。

 というか見ていないから、そもそもわからない。

 おれはめちゃくちゃに酔っ払っていたので、桃子に肩を抱かれて、帰った。桃子が送ってくれた。

 帰ると、親父に怒られた。

「おい、外でのむなつったよな。ガキが。ころすぞ」

「ごめんなさい」

 といっておれは無表情だったので、なんだこいつ?という顔になり、父は黙った。

 おれは階段をあがり、布団にぶったおれた。

「歯磨きしなさい。JJ」

 と母ちゃんが叫んでいた。

「わかりました」とおれは言った。

 わかりました。うん。わかりました。

 おれはつぶやいて、すぐ眠った。

本稿つづく 

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