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【スケッチ】不登校ここの部屋②居場所
不登校というのは、ときとして不必要という場合がある。要するに行くひつようがないから行かないということである。
ここは集団の中心的存在と折り合いが悪いというかディス・コミュニケーション状態だったので、自然と周縁の、落ちこぼれたちと気が合った。
この落ちこぼれというのは本当の意味で故障品みたいで、常識から見てなんでこんなに頭が悪いんだろうというような存在である。
同じクラスの凪子(なぎこ)もそういったタイプで、入学式にかみを金髪に染めて、ドラキュラのようなネイル、丈を詰めて臍がみえるセーラー、スカートは膝の上十五センチだった。そういった格好で体育館(式場)に入場してきたのでどよめきが起こった。
凪子の家は貧乏だったので、なんとなくゆるされた。
許されたというかおそらく頭がおかしいということで特別学級に通うことになった。この、特別学級というのは少人数で先生の目が行き届くのではじめ凪子は居心地よく過ごしたらしかった。
しかし、担任のヤラ先生(サッカー部顧問)に「1500円であたしのからだ買ってよ」などと言い出し、愛想を尽かされて普通クラスに戻ってきた。
ここが学校に行かなくなった頃、凪子も、というか凪子はもうずっと前から学校に行かなくなっており、年を偽ってローソンでバイトをしていた。
ある日、ここがローソンに行くと凪子がいた。
「ここちゃん」
と凪子。
「ああ、なぎちゃん」
ふたりは小学校がいっしょで、知り合いだった。
「あのな、この肉まん時間過ぎたから捨てるんだけど、もっていって」
と言って凪子はここに肉まんを九個上げた。ここは、一番くじを二回してから帰った。
「なんでこんなに肉まんがあるん?」
と、お父さんがいう。
「ここがもらってきたのよ」
とお母さん。
「どこで?」
「あの、あっち。なんだっけ」
「ローソン」とここ。
「ふーん」
と言ってお父さんは肉まんを二個食べた。お母さんは三個。
ここは四個の肉まんを食べ、その夜は寝付かれず、夜中に起きてトイレで吐いた。
お母さんは家族会議の招集を求めていたが、「別にいかんでもいいよ」というお父さんの意見で会議はひらかれなかった。
確かに。
別に行かなくてもいいのだ。
「日本人の英語力は、国際的に見ても低いらしい。なんでか分かるか?」
「どうしてかしら」
「イランからよ」
「はあ」
「日本語だけで、何とかなるやろ」
「はあ」
「だからイランのよ。仮に必要となったところで、英語なんて、あんなアホみたいなことば、すぐ使えるようになるわ」
「そうかしら」
「そらそうよ。あのな、二十六文字しかないんやぞ」
「そうなの?」
「そうよ。数えてみい。えー、びー、しー、でー……」
「あら、ほんとだわ」
「そやろがい」
「わたしもはなせるかしら」
「うん、うん。すぐよ」
「そうね」
ここの家には雌の猫がいて、このねこが夫婦の会話をきいていた。
本稿つづく