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【連載小説 短篇予定】美の骨頂②話し方のむすびについて

 ほんとうの苗字は乳之上(ちちのうえ)というのですが、おとう(父)が「上というのはなんか、えらそうだし、娘がそのまま戻ってこない感じがする」という理由で、うちが上京するまえに久米の三人家族は乳之下に改姓しました。

 首里のおじいは絶句して、激怒しました。

「お、おま…っ」

 と言ってというか、ことばになりませんでした。

「ばかたれがっ」

 とおばあが一喝しました。「え?じゃーなに、墓どうするの。彫り直すわけ。トートーメー(位牌)は。おい、へい、よう。あんた、ばっかじゃないの」

 おかあ(母)はその時仕事でいませんでした。

「あのなあ」とおとうが言いました。

 上も下もカンケーない。同じ。ためしに横にしてみ。右か左さ。いまは左車線だが、あなたがたは右しゃせんのころから運転してただろう。それがある日突然かわってウン十年、何か不都合があんのかい。あるというならそれがどんなもんで、どう不具合があるのか、つらつらと語って、説得してみろ。その話に納得できたら、おれも考えを変えるであろう。

「はあ?」とおばあ。

 天知る、地知る、我知る、子知る。ようするに何でもかんでもオミトーシとゆうこと。したらなんか。わったーとこは、天界の住人とでもいうのかね。はっ。ごめんだね。島は地にあるんだ!

 おとうは声を荒げました。

「え?……」

 シーンとしました。

「いや、あの……な」とさっきまで顔真っ赤にしていたおじいがこんどは真っ青になって「墓はどうするわけ?」

 あなたたちはね、安心して、乳之上ではいればよろしい。あたしたちはね、まだ時間があるから、ゆっくりかんがえるさ。上にもどすもよし、下のままでもよし。そもそも死人とゆーのは地下に埋まるものだろう。そんなこともわからないわけか。それともあれか、そんなにかんたんに、天上世界にいけるつもりでいるのかのん気なものである。

 シーンとしました。

 おとうは一万円札を取り出して、「はい、これだれですか」と質問しました。

 誰もこたえませんでした。

「あせこ、これ誰?」

「ふくざわゆきち」

 そーゆーこと。

 と言っておとうはその札をうちにくれました。

「ジュースでも買いなさい」といって。

 男の人がべらべら喋るときは、注意が必要です。自信確信が無いことの裏返しです。「絶対に」とか「必ず~します」と言う時は、きっと殆ど約束を守りません。男に二言はあります。三言四言両隣です。演説口調になる時は必ず何かを隠しています。断言するときは、ぜんぶ嘘です。

 逆に。

 あーはいはい、とか、分かったわかった、と話半分でいうときは安心です。約束を守る可能性が非常に高いのであります。

 男の人は、いい加減な生き物です。

 本稿つづく

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