【スケッチ】不登校ここの部屋⑥薬指の無い王族
バツンッ
と音がして左の薬指が切り落とされた。これまでのしがらみを解消するための儀式であり、自分や、その周縁のひとびとに対するめじるしでもある。
もちろん、ここのことではない。ここの祖父で、付近一帯の土地持ちの家柄で、王のようにふるまった男の話である。
「じゃあ、おまへは帰るんじゃの」
「はい」
「この指は、ワシの骨壺に入れる。なんというに、おまへとワシは義兄弟じゃからの」
「はい」
というわけで二十五年ぶりに帰郷したここの祖父はようやく落ち着き、養子(ここの父)をとり、この養子が妻を迎えてここが産まれたのである。
「ユウさん、ユウさん」
といってここの母親は義父にしなだれかかる。どうも、ここは祖父に顔かたちが似ており、おそらく血はギフにあると思われる。
ここの祖父は、ここを目に入れてかきまぜても全く無痛なようにしてここを可愛がっている。凪子のこともかわいがる。なんとなく、凪子も祖父に似ており、ぶっちゃけ腹違いの姉妹ではないかというカンジがする。
こういうことは往々にしてよくある。
四郎というのがここの父の名で、どこかの四男で医者である。県立南南東病院の病理課に勤務していたが、いまはやめて企業アドヴァイザーをしている。男兄弟ばかりで育ったので無論同性愛者になり、いまはゆきむらゆきひこという男と付き合っている。遠距離恋愛。
「あの墓いこう」
と凪子。
凪子とここは墓に行った。
向いのローソンに行ったが、桃子はもう辞めていた。
「逮捕されてな、おれが」とローソンの店長が言った。「あのももこというは、27歳だといっていたが、じっさいは14歳だったわけよ。というわけでゼンカモンになったわ」
とローソンの店長。
「あの、ももちゃんと弟さんは、いま玉那覇さんのアパートにいるよ、ほら、向かいの」
とのこと。
アパートに行くと、玉那覇さんというのはおばさんで、看護師であった。実の息子もおり、同じく14歳で、というか、あいつだった。野球部の、あいつ。
「ここ、どした、おまへ」と野球部。
「ももちゃんがおるから」
「凪子もおるし」
「ももちゃんは?」
「空き缶拾いに行ってるわ。アルミ缶拾うんだって」
「ふーん」
「弟も?」
「うん」
「おかあさんは?」
「夜勤じゃ」
「ふーん」
「あがっていい?」
「うん」
というわけでうちらは、マリオ・パーティをしました。うちと凪子ちゃんは夜中までやりましたが、野球部はすぐ、規則正しくねました。
朝方、那覇市指定ゴミ袋四つぶんの袋をアルミ缶でパンパンにして、桃子と弟(JJ)が帰ってきました。
本稿つづく