【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑯
学校に戻ると、校門の坂をバスケ部がダッシュしていた。ゴリラもいる。
「おじょう! JJ! セイサク! かめ!」
とゴリラはダッシュしている。
ばーっと雨が降る。おれたちも走って校舎の蔭にはいる。首里のにおい。
大きなカジュマルの葉にばた、ばた、と落ちる雨音。
晴れる。
おれたちは一年七組の教室に行った。
「あのひとだれ?」とおれ。
「ももこよ」とお嬢。
ももこはサーダカ生まれ。幽霊が見える。S高にはゆうれいがたくさんいる。ももこの机には、幽霊がすでにすわっていた。ももこはだから座れなかった。ももこは、がんばるためにビールをのんだ。のんで、学校にきた。
学校ではのめないので、がまんできなくなる。だから、水筒に泡盛をいれてもってくるようになった。朝ビール。登校。霊平気。酔っているから。
覚めてくると、水筒の泡盛。平気。霊とかどうでもいいかんじ。また覚めてくる。水筒泡盛。平気。平左。愉快。痛快。泡盛。無敵。
アル中。
というかアルコールくさすぎる。生徒指導。父子面談。退学。
お嬢はバカだが、話はうまかった。要点をよくおさえており、無駄がない。川みたい。
「おじょう、金かえせよ」
「え、いくら?」
「えっと……」おれはもう忘れていた。というか覚えているのだが、面と向かってきかれると、有耶無耶になる。
「あたし、もう覚えてないんだけど」
「うーん」
7組の教室の天井には、六台の扇風機がついていて、スイッチは、強。
校舎はボロいが、なぜかS高の場所は風がとおる。雨、曇り、晴れ、天候はめまぐるしく変わる。
道路の向こうは晴れていて、こちらは土砂降りということもよく起こる。カタブイ(片降り)という。
天気も、記憶も時間も、一か所にかたまって、余白がある。
余白があるので、話す時間もたくさんある。
「おじょう、おじょうって那覇の人だよな」
「はい。そうよ」
「じゃああの、さっきの女も同じ中学なの」
「いや、ちがいます」
「どこのひとなの」
「しらない」
「え、じゃあなんでしってるの」
「なにが」
「しりあいなんでしょう」
「あ、はい。高校にはいってからね」
「どこの人なの、あの」
「知らないってば」
また、雨がザーッと降った。
本稿つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?