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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑫

  おれは鼻がのびたような気分になった。

 女にモテるよりも、ずっと、ずっとずっとうれしかった。

 おれの書くものを、たのしみにしている人がいるのだ!

 と思うと、充分なような気がした。だって、その場限りの十数分のあれとはちがうわけな。文字は、千年先にものこる。可能性がある。それをおれは生みだしてる。と思うと、マジで卒倒。ソッコー。

 思いあがっていたので、もちろん失敗した。高くなった鼻で書くようになったので、書きにくかったし、邪魔だったね。今思うと。

 おれはうそを書いた。うそをつくのは得意だった、と思っていたし。たぶんでも、ちがうんだよねー。うそはうそ。バレバレなわけ、な。

 おれはセルフ・ブランディングというか、そんなことばは1991年にはないか(笑)、ビッグ・ポーズというか、梅の香の月みたいな、そういううそを、うそばっかりを書くようになったわけ。

 サービス精神のつもりでもあった。読者をもっとたのしませたかった。おれはわるくないと思う。勿論、読者もわるくない。全然な。

 だけど、その結果生まれたのはつまらない文章だった。

 四号は、すごい売れた。

 おれは個人的に売ることにしたわけ。SoMLを。ソムル。シークレット・オブ・マイ・ライフ。30円。

 飛ぶように、というわけでないけど、一日四枚ぐらい売れた。120円。30円を足せば、購買でタコ・ライスが買えた。

 濡れ手に粟。

 おれは、父母から、500円もらってたわけ。昼飯代に。日にど。父母は、バブル経済におかされて、それぐらいは掛かると思っていた、みたい。

 500円て!

 その頃、500円をもっていれば(しかもいちにちで!)、S高界隈では、貴族か華族みたいなものよ。バブル経済はすでにあやしくなっていたけど、まだまだ、庶民は浮かれていたし、金も実際問題あった。うるおっていた。それなりに、それぞれ。

 ていうか経済というのは……やめておく。

 しっぱいの話。

 結局南極、うそは通用しないわけね。SoML(ソムル)は日を追うごとに売れなくなった。五号、六号、七号と出たが、ぜんぜん売れなくなった。まわし読みをしていた可能性もある。と、思ったが、そういうことではなかった。

 熱気は去った。まだまだ夏なのに。おれは飽きられたわけ。

 八号は一枚もうれなかった。ちな(ちなみに内容見本)↓

◎四号 初めて彼女ができるJJ。クリスマス。初デート。色々あり、キスするのか、どうか!?

◎五号 デート・ドラッグをつかって、彼女を凌辱。二回、中に出す。彼女は昏睡。すっきりして、これでいいのかと思うJJ。

◎六号 彼女に興味をなくす。クリトリス・ブラックとの再会。ゲーセンで。対戦ゲームをしていた二人は、やがて、第三次世界体戦へと。アナル。

◎七号 JJ、突如としてゲイであることを告白。アイ・ワズ・ゲイ。ゆきずりのおっさんと、池のほとりで……。

◎八号 JJ四歳。宇宙人に誘拐される。クリスマス・イブ。亀甲墓のある丘の、墓のうしろにまわると、大草原があった。白い大草原。ここはどこ、わたしは、だれ。気がつけば春がちかい。(渾身の創作であったが、一部も売れなかったし、必然的にだれも読まなかった)

 一番の、自信作だったのに。

 でも、おれが悪いのだ。悪かった、んだろ?

本稿つづく

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