【連載小説 短篇予定】美の骨頂㉓Grammar...分かるでせふ、黄金比は文法にある、乳首の色は長雨に失せにけり、ではない!
うちの顔は、平安美人風ではなく、天平的でもなくバイカル湖周辺の洞窟画のようでもなく、どちらかというと普通です。フツーというのが何なのかとゆうのはかなりな難問ですが、要するに最低限の文法を守っています。
顔というかカラダもそうです。
文法というのは時代とともにすこしずつというか、劇的に変わったりかわらなかったりして、ボキャブラリーもその定義を交差させて質的にも表面的もヘンゲします。
思ったんですが、グラマーというのは、要するにその時代の好奇にあり、またゴミ捨て場のノートの束が次の時代の最先端、周回遅れの逃げ馬であるばやいもあります。
うちは服を脱ぎました。鏡もない部屋で。スマホのカメラを内側にして、連射。乳首を照射。
見てみると、まあ、乳はおかあのほうがあります。はっきり言って。おかあ、ウィン。
しかし、腰から下はいい感じです。現代文法、あるいは氷河期以降の流行の安山岩。陰毛は濃くもなく薄くもなく、玄武風。ジュラ紀。フサフサ、つるつる期。ハゲマル。ピカ。チェキ。鍋の中。イケてる水死体。
「あせちゃん」
と呼ぶ声あり。慌てて服を着にけりな。画像全消去。階段あがってくるアガルタ・ジャーガル。伯母さんです。
「なにですか」
「おきゃくさん、キテルヨ」とアガルタ。
「だれ?」
「職場のヒトヨ」
おりてゆくと、あれでした。だれだっけ? えっと。
「凪子ちゃん。どうした?」
「どうしたじゃないよ。あせちゃん、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶさ」
「心配したよ」
「なんで」
「連絡もとれないし」
あ、とうちは気づきました。うちのスマフォは充電先を失って、そのままホーチ・ミン状態でした。
「めんご……ごめん」
「もう」
「バスで来たの?」
「うん」
「西武バスでしょう」
「うん」
うちと凪子はそのまま家を出て石神井の池の周りをうろつきました。捕まったのは、池の西の屋台というか店です。
凪子はメロンソーダ、うちはビールと熱燗を同時にのみました。
筆ペンで、勝手に店の壁に、
かぜのやうにどんどんガララ雌二匹
と書こうと思いましたが筆ペンを誰も持っていないのでやめました。その瞬間、
「なにをしにきているのか」
と思いました。
夕飯は凪子と東京の家族で五十畳のすっからかんのリヴィングでとりました。凪子の存在はもうその晩から欠かせないものとなりました。
うちと凪子は一緒に風呂に入り。そのまま石神井の屋敷で寝ました。
「あんたたち、よく似てる」
とお祖母ちゃんは言いました。そりゃそうだろ、うちは思いました。
凪子は生まれなかったうちの姉、或いは妹のようでした。
その夜、うちとなぎちゃんは一緒の布団、というか並べた布団で川の字の真ん中が無い状態で寝ました。
登場人物をあらかた忘れていたので、話を合わせつつ、裏を取って、もっと話せるように稽古をしました。いわゆる反芻です。メタンガスの問題もありますが、大事なのは話し続けることです。
「うちの話のとうじょうじんぶつは、今何人いる?」
必死に指を動かしながら聞きました。
「八百人」
となぎちゃん。
「あと、八十八人」
えー。
「気にしないでいいよ。誰も覚えていないから」
「ナギちゃん、ここに住んで。この部屋に」
「うん」
「お願いだから。いっしょにいて」
「うん」
「鷺宮には二度と戻らないで」
「うん」
本稿つづく