【スケッチ】不登校ここの部屋③墓場
夜、墓場にふたつの影があった。凪子とここである。
この墓場は弁ヶ嶽のちかくで、向かいにローソンがあった。凪子がアルバイトをしているローソンとはちがう店舗である。
ふたりはパックのアップルジュースをのんでいた。
「ここ、誰の墓なの?」
「知らん」
墓の、同じ敷地に他に二人の影があった。どうも姉妹らしい。だから都合四つの影があったのである。この墓には。
「凪ちゃんのお母さん、占い師しとるやろ?」
「うん」
「うちも占って欲しいわ」
「だいじょうぶよ」
「え?」
「占ってほしいと思ってるなら、だいじょうぶ。と、お母さんが言ってた」
「ああ……なるほど」
「なんとかなるよ」
「うん」
ごそごそと別の影がうごいて、手持ち花火にひがついた。
パッ
とあかるくなり、別のふたりの顔がちゃんと見えた。花火をもっているのは女の子で、小学校3年生ぐらいだった。
「あ」
「あ」
もうひとりの顔は、桃子だった。
「モモちゃん」と、うちと凪子は同時に言った。桃子がこっちに来た。
「どうしよろーが。なんね?」
と桃子。
「あんたこそ」と、うちと凪子は同時に言った。
「あれ、妹ね?」
「弟よ」と桃子。
「おんなと思った」
「髪切っとらんけ。みなおんなとおもっとるわ」
桃子がわらった。酒のにおいがした。
「ここ誰の墓なん?」
「知らん」
そのあと、四人で弁ヶ嶽に肝だめしに行った。森のなかは異様に冷たかった。
「かえりたい」と桃子の弟がべそをかいた。
「かえりたいて。あんたな、かえるとしても墓場よ」
「おはかがいい」と桃子の弟がべそをかいた。
「あのなあ、そんなの、そのうちすぐ入れるわ」
「ほんと?」
「そうよ」とうちら三人は言い聞かせた。
◆
「なんとかなるよ」
ここと凪子、桃子とその弟は夜の弁ヶ嶽を探検して、また同じ墓場に戻ってきた。
「あたし、ここでバイトしてる」
と言って桃子は墓の向いのローソンを指さした。
「わたしは、あれ、汀良の十字路のとこのローソン」
「ウケる」
「ここちゃんは」
「うちはしとらん」
「ここちゃんとこ金持ちやもんな」
「モモちゃんとこも、お父さん医者じゃろ」
「そうや」
「じゃあなんで?」
「なんでもかんでもあるかい。いやなもんはいやだし」
「たしかに」
ウーンッッ
急にパトランプが回転した。四人の子どもたちは潜水するイモリのように闇の中に消えていった。
バタン。
ドアから男が出てきた。顔がローソンの照明にてらされている。
「ここが、その墓か」
丸眼鏡。顎鬚。
「そうよ」
背後に金髪の女。
「ここが、あいつの墓なんだな?」
「そうよ」
本稿つづく