【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日(75)My Life as a Dog
轟音。
ヘリの音だ。交錯するライトの線。
なんだおい。赤ん坊が起きるじゃねえか。いや、今はここにはいないんだ。どこにいるんだっけ? おぼえてる人います?
軍靴が港町の地面を駆ける。
「ここ、ここだ(アメリカ語)」
道路に面したスノー・ガーデンがアーミーに囲まれる。港側の窓も。照明が店内に差してくる。
乱暴にドアを開けてフェラチオ・グッドマンが入って来た。
「あの男は?(亜語)」
「わかりません(亜語)」とおれ。
わう!わう!わう!わう!わう!わうわうわう!
犬を連れた兵隊が数人店の中に。さわがしい。かしましい。
シェパードだ。でかいし、めちゃくちゃに興奮している。変な薬でものんでいるのかね。
わう!わう!わう!わう!わう!わうわうわう!
犬をを引く兵隊の中には女もいる。クリスかと思ったが違う。よく見ると、若い。というか子どもである。中西部から、わざわざ。ハイ・スクールを今年卒業したのと違うかな。ご苦労様って感じ。
女の引く犬がおれの足もとにきた。ふっふっふっ。としきりにおいを嗅ぐ。犬と目が合う。
おまへ、じゃがいも(実家で昔飼っていた犬)の生まれ変わりでは。いっしゅん思う。目つきが似ている。いたずら好きな、無邪気な目。
そんなわけないか。
わう!わう!わう!わう!わう!わうわうわう!
じゃがいも風の犬は吠える。
「あの男はもう一度戻ってきたのね。それで?」
中西部の高卒女は中々優秀みたい。
「へえ。でももうどこかに行きましたです」
「何か言っていったか」とミスター・グッドマン。
「え、えっと。あの。何だっけ。いつか、あれ、だっかたな。あ、十何年後かにまた来ると。そんなかんじな」
「ワット?」
「そう言ってましたです、はい」
「クソ。そうか」
ミスター・グッドマンはどこかに電話をかけて、亜語特有の訛りのつよい早口で何かしゃべっていた。ぜんぜん聞き取れない。
電話を切った。
「オー・ケー。それで、あのベイビーは? あと、母親は?」
「あ、はい」
「病院に行ったほうが」
「あー、はいはい。行きました」
「そうか」
グッドマンは店内を見回してため息をついた。
「帰ろう。少年、少女たちよ」
グッドマンとアーミーと犬は出ていった。ひゅんひゅんひゅんひゅん。
INU、と思った。
じゃがいもは今どこにいるのだろう。どこで死んだんだろう。
とゆうのも、実家の犬はある日家の門の隙間から抜け出して、こういうことはよくあったのだが、そのときはもう二度と帰ってこなかったのだ。
轟音。ヘリが離陸する。
できうるならば、もう一度じゃがいもに会いたいとおもった。行儀のわるい犬だったけど。
犬というのは……猫もそうだが、その、属する集団の序列を精確に把握している。じゃがいもは、父の言うことだけには絶対に従った。あとの、おれとか母とか妹には、ふざけた、なめた態度をとった。
父と母は頑張ってじゃがいもを探したが、結局南極見つからなかった。
本稿つづく
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