【スケッチ】不登校ここの部屋⑪墓の中はどうなっているのか
わたしは二度、墓の中に入ったことがある。いちどは生まれたとき、もう一度は祖母の骨壺を入れたときである。それはまた別の話である。
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ここたちの入った墓はアフリカ様式であり、印度及び敦煌、モンゴル、長安、南京、遼東半島、また朝鮮半島、南西諸島、極東に繋がっていた。万華鏡のごとく月光が墓の内に飛散し、それらのひかりが墓のなかの絵や文字、意味、歴史を照らしていた。
「こうなっていたんだ」
四人は呆然としながら、またキョロキョロと墓内(母内)を見回した。
何故人間だけが、十月十日も胎内にいるのかという理由が明瞭に分かった。心地よいからだ。安全安心。夢のような月日であった。
それらを忘れられないから、また、同じような構造のいわゆるあれを造ったのだ。要するに墓である。雨が降ろうが風が吹こうが気温は一定し、世界から隔絶されている。
だれがここから出ていこうとするのか。でてゆく理由など、あるだろうか。
「わたし」の淵源でありみなもと。
「来てよかったわ」
とここ。
「本当ね。あたしたちのあれが分かったわ」
「うん」
「なぜ、うちらが戦うのか、自殺するのか、生き急ぐのかも分かった」
「うん」
「一刻もはやく、ここに帰ってきたいからだわ」
「ほんとにそう」
この世にある、ありとあらゆる快楽の絶頂は平安である。変わらないこと。自然であること。意識を失うこと。
墓内(母内)には、それらすべてがあった。
静寂。
「ここが、うちらの本当の家なんだね」
「うん」
「ただいま」
欲しいとおもえば、なんでも現前した。グミ。サンドウィッチ。牛乳。ココア。チーズ。ポテチ。たけのこの里。チューチュー。フィギュア。ゲーム機。モニター。スーパーマリオ3。
墓の入り口から外は、雨。
「生きているのは四人、死んだのは無数」
「うん」
「まったく寂しくないね」
「たし🦀(かに)」
「ここにおれば、すべてが手に入るわけだし、マンゾクだね」
「うん」
「ほかに、誰か、まだ生きている人に会いたくない限り、どこにも行かなくてええねん」
「うん」
「会いたいひとなぞ、いないぞな?」
何となく、四人とも微妙な顔になった。
そう。だから厄介なのだ。それぞれ会いたい人がいるのだ。面倒くさいことに……。
墓を出るのか残るのか。
ざんねんながらこたえは火を見るよりも明らかなのであった。
本稿つづく