【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑥
ちょっと話がズレたが、絶望の話。まあいいや。
もういい。リョージの話が、濃すぎ。おれの絶望とか、忘れた。そして僕は途方に暮れる、というかそのレヴェルの話。
1991年に話を戻します。
5月ごろ、おれは、ほぼすべての授業にやる気をなくし(芸術と体育はのぞく)暇過ぎる日々をすごしていた。
クラスメイトのFちゃんに、吉田戦車の漫画をかしてもらって、授業中に夢中でよんでいると、影があり、目のまえにはあの、大学院出の数学教師が立っていた。ぴりぴりしている。
漫画を取り上げて、「あとで職員室に来い」と言われた。
行くと、いろいろ言われた。おまえ、数学的にバカなんだが(17点だし)、さら莫迦になるような振る舞いをなぜ、するのか。とか。普通、勉強するよな。とか。
すみませんでした。と、おれは大きなからだを小さくして、謝った。ふりをした。
いくらなんでも、ガキのふりはお見通しで、舌打ちをして、大学院は吉田戦車の『伝染るんです』を投げるようによこして、ふきげんだった。
もらうものはもらったので、という風におれは職員室をあとにした。
腹が立つ、態度。おれのがね。
おれは何も考えていなかった。暇過ぎた。退屈。
だから、おれは文章を書くことにした。数学の勉強のために買った方眼紙に。
『シークレット・オブ・マイ・ライフ』と題して。思いつくとすぐとすらすらと筆がはしった。
たちまち壱号が完成し、弐号が完成し、参号にとりかかった。50分のうちに。
おれは、むかしから、書くのが異様にはやい。
タブラ・ラサ(白紙)をまえにして、躊躇うことがまったくない。おれには薄い文字がすでに見えている。あとはなぞるだけ。色絵のようなものだ。夢中で、おれは記事を書いた。
あまりにも真剣なので、だれも文句はいわなかった。大学院は、おれを見て、うむ、と頷いた。
そうだよ。あなたのお蔭さ、と思って、おれの筆は走りに走った。正直、自分が何を書いているのかも認識できないほどのスピードだった。
無我夢中で、書いた。
本稿つづく
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