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【連載小説 短篇予定】美の骨頂⑥赤平のひらは比良

 伊佐凪子(いさなぎこ)とうちは、薬効課の新入社員でした。この課のボスはおじいさんで、センセイと呼ばれていました。女のほうが多い課でした。

 係長は夜裳津平佐賀(よもつひらさか)といふまだ二十代の若い男の人でした。仙台出身で、先代は横須賀らしいです。とても良いひとで、投資をしています。

「モツヒラサカさん、マジかっこよくないですか」

 と凪子が言いました。

「うん。というかモツヒラサカというのが名で、苗字はヨなの?」

「知らないっす。謎」

「こんど聞いてよ」

「いやですよ」

「何でよ」

「失礼でしょう」

「何がよ」

 知らないほうが礼儀にもとるだろう、とうちは思いました。なので、

「ヨさん、えーっと。ヨさん、すいません」

「?」

 夜裳津平佐賀さんが近づいて来ました。

「え、ぼく?」

「へえ」

「ヨさん、この、データなんすけど……」

「ああ、いや、あの、ぼく、ヨモツヒが苗字で、名はラサカなんだよ。ややこしくてごめんね」

「え!失礼しました。えっと、ヨモツヒさん」

「ヨさんでいいよ。全然」

 ヨモツヒさんはにっこり笑いました。うちより身長の低い東北の男の人。一般的にゆうて、北の人は身長が高いらしいですが(大谷選手とかみたいに)ヨモツヒさんは、正直チビです。痩せているし、ツラのいい日本猿みたい。

 おとうは南島の田舎者のくせに背は高いです。六尺以上。おかあは164センチ。うちは158センチ。ヨモツヒさんは、五尺あるかどうか。いや、五尺はあるでせう。

 凪子は巨人で、177センチもあります。手足が異様に長い。高校のときはバレーだかバスケットの選手だったそうです。全国大会にも出て、実業団だかプロだかからスカウトも来たそうですが東京五輪の選考会後「もうやりたくない(関わりたくない)」と思ってスポーツは辞めたそうです。

 さいわい頭は悪くないので就職できたようです。

 サウナに一緒に行ったとき、凪子の肩には入れ墨が入っていまいした。渋谷でいれたそうです。

 渋谷!

 うちはまだシブヤにいった時はありません。新宿にはこの前いきましたが、山手線のその先にはよう行きませんでした。

 おとうによると、渋谷というところは若者の欲望と大人の悪巧みと不動産屋の脱法意識が支配している土地とのことでした。モラルはとうの昔(五十年以上前)に失われ、性病と精神病が蔓延しているそうです。

「ぜったいにいくなよ」

 とおとうに言われました。なので行ってません。まだ。

「なぎちゃん、あんたヤンキーなの?」

「ちがいます」

 と言って凪子は肩のオオカミの入れ墨をタオルで隠しました。

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