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【スケッチ】不登校ここの部屋
ここは十三歳。ひとりっこで小学校から塾に通っており、もう中三までの範囲を学習し終わっている。
中学受験に失敗し、地元の市立中学に通っているが、小学校から塾にばかり通っていたので、あまり友だちはいない。つけられたあだ名は「ガリベン」。小学校3年生のバレンタイン・デーに同級生にチョコをあげたことがある。その相手は同じ中学だがちがうクラスである。
ここは異様に頭がよく、優しく、聞き分けのよい子なので当然のことながら学校に行かなくなった。学校というのは頭がわるく、わがままで人の言うことを聞かない子どもたちが行くところなのである。
そこらへんにいる大人よりもここはおとななので、現世になじめない。協調性があり過ぎるので浮いてしまう。
たとえば、
朝の会で先生が話をする。先生がはなすことは話すまえから一言一句分かっている。人として当然のことを言っている。
何でこんな話を聞かされないといけないのかと思うが、ここは静かにきいている。クラスメイトは、男子は、ぜんぜんきかない。ポケモンとかティックトック、女子のブラジャーのいろなどについてくすくすくすくすおしゃべりをしている。
ここはちゃんとしているので、ちょっとまちがうとすぐ先生が怒る。おこりやすいのだと思う。
「ここさん、プリントとりにきてください」「ここさん、黒板をけしてください」「おとうさんに、今度のボランティアのリーダーになってほしいとつたえてください、ここさん」
などと先生は言う。ちょっとまちがうとおこられる。
本当は、ほかの子も怒られているのだが、それでもここには納得がいかない。先生は、掃除をしない男子をつかまえて胸倉をつかみ、床に投げ飛ばす。生意気なことをいう女子を張り倒す。
ここは、そういうことはされない。言葉だけで注意される。ここはそれがいやだった。自分もなぐられたり、けとばされたりしたかった。しかしここはそこまでのチョンボはしないので、ことばで注意されるだけだった。
ことばのほうが、ながく残る。
小学校3年生のバレンタイン・デーにチョコをあげた同級生は、中学になって野球部に入った。というか小学校から野球をしていた。丸刈りで、真っ黒に陽灼けをしている。
「おまえ、いろ白いな」
と放課後、正門のところでばったり会った同級生に言われた。同級生は部活のまえに学校周辺の清掃をしていたのだ。
ぎっと見ると、真っ黒に陽灼けをして、真っ白の野球帽をかぶっていた。
ここは回れ右をして、家のある方とは逆の、川の方にダッシュした。
ほんとうは「黒い髪とよう合ってるわ、かわいくなったな」と台詞は続くのだが、ここはそれは聞かなかった。というか聞けなかった。ダッシュしてたから。
ここは河原で、大の字になって、日がしずむまでそのままでいた。日灼けをしようというのである。
浮浪者が来て、
「嬢ちゃんこれやるわ」
といってくれたビーフ・ジャーキーをたべた。浮浪者と話がしたかったが、すぐに浮浪者はどこかに行ってしまった。
家に帰って風呂上りに鏡を見ると、でこだけが赤くなっていた。ここはでこが出ている。そのでこと、鼻の先がうっすらあかくなっていた。
つぎの日から、ここは学校に行かなくなった。
本稿つづく