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【私の病】私に現金を持たせてはいけない、悲しいね……という話(後篇⑤)(終)

「どこか行こうよ。おごるよ」と私。

「うん、」

「え、行ける?」

「うん、また今度。きょうは、もうちょっと粘る」

「まだ働くのか。すごいな」

「うん(笑」

 私となゆは、さっきの店まで戻り、そこでなゆと別れた。

「ばい、ばい」となゆは手をふった。私も振った。

 人と手を振り合うのは、安心する。敵意がない感じ。こころが弛む。心地がよい。

 深夜、0時前の、那覇。オフィス街。県庁。商業施設。国道と県道、市道。そのほか小さな道たち。雑然としているようだが、首里とは違う。ちゃんと、そこに並ぶ、ちいさな店たち。人通りはないが、ところどころ、照明を夜に映して、ひらいている店もある。

 さいしょの店では、ことわられた。もうおわるという。つぎ、「ひとり、いいですか」と云うと、「いらっしゃいませ」と通された。

 ハイボール。牛蒡からあげ、島豆腐。

 私はまだまだ、さびしいし、悲しい。今となっては何があったのか、殆どわすれているのだが、さびしく、悲しい出来事が、個人的にはあったのだということが私をうちのめそうとしているし、しかしこの店の、カウンターに座っている居場所が心強くて、私は思いかえすことができている。

 なゆのことを思う。普通のおんなのこであった。

 風俗に居るおんなたちは、普通である。そんなに変わったところがあるわけではない。ちがうのは、お金をあまり持っていない。それだけだ。

 だから、私のような中年の男に会うし、なゆなどは、見も知らぬ私の、陰茎を平気な顔して、体内に導いた。それは違うんじゃないかと思う。

 なゆは「性欲はない」と言ってた。それはそうだろう。欲望を買うことはあっても、欲望が買われることはけしてない。

 嫌いな体位は「バックは、いや」と言っていた。たぶん、まだ若いからだろう。若いときの、妻も、バックは嫌がっていた。年を経ると変わったけど、

 しかし、

 矢張り平気ではないだろう。気持ちがわるい。

 なゆは、即尺の話もしていた。即尺というのは、風呂にも入らない男の、あれをそのまま銜える行為である。そんなのは嫌だろう。

 即尺を拒まない女は、病むらしい。無理をしているから。

 そうだろう。風呂、というか行為前に陰部を洗わない女のものを、舐めたいなんて、私は男だが、それでも思わない。臭いに決まっている。

 経済をかさにきて、自分の臭いものをくわえさせる。そういう男がいる。男たちがいる。

 私はなゆよりは金をもっているし、安定した収入がある。今は。この、現時点では。だから、金を持っていない女を買える、買えたのだ。

 気分がわるい。

 二度と、デリ・ヘルは勿論、ソープには行きたくないと思った。こんな不均衡に加担したくない、と強く思った。

 吐き気みたいな感じがする。

 私がほんとうにだきしめたいのは、妻である。妻といっしょに寝たい。妻の横で、妻とならんで、だきしめてもらいたい。

 むかしは、よく抱きしめてもらっていた。頼んで。

 妻は、ほかの女とはちがう匂いがした。ちょっと汗のにおい、健康なにおい、ちょっとアンモニアのにおい、うんこのにおい。

 それらにだきしめられて、私は漸く、安心みたいな感じだった。

 私は、おんなが好きなのではない。私が好きなのは、妻だけだ。恋しい。会いたい。ずっとそばにいたい。

 だがいないから、こうやって、変な時間に、家以外のところにいるのだ。どうしていいのかわからない。

 店を出て、コンビニで煙草を買い、タクシーに乗って首里に帰る。

 運転手さんはさいきん、運転手になったらしい。誠実な感じの人である。

 坂を上って、首里は暗い。静か。

 私はタクシーを降りて、道を渡って、家に帰っていった。

本稿おわり


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