【私の病】私に現金を持たせてはいけない、不能だろこいつ……という話(後篇③)
ちゆ。と音がする
一度はなして、なゆはまた口を吸ってくる。今度は舌を入れてきて、べらべら動かす。なゆの左手が私の後頭部にそえられ、右手が背筋を撫でおろす。私はされるがままになっている。
「ふふ、」口をはなして、なゆが笑う。のびた唾液が口と口を、少しく渡って、床に落ちる。こちらを見上げて「お兄さん、エロいね。めっちゃ溜まってる」
エロいのはおまえだろう、と思う。
突っ立っている私に「シャワー、はいろ」となゆ。
枇杷の皮を剥くようにして服をおとし、キャミソールになる。
「うん」競馬はむずかしいな、ほんとに、と私は思う。
「いっしょにはいろう。ぬがしてあげよう」
と、なゆが言う。
「うん……ああ、いや。それぞれで入ろう」
「えー。ああ、変態のひとだあ」
「ふむ、え、そうなの?」
「お兄さんから入って」
「……うん」競馬って難しいなあ……。
部屋はもともと、和室だったのだろう。広々としている。リ・フォームをしたのだろう。洋室風にはなっている。洋室になってから、すくなくとも20年は経っているのだろうと思われた。壁は砂かべである。洋風の絵がかかってあるが、雰囲気は和風である。
海辺の絵。ヨットの帆が錯綜としている。空の色は、ちょうど今ぐらいか、今よりちょっとまえ。沖縄でいうと、うりずんの空である。
床も、調度も清潔で、部屋の真ん中にダブルベッドがある。このベッドはまだ新しい感じがする。シーツがしろく、乾燥したにおいがする。
お手洗い、浴場もセパレートで、それぞれ広く、黴などもない。
わたしは浴場の、脱ぎ場でぬぎ、シャワーを浴びた。腋、陰部をよく洗った。上がってから、白いブリーフをはき、ティーシャーツを着、短パンを穿こうと思ったがどうせすぐ脱ぐのだからと思い、短パンを片手に部屋に出た。
なゆは、冷蔵庫の水をのみながら、スマホを見ていた。ベッドに俯けになって。ヨガでいうところの、コブラの恰好で。
「じゃあ、こんどうちね」
といってなゆは、着ているものをするすると脱ぎ、チェストの上に投げるように並べて全裸になった。白い皮膚。薄い色素の乳首。調整した陰毛と、下腹。おしりにできものなのか、しみがたくさんある、治っているしみである。
腿、太もも、膝小僧があり、よくのびたふ(く)らはぎがある。足に赤黒いペディキュアがある。
いま気づいたが、なゆの手は、爪がながい。つけ爪。灰色の長いドラキュラ的なつめが、本来の爪のうえに接着されている。
こういうの、流行ってるよな、と私は思った。
なゆは走るようにして、浴場に行った。
「まっててね」
と言った。ゆっさ、ゆっさと乳が揺れていた。
本稿つづく