【行間を読む】猪木・川合「量子力学I」p. 158 (ビリアル定理と物理量ヴィリアル)
テーマ
ビリアル定理
ヴィリアル
該当箇所
[解] (1) ②の定義より、
$$
i\hbar \dfrac{d}{dt}\langle\bm{r\cdot p}\rangle=\cdots
$$
疑問点
この解法はどこから出てきたのか。なぜ位置と運動量の内積を何事もないかのようにスタート地点とするのか。
解説
まず物理量$${G:=\displaystyle\sum_i\bm{r}_i\cdot \bm{p}_i}$$は Clausius が1870年に提唱したもので、ヴィリアル (virial. 語源は羅 vīs「力」) と呼ばれるものであり、ビリアル定理とは定義からしてこの物理量を出発点とする。
古典論におけるビリアル定理は非常に簡単に導出される。ビリアルの時間微分をとって
$$
\begin{array}{rcl}\dfrac{dG}{dt}&=&\displaystyle\sum_i(\dot{\bm{r}}_i\cdot\bm{p}_i+\bm{r}_i\cdot\dot{\bm{p}}_i)\\&=&\displaystyle\sum_i\left(\dfrac{\bm{p}_i}{m}\cdot\bm{p}_i+\bm{r}_i\cdot\bm{F}_i\right)\\&=&2K-\displaystyle\sum_i\bm{r}_i\cdot\nabla V_i \end{array}\qquad(*)
$$
両辺の長時間平均を取ると、左辺は
$$
\lim_{T\to0} \dfrac{1}{T}\displaystyle\int_0^T\frac{dG}{dt}dt=\frac{G(T)-G(0)}{T}
$$
となる。有限領域内にとどまる運動を考える限り、この右辺の分子は有界であるから、$${T\to\infty}$$の極限で値は$${0}$$となる。これにより(*)式右辺の長時間平均は
$$
\lim_{T\to0} \dfrac{1}{T}\displaystyle\int_0^T \left(2K-\sum_i\bm{r}_i\cdot\nabla V_i\right)dt=0
$$
以上によって古典的なビリアル定理が証明される。
本書の量子力学におけるビリアル定理も、これと全く同じ方針で示している。