【読書記録】「学びとは何か—〈探求人〉になるために」今井むつみ
認知科学・発達心理学・認知言語学の大御所が書いた、学習や知識に対する概念の再考を求める本。一般に流布する知識や学習といった言葉は学校における勉強の意味合いが極端に強いが、心理学や認知科学においてはものを習得すること全般に用いられる。
赤ちゃんは生まれ落ちておおよそ数年で言語を身につける。言語の存在すらまともに知らなかった子供が数年で成し遂げることだが、中高6年と英語を学んでも話せない人は少なくない。ではこの違いはどこから生じるのか。それは学んだことが「生きた知識」として身についているか否かにある。
身につけるとは単に頭の中に知識が格納されていることではなく、必要なときに半ば無意識に取り出すことができる状態である。我々が日本語を使うにあたって、てにおはの区別は説明することができなくとも、間違えることはほとんどない。しかし理屈である程度説明できるはずの英語のa, theの違いが、いざ使おうとしてもできない。
加えて、一度身についてしまった知識を打ち破ることは、これもまた難しい。例として挙げられている中で特に印象的だったのが次の例文である。
日本語を母語とする人にとって、この文が語法的に誤っていることを見抜くのは至難である。wearは状態動詞であり、着用の動作は別の表現put onを使わなければならない。しかし日本語では服を着る動作と状態を区別しないので、この文に違和感を覚えないという。英語を身につけるには、この身についてしまって離れない日本語のスキーマ(思い込み)を破る必要がある。
ではこのスキーマとは新たな学習を阻害するものかというと、決してそんなことはない。スキーマを用意することで学習の負担が格段に低減する。コップの取っ手が両端で繋がっていようと片方が離れていようと、形が似ていれば2つをまとめてコップと理解する。赤ちゃんでもできる一般化であり、この「形が似ているものは同じ言葉で表す」というのも立派なスキーマである。赤ちゃんの言語習得の尋常でないスピードを可能にしている。
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