もっと、ずっといっしょ。
「デート回だ!!!!!!!!!」
「回とか言わないでよメタいなあ」
いわゆるいろいろお店が入ってる商業施設――最近でもモールって呼び方するのか?――にきた。
こんなところ、ただの週末でさえ人でいっぱいなのに、クリスマス前の土日なんて大変に混むに決まってる。
そもそも二人ともお互いのプレゼントはとうに準備済だ。
それでもこうしてにぎわう場所に来てしまうのは、いつもより浮き足立った喧騒に、浸ってみたいからかもしれない。
プレゼント何にしよう!!に追われずに巡るクリスマス特集スペースは楽しい。
ちょっと人気そうなものがすでに無かったりする棚なんかもう微笑ましい。
別に性格悪くはないです。
「「あ」」
これおねーちゃん好きそうだなと思って立ち止まったら、同じタイミングでおねーちゃんも立ち止まっている。
「ちょっと気になるなと思いまして。」
「同じく、ちょっとおねーちゃん好きそうだなと思いまして。」
ぬぇへへへへとにやつきながら、並んだシルバーアクセを眺める。
あまり主張しないけどよく見ると個性的、なデザインが多い。
「どう?似合う?」
いくつか手にとっては、つけるふりをして見せびらかしてくる。
素がいいから何つけてもちゃんと似合うんだよねなんて、さすがに盲目すぎるか。
だからこそ、これ!ってのが選びにくいので、それはそれで困るんだけど。どれもいいんだけどいいね止まりかな〜と言いながらお店を後にした。
「クリスマスにはシャケを食べるんだよ」
と、だいぶ力説してもあまり響いていないおねーちゃんを連れて、予約したフレンチのお店に来た。
といってもランチのコースはお手頃で、店の雰囲気もカジュアルで堅苦しくない。
ピークを外した時間だけど、予約できただけありがたかった。
たまには目でも味わう贅沢、大事だよね。
前菜からデザートまで6品、しっかり満喫した。
お目当てのシャケ(サーモン)も美味しかった。
「満足したー!特別感あっていいね、まさしくクリスマスって感じ。いいとこ見つけてくれてありがとっ」
食後の機嫌がいつにもましていいので、しっかり気に入ってくれたようだ。
実際多少しっかり頑張って探したので、その甲斐があった。
食後の運動も兼ねて再びお店巡りへ。
まあ、たぶんどこかでケーキセットで休憩しそうな気はするんだけど。
「「あ」」
ちょっと好きかも系統の服だなと思って立ち止まったら、おねーちゃんもそちらを見ていた。
「ちょっと気になるなと思いまして。」
「でしょうなと思いまして。」
まあ、今のクローゼットはほぼほぼおねーちゃんのご指南というか好みというかで揃っているので、気になる方向は同じになって当然なのだ。
シンプルめスリムめだけれどちょっと意匠が凝った、無難といえば全然無難な感じ。ただ、
「最近この手を着るにはちょっとだらしないんだよなあ」
「まったくだよ。運動が足りないね。」
少しわがままボディに向かっているので、この手のを着てしまうとパツンパツンになる未来が見える。おかげで最近は少しサイズ大きめだったりゆったりデザインだったりに逃げている。
「似合う男になれ、てーくん」
「うっす」
呆れも含んだニヤけ顔のおねーちゃんと一緒に店を去る。
今日はまあ、よっぽど気に入ったものじゃないと買わないことにしようと決めて来ているので、このくらいでいい。
「ちょっと前はさ、こういう感じで遊んでたらカップルに見られたじゃん。」
「あー、まあお店の人からはそういう感じで話しかけられてたね。」
「今でもそうなんかな」
「なに、ちょっと期待してるの?」
例の厄介な感染症で盛り上がってから、店員がシュバババと駆けつけては接客をしてくる…ということが減ったように感じる。
こちらとしてもありがたい話ではある。
この姉の言う通り、カップルに間違えられては、あるときはそのまま話を通すし、あるときは(そろそろ言っておかないとここからまずいな)ってタイミングで白状する。だいたい店員からは(なんで今までそのスタンスで返してきたんだろう)っていう顔をされる。してこない人もいる。たぶんベテラン。
つまり、おねーちゃんはこう言いたいのだろう。
今なら夫婦に間違えられるのでは、と。
気持ちはまあ……分からないでもないけど。最近は大人になったので、茶番に付き合わされる店員さんに申し訳ないなと思うようになった。
この前若作りをしようなどと言った身ではあるが。
「きたいってゆーかー、もうわたしたちそうみられてもいいくらいいっしょにいるしー、そろそろかもしだすふんいきがそうなっていってもさー、おかしくないよねってゆーかー」
テンプレみたいに両手の人差し指をつんつん合わせて弁明し始めた。
…………なんか、遠慮なくなってない?
「なんで?遠慮なんてしなくていいって言ったの、てーくんだよね?」
いや、遠慮しなくていいとは
「ほぼ同義だよ、行間の解釈の余地からは外れてないよ」
そう言われるとそうかもしれない……。
なんならもっと強い意味まであったよねと言われても、否定できないかもしれない。
「だからいいの。変に恥ずかしがらずに、いたいようにいることにしたんだ。」
――名字が一緒なら、むしろそのほうが自然だしね。
その小声はしっかり聞こえてしまった。聞こえたのか、聞かせられたのかは分からないけど。
「わたしはわたしがしたいようにするって決めたんだ。一緒にいてくれるでしょ?てーくん。」
「分かってるくせに。」
「ちゃんと言って。」
「はいはい。」
ずっといっしょだよ、おねーちゃん。