はなしたくない。
――寒いと人肌恋しくなる。
おねーちゃんといっしょに寝るようになって数年、そんな気持ちを覚えることも減った。
夏は二人でいる分の暑さが多少はあるけど、秋頃になってくるとだんだんと心地よくなる。
そういうところで、季節の移り変わりを楽しんでいた。
そんな冬の、特に寒かった日のこと。
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寝る前に少し暖房を入れて部屋を暖めていた。
先に布団に入って布団も暖まった頃に、おねーちゃんが入ってきた。起こさないようにそーっと入ってくるけど、ふふっと小さな笑い声がこぼれているからまだ寝てないのはバレてるな。
「どうぞ、お姫さま。ほどよく温もってございます。」
なんて言いながら加湿器をおやすみモードにして、部屋の灯りを消す。
人肌恋しくなることは、確かに減ったのかもしれない。
ここぞというときに「誰かに」近くにいてほしい気持ちがなくなっていった分、「おねーちゃんと」近くにいたい。そういう気持ちは、強くなっていったんだと思う。
より温かくなった布団のおかげもあって寒さはだいぶ落ち着いたけど、さっきまでの冷えもあってか、少しだけいつもより強くおねーちゃんを背中から抱きしめた。
熱をあげたいのか奪いたいのか、正直わからなかった。
いつもと同じはずなのに、今日はやけにシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「おやおやてーくん、今日はいつにもまして情熱的じゃないかい。嬉しいけどちょっとあつくなってきちゃって寝れなくなっちゃうな~~」
耳をまさぐるように感じた声も、いつもと同じはずなのに。
なぜだろう、今日は大人しくしていたほうがよさそう。
おねーちゃんの唇に、人差し指を当てる。
む、と短い抵抗が聞こえた。
おやすみ、って言おうとしたら、
――――人差し指が、くわえられた。
「だから、言ったじゃん。"熱く"なってきて、寝れなくなっちゃうよって。」
あててしまったか、あてられてしまったか。
腕の中で上手にからだを回してこちらを向いたおねーちゃんの顔が少し紅く、熱い気がする。
「いいのに、もっと素直に言ってくれたら。わたしも、たぶんそういうときはだいたいそういうきもちだよ」
お返しとばかりに、唇を人差し指でつんっとされる。
なんかもう、こういうときっていつもこうなんだよなとか、やっぱり甘えちゃうんだよなとか、いろいろ考えるのが面倒になって、唇を合わせた。
あー、リップ塗っときゃよかったな。
今夜はもう、ずっと離したくない。
まるで世界に二人だけだと錯覚するくらい、他の何も目に耳に入らなかった。
ただ、少し焦点がずれて蕩けた顔と、じれったく甘い声だけに浸っていた。