悩める姉

「会社で仲がそれなりにいい……と少なくとも私は思ってる集まりがあるんだけどさ」
夕飯の片付けも終わって、だらだらと見る気のないテレビを選びながら、ふとおねーちゃんが話し始めた。
どうしたの、のっけからえらい予防線張るやん

「なんか気づいたらみんな彼氏いてるのよ、いや別にいいんだけどさ」
「あら―最近そんな感じなんだ、いいねいいねーって。どこで知り合ってんのー?ってなんとなしに聞いたらさ」
「『あんたがあまりにも寄ってくる男をあしらうわ、すきあらば弟の話だわで、そのくせ連れてったらなんとなく目立つわで、誰も幸せにならないから最近あんた抜きで婚活とか行ってるんだわ』って言われて横転した」
「あらあ」
「でも別に、いやらしいトーンとかじゃなくていつもの感じだったから、特に嫌な気持ちにもならずでさ。ほんとのことだし。」
「それ、めっちゃ仲いいんじゃないもしかして」
ほんとに嫌味なく言っているのであれば、気の置けないいい友人…だと思うけどな。

そういえば、とおねーちゃんのスマホを触って、画面を点ける。ちょっと前旅行したときに撮った、コスモス畑をバックに写るにこにこのツーショット。まめに変えてんな。
「まあ、こんな待受でにこにこきゃっきゃしてればそうにもなるよね。虫除け効かせすぎましたかねえ」
「いやーーーーーのね、べつにずるいーとかなんでーとかは無いのよ、うらやましーも正直ない。確かに、むしろあんなふうに言ってくれるのって、変な言い方だけど誠実だよね」
こちらの肩に寄りかかって、慣れた手つきで待受に「てーくん♡」フォルダから別のツーショットを選定している姉。そういうとこそういうとこ。

この手の話、どうせ二人とも「興味ない」に落ち着く(あるいは、その素振り)のに、なんとなくよくそういう話題ばかり出てくるの、なんでなんだろうね。
これがカップルだったら結婚まだー?アピールかもしれないけれど。

「彼氏だの婚活だのはともかく、お友だちさんとはいい感じに仲いいのが続くといいね」
婚活で知り合った相手なんて、ちゃんと仲良くなるまではどうしたって気を遣うんだし。いい友達がいるってのはうらやましい。お友達さんからしても、おねーちゃんのことをそう思ってくれてたらいいな。

絶妙なピンチインとピンチアウトで位置取りが決まったらしく、満足げなおねーちゃん。さっきのテンションどこへやら。

「にゃー!そだね!なんかすっきりした!言いようのないもやーーーはとりあえずぶえーってしゃべるにかぎるね、びえーーんきいてくれてありがとてーくん、お風呂入ってくる!」

なんか分からんけど、悩みがやわらいだ?ならよかった。
最後のテンションなに。



あとは、(お互いのスマホを見る/見られることをとくにNGとしていないうえで)さっきちらっと見えたマッチングアプリの通知に気づかなかったフリをするか、悩むなあ。


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