こんなおねーちゃんはいやだ。

「どんなおねーちゃん?」
「そんなんおらんが?」

大喜利終了。寝よか?

……では、だめらしい。

「てーくんが寝ても覚めてもわたしのことだーいすきなのは知ってるけど、さすがにあるでしょ、ひとつくらい」
たとえば?
「ほら、『精神的身体的に日常でDVかましてくる絶対にやべーやつなのにそれでも離れられないし今日も化粧で隠しきれない傷を少しだけ愛おしそうに撫でながら彼氏のところにいく私』とか」



顔から血の気が引いて、瞳孔が開く。一度、深く吸った息を吐いたあとの呼吸は浅い。自分でも分かる。そんなおねーちゃんはいやだ。そしてそんな中で何もできていない自分がいるなら、もっと、嫌だ。

「家を出るときには決まって、悲しそうな笑顔でこう言うの、『もう支えてあげられるのは私しかいないの。だから許して。許してあげて。』ってあーあーごめんやりすぎた、もどっておいで」

たぶん人には見せられない顔をしていたんだろう、即座におねーちゃんに抱きしめられた。
うわあ、こんな「こんなおねーちゃんはいやだ」のパターンがあるの辛いなあ。息が整うまで少しだけかかった。

てかそれ、
「そういうの持ち出してきたらずるくない?」
「いやあ、てーくんの想像力をちょーーっと試してみようかなって。何があるか分からんじゃん?」
たしかに、そう言われると反論が難しい。難しいんだが。
……どうして出てこなかったんだろう、と逡巡したけど、――ああ、そうか。

「そんなことになる前に助ける。それが俺のエゴでも、ちょっとでも辛いおねーちゃんなんて見たくない。笑顔でいてほしい。」
「だから、結果的にいやなおねーちゃんなんていないの。完璧な証明。」
「ふふっ、言いますねえ。高校生くらいのときから変わんないじゃん。いくつになっても。」
「そりゃ、いくつになってもおねーちゃんLoveですから。」
「うんうん、ちょっと抱きしめが力強くなってるかな。」

言われて気づくくらいには無意識に力が入っていたようだ。
ゆっくり離れて、何事もなかったかのようにすました顔に戻った。
おねーちゃんが少し苦笑いしてる。


空になったカップを温めて、紅茶をいれなおして。
お茶菓子も補充して一息。

「逆にあるの、こんなてーくんはいやだ」
「てーくんは暴力振るわれても変な女に捕まっても借金まみれになっても、最初はわたしにバレないようになんとかしようとして、それでもなんとかならなかったら絶対わたしのとこに帰ってくる。だからね、それもそれでいっかなって。」

ちょっとだけ悪い笑みが見えた、気がする。勝てんな。


そんなおねーちゃんはいや…………でもないか。

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