「おねーちゃん、お話があります。」

昨日はあれから話の続きができずに、ベッドに入る頃にはおねーちゃんはすっかり眠っていた。
今朝はいつも通りの朝を迎えて、いつも通りに家を出たけど、なんとなくいつも通りでない部分もあって。

それでも世界は廻っている。いつも通りに仕事をするしかない。

幸いにも急に忙しくなったお仕事のおかげで多少は気が紛れた。忙しい間はそのことだけ考えていられるから、今日みたいな日にはちょうどよい。
でも、ずっと後回しにしていていい話でもないし、今日中に着地させたいよなあ。
奇しくも今日は定時退社日、おねーちゃんの仕事も忙しい時期じゃないはずなので、家でゆっくり話せる…はず。

『おねーちゃん、お話があります。』
昼休みに送ったLINEは、昼休みの間に既読がつくことはなくて。
仕事が終わりそうな時間に、『わかった。残業なしで帰れそう。』と返ってきたので一安心。
一緒に住んでいる以上、問題を先延ばしにしてもいいこと無いってお互いが分かってるのはまだ救いだと思う。
そこから目を背けるようになってしまうと、だんだんと取り返しがつかなくなってしまうから。

今日は夕飯当番の日。卵が残り気味だからオムライス。チキンライスは炊飯器に任せて……うーん、炊きあがるより先におねーちゃんが帰ってきそう。とりあえずサラダだけ準備して冷蔵庫で冷やしておくか。

先手必勝、洗っておいた哺乳瓶にストロングゼロトリプルレモンを充填する。
もっと早くこうしておくべきだったかもしれない、変に隠しておいたから話がこじれたのかもしれない。
一口吸ったところで、ドアの鍵が開く音がした。
「おかえり、おねーちゃん。」

空腹のまま行う話し合いは、いい結論になりにくい。まずはいつも通り夕飯にする。
いつもより言葉少な、雰囲気も違うけど、今日もちゃんと2人でご飯を食べられたことが大事。だと思う。
いや、雰囲気が違ったのは、当たり前のように傍らに哺乳瓶を置いていたのと、当たり前のように哺乳瓶からアルコールを摂取していたかもしれない。
ショック療法間違えたか?

片付けをあらかた済ませ、デザートを食べながら本題を始めてみる。

「せっかくだから、いっそのこと日常の風景にしてしまおうと思って普通に飲んでみてたんだけど。」
「ときどきてーくん、まじでやばい思考の巡り方するよね。たまにやばい人って言われない?」
「たまに言われる、かも…………」

やばい人問題は今度にとっておくとして、とりあえず今日話したい内容を伝えよう。

「おねーちゃんが本当に嫌だって、見たくないって言うならもうしない。けど、慣れてくれるなら今後もたまに安らかな目で見ててほしい。なんならそのうちおねーちゃんに手ずから飲ませてほしい、膝枕で。」

思いの丈を息継ぎなしで言ってみたんだけど、もしかしてこれ間違えた?おねーちゃん固まってしまってる。

「…えっと、あの、とりあえずぶっこんでみよう後はそれからの流れに任せようってスタンスは、あんまりおすすめしないかな。。。。」
「正直おねーちゃん相手だからってところはあるね。」
喉が乾いたので哺乳瓶でストロングゼロトリプルレモンを摂取。残り3割くらい。1日でトリプルレモンダブルはしたくないので、次は普通に何がしか飲むか。

「昨日、いきなり家で哺乳瓶見つけて、びっくりして、いろんなこと考えちゃって。隠し子とか、浮気とか、結婚とか、養育費とか、こんがらがっちゃって。そこにてーくんが全然違う方向から本当のことぶっこんできて、わけわかんなくなっちゃって。」
「…うん。」
「あのあと、すぐに寝れるわけもなくて。だんだん申し訳なくなってきて。確かに誰にも迷惑はかけてない、と思う。やばい絵面なのは間違いないけど。だから、てーくんが気に病むことはなくって。きっとそのうち慣れると思うから。ううん、それでしか救われないこともあるなら、やめないでほしい。」

一息、さらにおねーちゃんが続ける。
「ごめんね、てーくん。ごめんなさい。昨夜のあの瞬間は受け入れられなくて、どう接していいか分からなかった。いや、今も若干どういう目で見ていいか分からないけど。嫌悪感とかは特になくって、びっくりしてるだけだから。」
「ありがとう。ごめんね、変な弟で。」
「まさか飲ませてってまで言われるとは思ってなかったから、そっちはもう少し待ってほしいな…」

そのあと、哺乳瓶飲酒の感覚を知りたがるおねーちゃんに一口飲ませてみたけど、「よく分かんないや」で一蹴された。
いつもどおりの雰囲気に戻すことができた。と思う。

おねーちゃん膝枕哺乳瓶ストロングゼロトリプルレモンはしばらく先になりそうだけど、とりあえず家の中で堂々と哺乳瓶飲酒する分には大丈夫そう。
バレることを怖がってこそこそやるよりは、最初に暴露しちゃったほうが楽だったかもね。

めでたしめでたし。

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