おねーちゃんとブライダルフェア。

「てーくん、なんかこんなの入ってたー。」

2人で出かけていた帰り、ポストから取り出したうち宛ての郵便物から取り出したのは、市街中心部にある結婚式場からのダイレクトメール。
曰く、ブライダルフェア開催中のお知らせ。

帰宅後、なんとなく開けて2人で読んでみる。
「ふーん。こういうの、ポスティングするようなものじゃないと思うけど… ブライダルフェアってあれだっけ、試食会とか試着とかそんな感じの?」
「多分そんな感じじゃないかなー。この前隣の席の子が、彼氏と一緒に行ってきたって話をしてた気がする。」
「なるほどねー。まぁ、関係ないか。」
「……てーくん、行ってみない?試食会、美味しそう楽しそうだし。」
「おねーちゃん、まじで言ってる?」
「わりとまじ。ほら、名字一緒だし既に結婚してますみたいな顔で行けば怪しまれないじゃん?」
「おねーちゃん、まじで言ってる。」
「へへ、これは冗談。姉弟で参加ってのも無いでは無いらしいよ。」

電話してみたら、近い日付で空きがあるらしいので参加申し込み。
そして、当日。

「おー… カップルさんがいっぱい。」
「傍から見たら私達もそうなんじゃない?」
「どっちでもいいよ。とりあえずおねーちゃんの結婚式って想定でいくからね。」
「はぁ… 大した相手も見つかってないのに結婚の話するって、無駄にてーくんと離れるみたいな感じがして寂しい… 」
「わかった!わかったから!今日だけだからね!結婚設定!」
「うん!」
恥ずかしさはだいぶあったけど、だいぶどころでは無いけど、暗い顔したままのおねーちゃんを連れていけないのでしぶしぶ結婚することになった。まじか。

「まずは、どんな規模感とかスタイルでしたいかのアンケートだってー。」
「当然ながら何も考えてない……」
「だよねー。適当に答えるから、適当に合わせてきてよ。」
受付を済ませて、最初のブースに向かっていく。
なんだかんだで乗り気なおねーちゃん、僕の手を引いてにこにこと進んでいく。

「人数はどのくらいを想定されていますか?」
「そうですねー、親戚友人合わせて50人くらいなものですかね。」
特に打ち合わせもしていないのに、係の人とすらすらと話を進めていくおねーちゃん。僕の出番は無さそうです。
というか、これは常日頃より何かしら考えていたな?

「演出とかは、別に凝ったものじゃなくていいです。来てくれた人と交流する時間長めにとって、皆さんもお食事をゆっくり楽しめるような雰囲気にできたらいいなって思ってます。」
「かしこまりました。ご主人は何かご希望はありますか?」
一拍経って、おねーちゃんに小突かれ自分のことだと気づく。
そういえば今はそういう設定か。
「お酒の種類が多いと嬉しいです。飲むのが好きな人を呼ぶつもりなので。」
「なるほど。とりあえずこんなところにしましょう。しっかりお2人でご希望を決めてらっしゃるのですね。」
ふふっ、と笑みを残して、次のブースに案内される。

「先程伺った感じですと、この会場がちょうどよいと思われます。」
相談内容から、実際の式場を見繕ってくれたようだ。
なるほど広さもちょうどよさそうだし、いい式ができそうな雰囲気がある。
「今日のところは、感じだけ掴んでいただければ。それでは次に参りましょう。」

「てーくん!お肉が!厚いよ!熱いよ!」
お待ちかねメインイベント、試食会。
肉料理と魚料理のメインディッシュと、デザート2種類とワイン。
これが試食会?軽いランチいただいちゃってる気分だ。
「お魚もおいしー!どっちメインにするか迷っちゃうねー。」
「このケーキ、ちゃんと美味しいやつだ…!最後まで食べてってほしいなー。」
「ワインもいちいち美味しい。普通にご飯で満足できそう。」
元よりこれが一番の目的だったこともあってか、終始楽しそうに美味しそうに味わっているおねーちゃん。かわいい。完全に入り込んでるな。

「では最後に、ドレスとタキシードの試着を。」
通された部屋には片手で数え切れない種類のドレスと、片手で数え切れる程度のタキシード。
「うっ… ご飯の後に試着…でもどれも素敵…」
おねーちゃんがドレスを吟味し始めたので後ろから眺める。
「てーくんも意見出してーどういうのが好き?」
そう言われると、「任せる」とは言えないなあ…

「これなんか、派手すぎなくて良いんじゃない?」
指差したそれを、おねーちゃんがピックアップする。
「私もこれ、気になってたんだよね!じゃあこれにしよっかな。」
色が多少変わる程度で特に違いも見当たらなかったタキシードからひとつ選んで着替えに向かった。

「試着って… これはもはや模擬挙式では」
「ちょうど空きがございましたので。よろしければいかがですか?」
軽く着て終わりだと思っていたけど、どうやらそれっぽいことまでさせてくれるらしい。

「本番前にドレス着ると結婚できなくなるとかならないとか…」
「もー。いいの、そういうのは。」
そんな軽口を叩かないと、直視できないほど、おねーちゃんが綺麗で。
ああ、この人もいつかこんな風に綺麗な格好で誰かと結婚するんだなあと思うと、少しだけ悔しかった。

「てーくんも、似合ってるよ。それ。」
おねーちゃんには敵わないけどね。あー、ほんと綺麗だなあ。かわいいなあ、この人。

・・・

「お疲れさまでした。ご参考までに、今日お伺いした内容で簡単にお見積りを作成いたしました。ここからさらに詰めていくには、またお時間とっていただいてゆっくりお話させていただければ。」
「分かりました。1日ありがとうございました。」
「お似合いでしたよ。よかったら是非、当式場で本番を挙げられてくださいね。」
「ええ、その際は是非よろしくお願いします。」
係についてくれた人とおねーちゃんが一通り挨拶を済ませて、僕もお礼を言って式場を去った。

「さすがに疲れちゃったね。ちょっとやすもっか。」
振り返ったおねーちゃんにさっきのドレス姿が一瞬重なって、少しだけ心がざわっとした。
「うん、どこか寄ろっか。来る途中にカフェ見つけた気がする。」

たまにはこういう日もいいかな、と思ったけど、ちょっと心臓に悪かった。

あとがき

これを思いつく限り広げてみた。
私はブライダルフェアなんか一度も行ったことはありません。

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