そういう、冬。

「年末年始、実家どうする?」
送ったメッセージには一瞬で既読がつき、返信もまた一瞬だった。
『今年は初めてだから、あっちに長くになりそうだなー。うちのほうはちょっと空けて改めてにしようかなって。』
『まぁ居心地、悪くないし。』
フォローのように入った二通目に、複雑な気持ちを抱いて返信を悩んでいると、そのまま追撃。
『自由に帰ってあげられるのてーくんだけなんだし、せっかくだから年越しは過ごしてあげたら?』

春、姉が――おねーちゃんが結婚した。
相手の人、義理の兄になる人とは何度も会ったし、いい人だと思ってる。
この人にならおねーちゃんを任せられる。一番ずっと近くにいたと自負する自分が、そう思える人だった。だから、笑顔で見送れた。
結婚式のお色直し退場の同伴だけは、ほんともうこれだけはと、食い気味で立候補した。
「そんな鬼気迫らなくても、ちゃんとてーくんにお願いするつもりだったよ」って苦笑交じりに指名してくれた。
いい式だった。思い出すと少しだけ、胸が痛くなるくらいに。

一人で過ごす夏も秋もあまりに空っぽで、過ぎる月日を楽しみに二人でめくっていたカレンダーは、なんとなくまだ3月のままだった。
年が明けたら、さすがに新しくなるのだろうか。
揃えた食器だってそのままだ。捨てられるはずがない。
「何かあったらてーくんちに避難するから、一通り全部そのままにしておいて!」
そうは言われたが、うちに避難してくるような何かなんて、起こってほしくない。

「ごめんごめん、にゃーがいるからさみしくないにゃーよ」
なにか察してくれたのか、膝の上に乗っかったかたまりが一鳴き。
昨年からうちで飼っている三毛猫、もなか。
二人して大層可愛がり、本猫(ほんにゃん)もすっかり慣れた我が家と好き勝手している。
壁の傷が増えるたびに退去のことを考えては考えないようにしているが、まあこれは猫飼いの宿命だろう。
実際、このこがいるからなんとかなっている感は大いにある。
今までどんだけ姉に依存していたのかを痛感している。

「…………ふぅ。」
思っていた以上に大きく出た溜め息に驚きつつも、おかげ少し逡巡から抜けられた気がする。いつまでも無いものばかりに思いを馳せていられない。
姉も妹も結婚した、長男だけ残ってしまった今、実家に帰れば何を言われるかくらい想像はつく。言い訳の一つでも考えておかないと。

一人の時間にも多少は慣れた。いい加減姉離れしないと。むしろ少し遅かったくらいだ。
おねーちゃんが幸せだし、それでじゅうぶんかもね。

そういう、冬。














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「あ、起きた」



寄りかかっていた肩で目が覚めた。
こんなに落ち着く肩なんて世界で一肩しかない。
気づくと膝の上も温かい。黒いのが丸まってる。

いやー、夢オチかあ~~~~。

起きて早々、ひどく疲れた気分。
そうか、早いうちに済ませておこうと、二人で実家に日帰りで顔出したんだった。
それなりの距離の往復で、こっちに帰ってくたーっとしてたらいつの間にかそのまま寝落ちてたらしい。
まだ頭がぼーっとしているのか、半分無意識で問いが口をついて出た。
「おねーちゃん、結婚してないよね…?」
「お?同棲までいったけどきれいに解消してきた私になんか用か?」
頬をやわらかくつまみながら返された。
そうだった、それで実家でもちょっと言われてたんだった。ごめん。まだ起きてないので許して。

膝上の黒いのも寝飽きたのか、起き上がって伸びをして、と思ったら向きを反転させてまた膝の上で落ち着いた。
ひめ、という名前の黒猫で、こちらも昨年からうちで飼っている。
柄も名前も違うけど猫がいたし、なにかとリアルが近い夢だったな。こわこわ。ねー、ひーちゃん。

今年の連休は長めだけど、いつもどおりにふたり+いっぴきでゆっくり。
そういう、冬。

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