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月岡恋鐘GRADを改めて読む


はじめに

 バレンタインコミュ開けを兼ねて各アイドルのGRAD・感謝祭を見返していたら恋鐘さんのGRADで再度感動してしまいました。自分で整理するためにも、いくらか感想を書いてみようと思います。ソロ曲も聴いてたら合わせ技で涙腺がやられてしまったので、ソロ曲の話も少しだけします。

 大枠としてこのコミュは、恋鐘さんは無邪気だけど、それは必ずしも気楽ってわけじゃないこと、前向きで居続けるのってどれだけ大変なことなのかということを思わざるを得ず、恋鐘さんの真っ直ぐさを改めて裏付けるようなお話でした。
 同時にこのシナリオはWING編への反省が大いに込められていると思いました。このWING編への反省をコミュの整理と比較から洗い出すというのが今回の主題となります。コミュ内で拾えるところはもっとあるはずですが、これだけに絞ります。話がまとまらないので。

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 GRAD編のどのコミュタイトル・内容もWINGを意識したものになっていますが、とりわけシーズン3の『めげないハート』(WING)と『みえないルート』(GRAD)は同じ選択肢が登場するという意味で象徴的です。というより、GRAD編ではこのコミュ以外で選択肢が出ない、一本道のシナリオとなっています(シャニマスでは結構珍しいのではないでしょうか?)。そしてその3つの選択肢ですらどれを選んでもほぼ全く同じ会話になるというのは、全プレイヤーにどうしても見せたいものがあるということであり、それこそが後述していくような反省なんだと思ってます。さて、ここでは上述した2つのシーズン3のコミュを取り扱っていきます。

WING編『めげないハート』

 まず、WING編を振り返ってみましょう。

 夜、事務所にて。思い悩む様子の恋鐘を見かねて心配するシャニPに、一度は強がってみせるものの、訥々と語りだします。

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 人の悩みというのは往々にして綺麗にまとまった1つの問いとは限りません。ドジをしがちな自分は許されているけど、そのままにしていいのか?自分がなりたいアイドルとはこうだったのか?地元の皆が誇れるアイドルになれるのか?関連しあう不安がキャパシティを超えたとき、弱音となって漏れ出ます。

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 これに対しプロデューサーは「頑張ろうとしてドジをしてしまうところは恋鐘の良さだと思うぞ」「恋鐘には恋鐘の良さがあるんだから他と比べなくてもいいんじゃないか?」と励まし、恋鐘さんは「そう、なんかな……」「でも……うち、プロデューサーにも迷惑ばっかかけとるし……」と自信なさげに返します。そして、例の選択肢が出るわけです。

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 それぞれの内容は以下の通りになります。いずれの回答も、ドジをしまくるような姿は憧れていたアイドル像ではない、憧れになれていないというところは直接解決せず、周りや失敗を気にしすぎないように、と今の恋鐘さんをありのまま肯定する形で決着します。

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 恋鐘さんは周りを気にしすぎるより、自分らしくあるほうが周りを笑顔にできるのは確かでしょう。事実WING編ではこのやりとりが不安を消し飛ばして成功に繋がるし、後々のGRAD編では「プロデューサーがそがん言ってくれんかったら、うちはここまでこれんかったばい」と語られます。また、出来ないことが多い新人時代は自分らしさを固めるほうが大事(実際他アイドルのWINGを振り返っても自分らしさの模索・獲得が課題として提示されることが多い)とも言えますから、間違ったコミュニケーションというわけではありません。
 しかし、この答え、ある種の停滞を導いているようにも、あるいは周りの期待を載せて無敵さを無暗に求めてしまっているようにも思えます。恋鐘さんがなりたかったアイドル像の問題をなかったことにしている、少し歪な解決ではないか?恋鐘さんは事実として強いが、当然その強さは無制限ではないはずではないか?にもかかわらずこのコミュの一連の流れは、弱音を吐き、強がりを解いた恋鐘さんを(Pと恋鐘さん双方が)無自覚にまた同じ強がりの中に戻してしまっていないか?彼女の強さに頼りすぎていないか?という疑念が湧いてきます。
 「今」を肯定するのは紛れもない優しさですが、これは未来を指向した「今」の在り方じゃないのではないでしょうか。無敵ガールこと恋鐘さんの強さとは何なのか、顧みてもいいのではないか。この問題がGRADで問われることになります。

GRAD編『みえないルート』

 GRAD編ではWING以前、283に来る前に様々なオーディションを受けては落ちるを繰り返していた頃を夢で思い出しながら、恋鐘さんが改めて自分について考えます。面接官に言われた「あなたがなりたいアイドルって、一体何?」、トレーナーの「失敗を誤魔化してるだけ」「ちゃんと成長しようよ」、そしてかつてシャニPに言われた「ドジをしてしまうところは恋鐘の良さだと思うぞ」、GRADに向けて言われた「成長できるきっかけ」、それぞれの言葉が恋鐘さんに響きます。今のままを肯定された過去の言葉、成長を望む今の言葉、シャニPはどちらも投げかけているわけです。

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 後日、レッスン中にWINGの時と同じようなやりとりをしつつも、自主的に恋鐘さんは語りだします。ドジをしてしまうのも自分の良さだとわかってるけど、ほんとにそれでいいの?という、WINGの時と同じ問いがなされます。

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 シャニPはこの問いが繰り返されたのは自分がかつてそう肯定したからだと反省し、例の3つの選択肢が出ます。先述した通りこれはどれを選んでも概ね変わりません(その概ねの部分は後述)。シャニPは、公私ともに愛され頼もしい恋鐘さんはいつでも『アイドル』みたいであり、そのままでいいんじゃないかと思っていたことを告白し、今変わろうとしているのを肯定したうえで謝罪します。

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 恋鐘さんはWING編で流されてしまっていたアイドルになりたいという思いをきちんと表明し、かつては「恋鐘は恋鐘っていうただ一人のアイドルになるべきなんだ」と、彼女の憧れをある意味流してしまっていたシャニPも「恋鐘なら、きっと恋鐘にしかなれないすごいアイドルになれる」という言い方で、未来も含めて恋鐘さんを肯定し、彼女は『みえないルート』へ『もう一歩先へ』と踏み出していきます。

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 後述すると述べた例の選択肢の違いについてですが、まず「そんなこと気にするな」「いつもの恋鐘はどこに行ったんだ」という回答は言ってすぐに否定します。これらの返事はどうしても前回の二の舞となるからでしょう。しかし、「何のために俺がいるんだ」だけは否定されません。加えて、以前はこの返事の内容として「何のため」を「フォローするため」とだけ言っていたところに、「恋鐘が悩んだ時、一緒に悩んで、解決して、一緒に成長するため」という理由をつけ足しています。これらはシャニPがいかに反省し、どう変わったのか、そして変わらないのはどこかということが示されています。すなわち、悩みを外から応援するだけの、プロデューサーとアイドルという非対称的な関係性ゆえに生じたズレを反省したことで、共に悩み解決し、一緒に成長する形で相手に寄り添うようになったという風に変わったものの、プロデューサーがアイドルのためにいることはどうなっても変わらないということなのかもしれません。

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 アポイント・シグナルで歌った「キミに辿り着いたらどんなルートもアンサー」というのは、数々のオーディションに落ちてシャニPに辿り着いたということや、その彼への恋道を走る今を示していることはもちろんとして、過去のあのやりとりはGRAD編に尾を引いたものの、WINGを乗り越えられたのはそれのおかげだし、間違いなく今の自分たちを形作っているものだから肯定しようということなのかもしれません。いずれと捉えるにしても、やってることが正解なのか間違いなのかわからなくても、ひたむきに今挑戦できることに挑んで、今を全力で生きてきた人だからこそ出来る「今の肯定」と「未来への自信」のあり方の美しさが現れたとてもいい曲です。
 彼女の強さとは何かという問いですが、こういうところがまさに彼女の強さと言えると思います。作品内でも作品外のユーザーからも恋鐘さんは根っからの無邪気能天気な人として、省みられることもなくその明るさを期待されることが多い人です。しかし、『ひとりのオーディション』筆頭にGRAD全体で示されたように、ただ能天気にやっていけるほどシャニマスの芸能界・社会は優しい世界ではありません。そんな世界でも真っ直ぐ夢を持ち、今を全力で生きて、多くの期待を自ずから背負いながらも自然体の無邪気さ能天気さを失わない彼女はまさしく『無敵ガール』と称賛されるべきでしょう。

おわりに

 気遣いとコミュ力の塊のようなシャニPという男が気遣いで失敗することもあるのかという驚きもありますが、それ以上にWING優勝というサクセスストーリーにおいて、試練の克服の描写が実際には歪なものであり、それが後々仇となってくるというところに凄まじいリアリティと誠実さを感じ、感嘆しました。大抵の場合、初期のコミュは現在のコミュとは結構温度感が違うものですが、実際のところこの歪さが3年前の制作時点で意図されていたこと(伏線)なのか、GRADを作るにあたって省みたのか(後付けなのか)はわかりません。ですが、これらのどちらなのかというのは些末な問題でしょう。いずれにしても、既に区切りをつけた過去のストーリーへ正面から向かい合う、誠実でカッコいいシナリオでした。

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