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家族のための在宅医療読本「事例1 解説 予防医療として在宅医療を活用する」
こんにちは。医療法人社団貞栄会の内田と申します。それでは症例の解説に入りたいと思います。
第1章の事例1に関してです。この方は80代の男性で生活は独居です。ご家族は子供が遠方に住んでいる状態で、基本的には何かあったら電話連絡という形です。介護保険は最近1で、多少認知症がある形ですね。このエピソードでのポイント、書籍で書けなかったポイントということになりますと、この方の場合は、ご家族が見つかった時には、もうお父様はかなり生活が荒れた状態になってしまったところで、病院に入院するとか、そのぎりぎりのところでようやく見つかったという形だと思います。ここでのポイントは、よくある話なんですが、例えば子供がいる親という所の気持ちといった時に、よく子供には迷惑を掛けたくないんだよとおっしゃられる高齢者の方はよくいます。恐らく自分が迷惑を掛けたくなくて、限界まで多分我慢をしていたんだと思いますね。そして、恐らく生活が崩れていることは本人も分かっていたんだと思います。ご家族側も、よくあることで言うと、中々会えないご両親に対して、親はずっと元気でいてくれるものという気持ちが少なからずあると思うんですね。中々会えないと、例えば半年間会えないとか、そういうところで、きっと元気な親のままでいるよねと思っているところがあると思うんですね。そうなった時に、実はこういうことの生活がちょっと心配なんだよな、ということは恐らく家族も気づいていると思うんですけれども、それに対して元気な親であるだろうという、変わって来ることは分かっているんだけれど認めたくないという気持ちとか、それに対してどうしたら良いか分からないというところから、時間が過ぎてしまった結果なのかなという風に思います。結局は私達に相談をいただいたりして、生活を立て直してということを行っていった訳なんですが、よく年配の方が子供に迷惑を掛けたくないんだよということは言われます。逆を言うと、子供が親の面倒を見たくない人というのはほとんどいないと思います。勿論、その人の生活があったり、色んな状況があると思うんですけれど、根本的に親と子、もしくは家族という関係というものは、色んなことがあってもそう簡単に崩れるものではないと思います。現実的・物理的に出来ること、出来ないものはあるとは思うんですが、根本的に見たくない方はほとんどいないのではないかなと思います。こういうちょっとした気持ちの行き違いというところが、もし事前に少しお話し合いが出来たりとかするだけで、こういったことは予防できたのではないのかなと思います。そういうことを得意とすることが在宅医療であったりするんですね。少し生活が乱れてきたのではないかといったところ、勿論介護保険を使って何か生活の予防をしていくということも、多分僕達が入る前には十分な価値があるとは思うんですが、実は在宅医療の得意とする分野に、生活からその人の健康状態を予防するという所があります。ほとんどの場合、病院に行くというのは、何か体調が崩れたからということがほとんだと思うんですね。元気な時に先生とお話し出来るというのは実は中々チャンスがないんだと思います。在宅医療の場合は、お家に行って色んな相談をすることが出来るので、お家の中に隠れている色んなリスクをチェックすることが出来るんですね。例えば、簡単なことで言うと、段差ですね。これ転ばない?転ぶんじゃないか?という所から、よく転んでから初めてバリアフリーにしましたというお家も多いですが、出来れば転ぶ前にしてあげたい所ですよね。あとは、ある程度年配の方で多いのは食生活が乱れてくるとか、この方は独居の男性ですけれど、恐らくかなり生活は嗜好品に偏っていると思うんですが、そういった部分が長年積み重なると栄養状態が下がって来てしまって、そのせいで転びやすくなったりとかということに繋がるでしょう。こういった所も、訪問診療で生活からアプローチをすることで、その人が長く家で過ごすということを予防的に行うことが出来ます。それをケアマネジャーさん、ヘルパーさん、訪問看護の方等と一緒に多職種連携で、その人が家で長く過ごせるということを実現することが出来ます。
ですので、先程あったように、ちょっと生活が乱れて来たけれど、そこを出来ればそのままにしないで、その先長く家で生活できるための一歩として、私達クリニックでも良いですし、介護保険の生活支援とかでも良いと思うんですけれど、是非ともそういう時に我慢せずに、是非声を掛けていただけたらと思います。