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「在宅医療」のよくある”誤解”
高齢化が進んでいる昨今、「在宅医療」という言葉自体は一般の人にも知られるようになってきました。
しかし、病院の医療と同じように在宅医療が広く浸透しているかといえば、残念ながらそうではありません。在宅医療というと、何かハードルが高いというか、「うちではちょっと難しいのではないか」と二の足を踏んでしまう人が少なくないようです。
在宅医療をためらってしまう理由には、多くの”誤解”があると私は思います。皆さんが想像するほど難しいことは実際にはなく、むしろ高齢者本人やご家族の状況に合わせて柔軟に対応できるという良さもあります。
そこで、一般の人が抱きがちな在宅医療についての”誤解”を以下に挙げてみます。その真相を知れば、「なるほど、それならうちでもできそうだ」と思っていただけるはずです。
【誤解1】家族が高齢または日中不在だから、在宅医療はできない
在宅医療に関する誤解のなかで、おそらく最も多いのは、「うちでは介護を担える家族がいないから、在宅医療はできない」というものでしょう。
昔であれば長男の妻が家を守り、高齢になった親の面倒も見ていたのでしょうが、今は核家族化が進み、高齢の夫妻だけの世帯も多くなっています。夫婦のどちらかが病気になり在宅療養をしたいと思っても、配偶者も高齢で、体力的にも介護をする自信がないというケースが急増しているのです。
また、子ども世帯と同居している高齢者でも、子どもがちょうど働き盛りの年代で日中は家におらず、家で介護をするなどとても無理だ、と思ってしまうことも少なくないようです。
しかし、実際には同居のご家族が高齢でも日中不在でも、在宅医療は可能です。最近では、そういうご家族のほうが在宅医療の主な利用者だといっても過言ではありません。
訪問看護師やヘルパーといった在宅医療の専門スタッフに支えてもらうことで、ほとんどの場合、自宅で療養生活を送れることを知っておいてください。
【誤解2】高齢者の一人暮らしだから、在宅医療はできない
高齢者の一人暮らしだから、要介護になったら自宅で暮らすのは難しいー。これもよくある”誤解”です。
最近では、高齢者の単身世帯は珍しくありません。高齢の夫婦のみの世帯で一人が亡くなると、残ったほうは一人暮らしになりますし、生涯独身という人もいます。内閣府の2016年の調査でも、65歳以上の高齢者のいる世帯の約25%は単身世帯となっています。
同居家族のいない単身の高齢者でも、本人が希望すれば在宅療養を行うことができます。要介護度に応じて専門スタッフのケアを受けつつ、自宅で生活している一人暮らしの高齢者はたくさんいます。
【誤解3】病気の状態が重いので、在宅医療はできない
患者さんの病状が重くなるほど、病院での専門的な管理が必要になるから、自宅に帰るなんてできない、と思ってしまうご家族も多いかもしれません。
しかし、最近は医療技術の進歩もあり、病状の重い人でも多くの場合、在宅療養が可能になってきています。胃ろうなどの経管栄養を行っている人や人工呼吸器を装着した人も自宅で療養でき、酸素療法、人工透析、がんの緩和ケアなども在宅で行うことができます。
また、医療的ケアが必要な患者さんの場合、病院で医師や看護師がやっていることを、そのまま自宅で家族がやらなければいけない、と気負う必要はありません。在宅療養では、看病する人に負担の少ない”在宅ならではのやり方”があります(「家族の介護は、「できる範囲」で考える」参照)。
【誤解4】かかりつけ医を変えたくないので、在宅医療はできない
在宅医療を受け始めるときは、今まで通っていた病院との付き合いをすべてやめなければならない、と思っている人もいるようです。実は、ケアマネーカーなど介護の専門職のなかにも、そのように誤解している人がいます。
そのため、「病院をやめてしまうと、長く見てもらってきた先生に悪い」とか、「かかりつけ医を変えるのは不安」といった理由で、在宅医療に消極的になってしまうケースもあります。
既に述べたとおり、通院して診てもらいたい医師がいるならば、病院への通院治療と在宅医療を並行して行っても、まったく問題はありません。
また、「信頼している医師がいるけれど、そろそろ通院が難しくなってきた」というときは、その主治医に「往診を頼めるか」、あるいは「これまでの治療を引き継いでもらえる在宅医を紹介してほしい」と相談してみるのも一案です。
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【誤解5】十分な治療ができず、早く亡くなってしまう
在宅医療では、病院と比べて十分な治療ができずに生存期間が短くなってしまうのでは・・・・・・と心配する声もよく耳にします。
まず、在宅医療で行える医療は、病院とまったく同じとまではいえませんが、手術や放射線治療など一部の高度な医療をのz毛羽、ほぼ遜色ありません。
また、病院でなければできない治療が必要なときは、提携先の病院に受け入れを要請するシステムも整備されているため、十分な治療が受けられないという心配は無用なのです。
がんの患者さんを対象にした調査では、病院で治療を続けた人と在宅医療を選んだ人とを比較すると、在宅の人のほうが、生存期間がやや長い傾向があるという結果が出ています(2016年4月、約2000人を対象とした筑波大と神戸大チームの研究より)。
【誤解6】在宅医療は、終末期に行うものだ
在宅医療について、がんの終末期のように「病院でできる治療がなくなり、あとは死を待つのみという状態の人が行うもの」というイメージを持つ人もいるようです。そのため「うちはまだそういう状態じゃないから」と無理を押して通院を続けている家庭もあります。
確かに、在宅医療では終末期の患者さんのケアや看取りなども行いますが、それだけが在宅医療ではありません。
住み慣れた自宅でゆったり療養したい、自宅で生活しながら病気の進行や体力低下を防ぎたい、といったときも、在宅医療では患者さんの要望に合わせて医療・ケアを提供できます。
【誤解7】自宅で看取るのは難しいので、在宅医療は無理
在宅医療をいったん始めたら、自宅で看取りまでしなければならないーという”誤解”も多いかもしれません。
しかし、在宅医療を始めるときに、必ずしも看取りの場所が決まっている必要はありません。自宅での看取りもできますが、「最期は病院で」という本人やご家族の希望があれば、そのようにも対応できます。看取りの方針が決まっていないときは、在宅医療をまず初めて、その流れのなかで相談をしていければいいのです。
引用:
『1時間でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』
著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2017年11月2日
出版社:幻冬舎