望郷哀歌
例えば、夜の公園を歩いている時に見上げた先に、星が妙に綺麗に並んでいたこととか、そんな場面ばかりを思い出す。だって特に有名人や物語の主人公でもない僕の人生なんて、取り立てて毎日思い出せるような出来事で溢れているわけじゃない。描写ばかりが言葉になって白い余白を埋めていく。僕は去年の今頃、生まれた町を出た。十分馴染んだ友人や、やけに仲が良かった坂の下の曲がり角にある家に住んでいるおばあさんがいる町だ。時々彼らや彼らを取り巻く建物や空気、ある季節に嗅いだ花の匂いなんかを思い出す。でも日々の出来事を鮮明に蘇らせることは難しいみたいだ。描写ばかりが望郷の想いを募らせる。当たり前だった日々への哀歌として。