手紙社リストVOL.22“本”編「花田菜々子が選ぶ『だれかの日記の本』10冊」
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「日記の本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
1.『1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい』
著・文/小沼 理,発行/タバブックス
まずは最近読んで「めっちゃおもしろい! めっちゃいい!」と感動した個人的イチオシの1冊。コロナ禍の2020年からの三度の夏を淡々と記録しているだけなのだけど、きりりとしていて、それでいて柔らかい文章がとにかく素敵。同性愛者であること、政治のこと、日々の料理のことが等価に語られる空気感もよいです。
2.『読書の日記』
著・文/阿久津隆,発行/NUMABOOKS
本を読むことが何よりも大好きで、読書のためのカフェ『fuzkue』まで経営している阿久津さんの、日々の現実と読書の世界が混じり合うユニークな日記。細部まで書き込まれる描写と、話し言葉のようなゆるゆるとした文体も魅力です。
3.『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』
著・文/山本文緒,発行/新潮社
2021年に癌で亡くなった山本文緒さんの、最期の日々の記録。人はこんなにも静かに美しく、自分が死に向かっていく様子を書き残せるのかということにまず感嘆する。悲しいけれどどこかさわやかでもあり、読んで良かったと思える1冊。
4.『台風一過』
著・文/植本一子,発行/河出書房新社
現在の日記文学の第一人者と言える植本一子さんの日記シリーズ、こちらは夫の死から始まる新たな季節の生活の記録。不安やつらさなどネガティブな感情を取り繕うことなくするすると書き出す彼女の日記は、賛否両論ありながらも、夢中になる人、読んで励まされたという人多数です。
5.『まいにち酒ごはん日記』
著・文/ツレヅレハナコ,発行/幻冬舎
とにかく楽しそうでおいしそうな幸せ100パーセントの日記ならこちら。料理の本を多く手がけるツレヅレハナコさんの「食」「酒」「旅」への愛が1冊にぎゅっと詰まっていて、ページをめくるたびにワクワクします。最近元気が足りないな~、という人はぜひ。
6.『ヨーロッパ退屈日記』
著・文/伊丹十三,発行/新潮社
なんと単行本の初版は昭和40年。今も読み継がれている、もはや“古典”と言っていいほど昔の、映画監督・伊丹十三による日記風のエッセイ。日本人がナポリタンを食べていた時代にヨーロッパでアルデンテを食し、「本場ではこうなんよ」とのたまう感じがたまらないです。今読んでも面白い、とはまさにこんな本のこと。
7.『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』
著・文/品田 遊,発行/朝日新聞出版
あるときは小説家として、あるときはおもしろ系のWEBライターとして活躍する品田さんの哲学的な思索のメモ集。と思いきやもともとは日記だったとのことで、日記の片鱗はないですが、日記ってこんなふうでもいいんだな、と思います。SNSに流されずに常識を疑い、じっくり物事を考えてみたい人におすすめの本。
8.『ぼくとねこのすれちがい日記』
著・文/北澤平祐,発行/ホーム社
「ねこがしゃべれたら今どう思ってるのかな」なんて、誰しも想像したことがあるはず。絵本ふうのこの物語は、同じ日を「ぼく」と「ねこ」が同じように綴る日記形式で進んでいきます。猫からは我々の行動、そんなふうに見えてたのか~。って、もちろんこれも人間の想像にすぎませんが。たのしくてかわいくてちょっとせつないお話です。
9.『モトムラタツヒコの読書の絵日記』
著・文/モトムラタツヒコ,発行/書肆侃侃房
絵日記といえば小学校のときにやった以来ですが、こちらは読んだ本の感想ノート……のようなものなのに、なぜか絵日記。なんと本をスケッチしているのでした。でもこんなふうに手書きで読書日記を続けてみたら、誰かに見せるのも楽しみになりそう!
10.『じゃむパンの日』
著・文/赤染晶子,発行/palmbooks
今ひそかに話題になっているこちらのエッセイ集。芥川賞を受賞しながら早くに亡くなられてしまった赤染晶子さんの文章は面白くて笑えてちょっと不思議。そして巻末には岸本佐知子さんとの『交換日記』が! 交換日記なんていうのも小学生のときに流行ったものですが、大人になってやってみるのこそいいかも、と思わせてくれる楽しさ。往復書簡じゃなくて交換日記なのがよい!
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。
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