手紙社リスト映画編 VOL.21「キノ・イグルーの、観て欲しい映画10作・特別編《勝手にアカデミー賞 2022》」
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、1年を振り返る特別編「勝手にアカデミー賞!」です。2022年に公開された最新作の中から《主演俳優賞》、《助演俳優賞》、《ドキュメンタリー賞》、《アニメ賞》、《音楽賞》の5つの部門の受賞作品・俳優を勝手に決めてみます。その選考をしてくれるのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、各賞1本ずつ発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、感心し合うというライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから特別編「勝手にアカデミー賞!」を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、後攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、2022年の映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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有坂:今月は1年の振り返りということで、去年もやりましたが、「勝手にアカデミー賞!」ということで、5つの部門を、それぞれ発表していこうかなと思っています。今年、公開された映画の中から選ぶので、みなさんが観た映画とかも、もしかしたら挙がってくるかもしれない。もし、自分だったらどんな映画を選ぶかなというところもね、重ねながら聞いてもらえたらうれしいなと思ってます。通常だと、僕たちが、作品がかぶった場合は、差し替えて別のを紹介するという形でやってるんですけど、このアカデミー賞に関しては、重なるのはアリだし、むしろ、それぐらいお互いの心に響いたってところも含めて楽しんでもらいたいなということで、丸かぶりする可能性もあるね。
渡辺:あるね!
有坂:ないな(笑)、多分ない! と思ってます。
渡辺:じゃあ、早速いきたいと思います。「主演俳優賞」からですね。
渡辺の2022年《主演俳優賞》
ホアキン・フェニックス
主演映画『カモン カモン』監督/マイク・ミルズ,2021年,アメリカ,108分
有坂:おおお!
渡辺:これは、モノクロで現代を描いた、少年と伯父さんですね。主人公のホアキンと甥っ子の心の交流のお話なんですけど。「ホアキン・フェニックスって本当にすごいな」って、あらためて思った作品で、ホアキンって前に出ていた映画で有名なのが『ジョーカー』っていう作品で、もう本当に人を殺しまくっていた役を演じていた人なんですけど、この新作では、本当になんか、蚊も殺せないような雰囲気が漂っているっていうところがあって、なんかホアキンって、監督サンからすると気難しいというか、自分の言ったとおりやってくれるかわからないみたいな、そういうところがあるみたいで、今回の『カモン カモン』もパンンフレットに書いてあったんですけど、監督がオファーして、ちゃんと受けてくれているのかわからないみたいな。撮影当日来ないんじゃないかみたいな(笑)
有坂:ビル・マーレイもそうだよね。
渡辺:そのぐらい、ちょっと、どこまで伝わっているのか読みきれないっていう人らしいんですけど。あとは、やっぱり受けてくれるかどうか、すごいわからないっていうタイプの俳優さんらしいんですが、この『カモン カモン』は受けてくれて、撮影当日、現れたと。そしたら、もう完全に仕上がってやってきたっていうところだったらしいんですけど、それでやっぱり、これぐらいの雰囲気を出せちゃうっていうところが、本当にすごいんだなと思ってですね。まあ、映画もすごく素晴らしいし、本当にホアキン、「あの『ジョーカー』の人」とは思えないっていうところがあって、やっぱり主演俳優賞はホアキンかなと思って挙げました。
有坂:まあ、本当にもうノリに乗っているよね。
渡辺:うん!
有坂:一時期、結構大変な時期があったじゃん。
渡辺:ああー、ホアキンって、あれは茶目っ気なのかわからないんですけど、「僕は俳優やめる」って言い出したんですよ。で、アカデミー賞とか獲った後だよね?
有坂:後だったっけ?
渡辺:うん、もう結構ノミネートされている名優なんですけど、「俺はラッパーになる」って言って、俳優やめる宣言したんですよね。それで、ラッパーとして活動しだして、でも、全然上手くないし、叩かれまくって、本当になんかね、「どうなっちゃったんだ! ホアキン」みたいな、薬でもやってんじゃないのかってなったら、「嘘でした!」ってやったんですよね。
有坂:それを1つの作品にしたんだよね。
渡辺:そう! ドキュメンタリーとして実は撮っていて、で、みんなの反応を見るっていうドッキリをやったんですけど、みんな本気で心配してたから、めちゃくちゃみんな怒っちゃって(笑)。
有坂:逆風になったんだよね。
渡辺:それで干されちゃったんですよ、映画業界。
有坂:自爆だよね。
渡辺:で、監督をしていたのが、俳優でもある。なんだっけ、名前忘れちゃった。あの弟。
有坂:ああ、えっとあれだ……、忘れた。
渡辺:ちょっと、後で思い出しますけど、ちょっと思い出していて。
有坂:わかりました!
渡辺:で、結局2人とも干されちゃったんですけど、ホアキンは『ザ・マスター』っていう映画で復活して、その復活劇でアカデミー賞を取るっていうですね。もう、さすがの復活劇を果たしたんですけど。その監督をやっていたほうは、ずっとその後も恵まれず、ただ、俳優として出た『マンチェスター・バイ・ザ・シー』っていう映画で、アカデミー賞を……
有坂:ケイシー・アフレックだ! やっと出てきた。
渡辺:そうだ。
有坂:ベン・アフレックの弟の。
渡辺:そうなんですよね。で、ベン・アフレックと親友のマット・デイモンが、本当はその『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の主演の役だったんですけど、そこは「ケイシー・アフレックに譲る」って、ケイシーの復活劇にしてくれって言って譲ったら、ケイシーは期待に応えて復活して、アカデミー賞を獲ったっていうですね。それで2人とも、今は一線で活躍して復帰してるんですけど、1回やらかしているっていう(笑)。
有坂:そうだね。まあ、でもやらかした人は強いよ!
渡辺:うん。
有坂:と思いますね。
渡辺:そんなエピソードもある人です。
有坂:ホアキンね。だよねと思って、僕はまったく違った主演俳優賞を用意しました。
有坂の2022年《主演俳優賞》
宮本信子
主演映画『メタモルフォーゼの縁側』監督/狩山俊輔,2022年,日本,118分
渡辺:えええ!!
有坂:これ、観た方いるかな? あのダブル主演。
渡辺:だよね。芦田愛菜ちゃん。
有坂:そう、芦田愛菜ちゃんと。で、なんか、BL漫画をきっかけに、その年の差離れてる2人の間に友情が生まれるっていう。すごくわかりやすい設定の物語になっていて、で、まあBL漫画だし、その設定もほんとに誰が観てもわかるような、そのわかりやすさが、ちょっと僕にとっては壁になっていて、なかなか気にはなってるけど観に行けないみたいな、そんなのが続いてたんですけど、なんか観ておきたいなと思って。で、芦田愛菜ちゃんの演技というか、彼女のなんか存在、CMとか、バラエティでMCやっている姿とか、本当になんか「唯一無二のこの雰囲気ってなんだろう?」って、ずっと気になっていて、意外としっかり演技を、僕は観たことがないなと思ったので、重い腰を上げて観に行ったら、まあこの2人の演技力で成り立っていることも間違いないし、なんでしょうね、そのBL漫画が好きになったとか、それをきっかけに会話ができる友達ができたっていうことを、なんか理屈ではなくて、やっぱりこう表情とか、その声の上ずっている感じとか、こう醸し出している雰囲気で、すごく説得される。だから、もうこの設定に嘘はないっていう状態で、安心して物語に入っていけるっていう良さがすごくあって。それで、本当に何歳になったって、好きなものはね、あることは、やっぱり人生を輝かせるし、そういう人と出会えたらワクワクするっていうのは、年齢関係ないよなっていうのは、実は僕の母親もそうで。
渡辺:うんうん。
有坂:母親にこれを真っ先に勧めたんですけど。
渡辺:BL好きなの?
有坂:うち、BL好きではないんですけど(笑)
渡辺:そういうわけじゃない(笑)
有坂:そうそう、うちの母親は60超えてからバンドを再結成して、で、そのライブの手伝いを、僕ら子どもがするみたいなことがあるんですけど、なんかその自分が好きになったものを通して、同世代の人とのコミュニケーションよりも、若い人とそういう話をしたい、で、間にやっぱりこう共通の話題があるから、きっかけにもなるしってことで、なんかね、そういうのを見ていたから、余計に響いたっていうのはあるかもしれないんですけど。まあ、宮本信子さんの名演であることは間違いないなと思います。
渡辺:なるほどね。
有坂:これ、BL漫画に興味がないから観ないっていうのでは、ちょっともったいないと思うので、それを自分の好きなものに置き換えて、観てもらえるといいかなと思います。
渡辺:なるほどね。年の差の友情話だよね。
有坂:そうだよね。
渡辺:これ、でもフィルマークスでも、すごく評価が高かったんだよね。まだ、レンタルとかなってないかな。
有坂:かな?
渡辺:もうそろそろなるんでね。なるほど、そうきましたか。
有坂:あ、レンタルありますね。Amazonプライムは購入。
渡辺:そっかそっか、見放題とかはまだ出てない。
有坂:おすすめです!
渡辺:よし、じゃあ次、助演俳優賞。
渡辺の2022年《助演俳優賞》
伊東蒼
助演映画『さがす』監督/片山慎三,2022年,日本,123分
有坂:ああ!
渡辺:この『さがす』っていう作品は、今年の1月か2月ぐらい、早めに公開された作品で、主演は佐藤二郎さんで、助演が娘役の伊東蒼さんっていう、彼女は15歳ぐらいかな。16歳ぐらいの女優さんなんですけど、去年だと『空白』っていう作品で、古田新太が父親役で、ものすごいシャイな娘を、誰にも悩みを相談できないっていう、すごくシャイな、地味な女の子っていうのを演じていて、それがすごい印象的だったんですけど。この『さがす』という作品では、佐藤二郎さんが父親なんですけど、その娘のチャキチャキの関西弁の真逆のキャラを演じていて。で、この『さがす』っていうのがミステリーなんですけど、大阪の下町で暮らす父と娘2人っきりの家族なんですけど、お父さんが、「お父ちゃん、電車の中で指名手配犯見たんや!」って言って、「こいつ、捕まえたら300万やで」みたいに言っていた翌日に、忽然と姿を消してしまうっていう。で、その父親を探すという話なんですね。父親は、工事現場で働いているので、父の職場に行って、「誰々の娘です」って言って、「そしたら何々さん、あそこにいるよ」って言って、お父ちゃんいたと思って、そこの何々さんって言われた人のところに行ったら、全然別の男だった……っていう、そこから始まるミステリーなんですけど。これ映画としてもめちゃくちゃ面白いし、そのお父ちゃんを探し続ける伊東蒼さんの演技が本当にすごいんすよね。もう今、たぶん若手でナンバーワンじゃないかなと思う演技力です。あの二階堂ふみさんとか、本当に随所随所でそういう女優さん出てきますけど、そういうタイプの、また新しいすごいイキのいい若手が出てきたっていうね。
有坂:そうだね。
渡辺:それを見つけたときのあの感じを、本当に彼女には感じるところがありました。作品としても本当に面白いですし、Amazonプライムで、ちょうど見放題で。
有坂:映画だとあれだよね、『湯を沸かすほどの熱い愛』とかもね出ていて、杉咲花ちゃんもね、天才ぶりが発揮されていたけど、実は彼女も出ていた、伊東蒼さんも出ていたっていう。
渡辺:そうですね。で、監督がね。また、『岬の兄妹』っていう。衝撃の作品でデビューした。ポン・ジュノの助監督をやっていたっていう人で、実力はすごいあって、なかなか骨太なパンチ力ある作品もね。『岬の兄妹』っていうのでデビューして、その渾身の2作目がこの『さがす』という作品で。結構これ、評判もすごくいいので、もうミステリーとしてもすごく面白いので。
有坂:これあれだよね。ちょっと画期的だなと思ったのうが、ポスタービジュアルをさあ、
渡辺:ああ、何種類もね。
有坂:韓国の「Propaganda」っていう会社にオファーして、韓国の会社が日本映画のポスターをつくったんですよ。あんまり聞かないパターンで、やっぱりその探すっていうあの文字、平仮名の「さがす」のフォントのつくり方とかにも、すごい徹底的にこだわったっていう。で、5種類ぐらいの5人のキャラクターのポスターと
渡辺:卓球台のね。
有坂:そうだね。みんなが集まったバージョンと結構何種類もあってね。そういうなんか、ビジュアルをそれだけつくるとか、そこに力を入れたっていう意味でも、しかも、「Propaganda」が日本映画のポスターデザインをやってくれたっていうとこでも、個人的にはグッときた一作。
渡辺:「Propaganda」は、韓国のデザイン会社で結構ポスター、映画のポスターではかなりレベルが高いものをつくっていてね。デザインとして、デザイン性がすごい高いからね。結構日本でも知られ出している会社ではあると思うんですけど、そこにね、オファーするっていうのも、いいよね。
有坂:そうだね。だから、日本だと、石井勇一さんと大島依提亜さんっていう、まあ、2人のデザイナーさんがいて、彼らがつくるポスター、あとはパンフレット。パンフレットも、1000円とか1500円のものとかあるんですけど、本当にそのひとつのアートブックみたいな価値があるようなパンフレットを、小さい規模でつくっていたら、だんだん、それが評価されるようになって、その日本のデザイナーにも「Propaganda」のデザイナーさんは影響を受けているっていうふうに言っているので、なんかいい形でね。そういう交流ができているものが、こうひとつ結実したなっていうのが、「さがす」のポスターデザインかなと思うので、ぜひそこもね、検索していろいろなバージョンが出てくるので、チェックしてみてください。
有坂:はい、じゃあ、僕の助演俳優賞は、さっき順也がね、『カモン カモン』を挙げましたけど、僕は『カモン カモン』の少年役だった俳優です。
有坂の2022年《助演俳優賞》
ウッディー・ノーマン
助演映画『カモン カモン』監督/マイク・ミルズ,2021年,アメリカ,108分
渡辺:!!
有坂:やっぱりね、ホアキンが名優なのは、もう言わずもがな。そのホアキンと、マンツーマンで演技するなんてさ、こんなプレッシャーのある仕事ないよなって思うわけですよ。
渡辺:なるほど(笑)。
有坂:で、このウディー・ノーマンくんっていう彼は、2009年生まれ。だから、撮影のときは12歳とかだったみたいです。で、テレビドラマをきっかけに俳優デビューして、『エジソンズ・ゲーム』って、あのカンバーバッチが主演した、あれにも出ていたりするみたいですね。で、そこからどういう経緯で彼がキャスティングされたかまでは、ちょっと僕はわからないんですけど、そのもうね、重要も重要なホアキンの相手役ということでキャスティングされたんですけど、やっぱりホアキンは、基本受け身の役じゃない。で、その子どもの彼が物語をこう掻き乱していく。あとはモノクロだからなんだろう、本当に佇まいが良くないと、そもそも作品として成立しないなっていうところで、その佇まいもいいし、俺ね、一番好きなのが、2人の出会いのシーン。
渡辺:出会いのシーン?
有坂:家にホアキンがピンポンって来て、扉を開けたところで挨拶するんだけど、少年役の彼はすっごくシャイで、内気なキャラクターじゃない。で、その内気なキャラクターが、もう最初の挨拶から出ている。
渡辺:はいはい。
有坂:で、挨拶するんだけど、ささやき声で挨拶する。だから、この2人がこれからどういうふうに、そのお互いの心の距離を越えていくんだっていうのを、もう最初の出会いのシーンでバシッと観せてくれていて、しかも、そのささやき声、それ反則でしょっていう、可愛すぎでしょっていうのがもう冒頭であった。
渡辺:ホアキンも遠慮がちなキャラだったしね。
有坂:そうそう、なので、やっぱりこういうキャラクターメインの映画って、ほんとに俳優次第で全然作品の出来って変わってくると思うんですけど、まあ、主演もそうだし、この助演であるウッディー・ノーマンくんがいたことで成り立った映画だと、僕は思っています。だし、もう怪物相手にね、本当にタイマン張るみたいな。
渡辺:でも、すごい自由な感じのね。
有坂:そうだね。『かいじゅうたちのいるところ』の主演の彼にも、ちょっと雰囲気的にも、声質も似ているなと思って、そういうところも好みでしたけど。
渡辺:好きだね。
有坂:そう、あとさ『ルーム』のジェイコブ・トレンブレイとか、あと、『gifted/ギフテッド』の女の子。マッケンナ・グレイスとか、本当にアメリカは天才子役が次から次へと出てくるなということで。
渡辺:芦田愛菜ちゃんもいるから。
有坂:そう、日本で言えば芦田愛菜ちゃんも、そうだけど。まあね、そういう彼らのね。ネクストブレイクした彼らの作品を、もうこれだけでは終わらせずに、小さい役もやっていきながら成長していくと思うんで、ちょっとこう追っていきたいなという俳優さんが、ウッディー・ノーマンです。
渡辺:じゃあ、続けて。次がドキュメンタリー賞。
渡辺の2022年《ドキュメンタリー賞》
『アザー・ミュージック』監督/プロマ・バスー,2019年,アメリカ,85分
有坂:ああ! そうだった、忘れてた!
渡辺:この『アザー・ミュージック』っていうのは、レコードショップの名前なんですけど、すごく個性的な店主で、ニューヨークにあったお店なんですけど、タワーレコードの向かいにあったんですね。で、タワーレコードっていうのは、もう基本的にヒットチャートの作品を多く扱ってるいんですけど、自分たちはもっとインディーズレーベルのいい音楽を取り揃えているっていう、そういう個性的なお店だったので、タワーレコードのメジャー音楽に対して、自分たちは「アザー・ミュージック」っていう、その他の音楽みたいな、ネーミングをお店にもつけて。それで、ずっと営業していて、音楽ファンに愛されたレコードショップです。それがコロナ禍のタイミングとかで閉店しちゃったんですけど、そこを追ったドキュメンタリー作品です。で、なんかいろんな歴史とかをね、紐解いていったりするのが、「あっ、このお店、こんなに愛されてたんだ」みたいなところがすごく伝わってきて、そのお店にずっと通い続けているファンの人たちの話とか、そういったところからどんなお店だったのかっていうのが、すごくよくわかってくる作品です。で、オノ・ヨーコとかもね、インストアライブをやっていたりとか、ヴァンパイア・ウィークエンドとか、そういう結構インディーズのいいバンドとか、ミュージシャンたちに愛されたお店で、まあ、すごく店員も個性的な人たちぞろいだったらしく、「なんかこれある?」って聞いているのに、全然違うものを勧めてくるとか、なんかね、そういう音楽にはすごい詳しいんだけど、もう店員の個性が強すぎて、お客さんとケンカしだしたりとか。
有坂:ジャック・ブラックの出演した『ハイ・フィデリティ』っていう映画の、彼のキャラクターがすごい重なるような。
渡辺:うんうん。本当にちょっとね、今のチェーン店とかだと考えられないような。そういう、本当に唯一無二のここにしかないっていうお店の歴史をこう観せてくれる、そんなすごくいい音楽ドキュメンタリーです。
有坂:これね、僕、かつてキノ・イグルーやる前に、某レンタルショップで5年ほどアルバイトしていたんですけど、そこのお店はもうまさにアザー・ミュージックみたいな、もう個性的なスタッフが揃っていて。
渡辺:そうだよね。
有坂:実際ね、お客さんとケンカとかあるんだよね。
渡辺:それどうやって喧嘩になる?
渡辺:んー。なんかね、やっぱり店員側がプライドが高すぎて、なんか知識をこうひけらかすっていうと、ちょっと言い方が良くないんだけど、なんか自分の知識を自信満々に言って、何か問い合わせしてきた人と。
渡辺:戦っちゃうんだ!
有坂:少しずつ、そうそう、こう感情がズレ始めて、もう店員とお客さんってことを忘れて、ケンカを始めるみたいな。
渡辺:なるほど。
有坂:そう、だけど、自分の中に確固たる信念というか、思いみたいなものがあった上で、ビデオを借りに来ているっていうのが、それがいいなと思って。なんかそういう人がいたっていいし、なんかアザー・ミュージックを観たときに、やっぱりもうお店がなくなっていくプロセスを映像に残しているからね、過去のものっていうふうに見えるけど、でもこれだけインターネットで、AIがすおすすめを選んでくれるとかっていう時代になればなるほど、やっぱり人のね、心を介したおすすめであったりとか、そういったものの価値が高まってくることは、僕は間違いないと思っていて。なので、「あなたのために映画をえらびます」っていう企画を僕はやってたりするんですけど、なんかそれをね、ニューヨークのど真ん中でやっていたのが、理想的な形でやっていたのが、アザー・ミュジックかなと思うので、観てほしいよね。
渡辺:本当にいい映画なので。
有坂:はい、わかりました。じゃあ、僕のドキュメンタリー賞は、ちょっと予定していた映画を変更して。今、順也が紹介した『アザー・ミュージック』にちょっと近いアメリカのドキュメンタリーを紹介します。
有坂の2022年《ドキュメンタリー賞》
『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合』監督/ジェレミー・エルキン,2021年,アメリカ,89分
渡辺:ほう!
有坂:これはもう、その名のとおり、ヒップホップとスケボーが出会った、その時代の裏側を映像に記録、まあ、その時代の映像を使ってドキュメンタリーとしてまとめた作品になります。時代で言うと1987年から97年の10年間。やっぱりまだ今ほどカメラとか、今だったらスマホでなんでも記録できますけど、そういうハードがない時代に、それでもカメラを回していた人がいた。うん、それがまずひとつ価値かなと思います。で、僕はスケボーもやらないし、ヒップホップもまあ聴きますけど、別に自分がやるわけじゃないですけど、なんかね、昔から無性にそのストリートカルチャーに惹かれる自分がいて、で、その例えばヒップホップて言ったら、そこからグラフィティね。日本だとこう落書きって言われちゃいますけど、グラフィティとか、そのスケボーもそうなんですけど、そこのストリートから発生するカルチャーっていうものに、昔からすごい興味があって、そういったドキュメンタリーとか本とかが好きで、いろいろ読んだり観たりしている中で、その白人メインのスケボーと、黒人カルチャーであるヒップホップが、どういう形でこう融合したのかっていうのを、こんな貴重な記録映像とともに教えてくれる映画が、こんなタイミングで観られるんだっていう喜びがありました。今年公開のもちろん映画なんですけど。で、そんなに、知識がなくても、なんて言うんだろう、その当時のニューヨークのストリートの雰囲気、ちょっとフィルムもザラザラしたようなフィルムで、ちょっと荒々しい雰囲気のその時代が記録されてるものを観るだけでも、多分、カルチャー好きにとってはドキドキするし、なんか、それをきっかけに、今ではもうそのメジャーもメジャーじゃない。ヒップホップもスケボーも。
渡辺:そうだね。
有坂:そのいわゆるプラダとかいったハイブランドも、取り扱うようなものになってきているので、ただ、それもほんの数十年前までは、こんなにインディペンデントなカルチャーであったってことが、やっぱり映像だとね、こう空気で伝わってくると思うので、なんかぜひ、すごく公開は小規模だったんですけど、一人でも多くの人に観てほしいなと思う。
渡辺:スパイク・ジョーンズとかも、ここから出てきている人だしね。
有坂:そうだね。で、この映画は過去のアーカイブ映像と、インタビュー、最近撮ったインタビュー映像が混ざったもので、そのインタビュー映像の方に、あの伝説の映画『KIDS/キッズ』に出てくる、レオ・フィッツパトリックとか、ロザリオ・ドーソンっていう人たちも出てきます。なので、あの時代に、本当にストリートでもう本当に自分が好きだからやってたいものが映画化されて、彼らはこうまさかのスターダムにのし上がる、そんな彼らの言葉もこのドキュメンタリーの中では観られますので、ぜひ、まだDVDも配信にもないね多分これ。しかも、パンフレットが大判の写真集みたいなやつで、2000円以上したんだよね。なんか、いろんな意味で作り手、届ける側の思いがすごく詰まった一作なので、機会があったら観てほしい一作です。
渡辺:なるほど! 続けて、アニメ賞。そうですね、どうしようかなと思ったんですけど、あれです。
渡辺の2022年《アニメ賞》
『THE FIRST SLAM DUNK』監督/井上雄彦,2022年,日本,124分
有坂:おお! そこ!?
渡辺:そこです。もう思いっきり世代なんで、僕は。ちょうど僕らの頃に、漫画連載がすごく流行っていて。
有坂:(週刊少年)ジャンプでね。
渡辺:ジャンプで。で、バスケ部が急増するっていうですね……っていうのを目の当たりにしてたんですけど。で、僕、映画館に観に行ったら、ほんとに同い年ぐらいのおじさん達がいっぱいいて、おじさんがみんな泣いているっていう(笑)。あっ、これはすごいなと思って。もちろん映画もすごくいいんですけど、なんか、その時代、ひとつの時代を引っ張ってきた漫画のタイトルっていうところで、これだけやっぱりなんか年月が経っているのに、ファンがこれだけやっぱりいるんだっていうのが、すごいなと思いました。
今回、ちょっと原作とは違う切り口でやっていたりとか、あと漫画的というか、モーションキャプチャーっていう……モーショングラフィティっていうんですかね、っていう3Dの技術を取り入れたりとか、漫画っぽくないところを取り入れたりしてるんですけれど。トータル的には、すごい名シーンの連発で、やっぱりファンを感動させるような仕上がりにすごいなっていたなと思いました。やっぱり、本当に時代を感じたというか。
有坂:そう、逆に僕は『SLAM DUNK』って1回も読んだことなくて、初SLAM DUNKがこの映画だったので、多分順也とはまったく対極なんですよ。ただ、出てくる主要キャラクターの名前は、普通に知ってた、聞いたことがあった。だから、やっぱり同時代でどれだけ影響力があったかっていうのは、そんな小さなところで感じることはできたんだけど、まあ、その名シーンの連続っていうのも、そもそも知らないから(笑)、でも知らないけど、なんだろう、1試合を描くじゃない。1試合を通してそれぞれのキャラクターの過去をこうフラッシュバックで描くっていう構成になっているんですけど、それででも、はじめて知ったキャラクターのいろんな側面も観られたから、これをきっかけに漫画も読んでみたいなっていうつくりになっているっていう意味では、すごくうまいなって思いました。
渡辺:そうですね。なんか、アナザーストーリーとかもあったりして、ファンもびっくりするような、つくりにはなっているっていう感じでしたね。まあ、ちょっと悩みましたが。
有坂:いやでもね、「これが噂のスラムダンクか」っていう感じで。僕は『キャプテン翼』でサッカーを始めた口なので、まあでも、やっぱり漫画がきっかけでね、スポーツを始めて、それでプロになって、世界で活躍する人も本当に今って普通にいるので。
渡辺:そうだよね。
有坂:それは日本に限らず、まさかのジダンとか、ベッカムとかも僕と同じキャプテン翼きっかけだったりするので。
渡辺:そうだよね。だから、今スラムダンクで、NBAに日本人が行っているみたいなのって、その世代だったりするからね。
有坂:そうだね。
渡辺:そういう影響すごいなって。
有坂:そうだね。まあ、日本的なところかなと思いますが。はい、じゃあ、僕のアニメ賞です。
有坂の2022年《アニメ賞》
『シチリアを征服したクマ王国の物語』監督/ロレンツォ・マトッティ,2019年,フランス、イタリア,82分
渡辺:うん! なるほど。
有坂:これ、みなさん知ってますか? これ、イタリアで、まあ昔から読まれてる児童文学を映画化したアニメーションになります。物語としては、もうそのタイトルのとおり、熊が主人公なんですけども、熊の息子がふとしたことがきっかけで、人間のハンターに囚われてしまって、で、あれよあれよという間に熊王国 vs 人間界みたいな、大きな構図の中で物語が進んでいくという作品になってます。これですね、ビジュアル。まあ、これは、やっぱり物語はもちろん、そのメッセージ性も強くて、共感できるところもあるんですけど、個人的にこの映画をアニメ賞に選びたいなと思ったのは、やっぱりそのグラフィック。アニメのやっぱり肝であるグラフィック、アニメーション、絵とグラフィックの部分が、やっぱりこれまでとは違ったタイプのものが出てきたなっていう意味で、ちょっとパワープッシュしたくなった一作です。
渡辺:これ、横須賀美術館でもね。
有坂:そう、今年の年始に公開したんですけど、今年公開の映画をキノ・イグルーで上映するっていうのはね、実ははじめてなんですよ。ただ、やっぱり大自然の環境の中で、子どもたちにこの映画を観てもらいたいなっていうことで、映画会社と頑張って交渉して、横須賀美術館で夏に上映した作品でもあります。で、これ、監督はロレンツォ・マトッティっていう人で、イタリア人、イタリア生まれのパリ在住の人なんですけど、彼はもともと、建築をすごい本格的に学んでいた人で、そこからイラストとかコミックの世界で活躍するようになって、そのコミック界で権威のある賞も獲り、満を持してアニメーションを撮った人なんですね。で、それを聞いて、彼のこうつくる世界観、すごくグラフィカルな、もう構図がかちっと決まった、あの絵はなんか建築出身だなっていうのは、すごくなんか腑に落ちたところはあったんですけど、その決まりすぎていて、いやらしい感じがしないのが良かった。
渡辺:うん、なるほどね。
有坂:そこのやっぱりバランスって大事だなと思うんですけど。あと、色彩もね、なんかこう色鮮やかだけど、なんかちゃんと柔らかさもあって、あとは光と影の使い方。だから、ビジュアルのところにやっぱり結構こだわって、つくったんだろうなと思うんですけど、まあ、なんか立体絵本の中に飛び込んだみたいな、そういう、ちょっとワクワク感もある。予告編のサムネもいいね。
渡辺:アニメなんで吹き替え版でもいいと思うんですけど、声優さんがね、柄本佑とか、伊藤沙莉とか、リリー・フランキーとか、結構いい声優さんが。
有坂:これ、日本版はかなりね、出来がいいよね、吹き替え版の中でもね。ぜひ、これもまだ配信で観られないのかな。
渡辺:見放題では入ってなかった。
有坂:レンタルで観られるのかな。
渡辺:まあ、でも今年のやつだからね。そろそろ。
有坂:ああ、レンタルでは観られます。ぜひ、親子で観ても。
渡辺:そうだね。
有坂:楽しいかなと思うので、ぜひ観てみてください!
渡辺:では、最後、音楽賞ですね。
有坂:音楽賞の選び方って難しいよね。
渡辺:そう。
有坂:これ難しいよね。
渡辺の2022年《音楽賞》
クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」
『ちょっと思い出しただけ』監督/松居大悟,2022年,日本,115分
有坂:おお!
渡辺:これは日本の映画なんですけど、ミュージシャンのクリープハイプが楽曲を手がけています。監督は松居大悟という、日本の若手、中堅? 若手かな、代表格の監督なんですけど、松居大悟とクリープハイプって、結構一緒に映画をつくっています。今回3作目。で、MVとかも合わせると結構コラボをしてるんですけど、前作の『私たちのハァハァ』とかもかなりいい青春映画だったんですが、今回の作品っていうのは、「ナイトオンザプラネット」っていうタイトルからも分かるかもしれないんですけど、あのジム・ジャームッシュの映画、『ナイト・オン・ザ・プラネット』にインスパイヤーされた作品となってます。で、そこからクリープハイプが「ナイトオンザプラネット」という曲をつくって、で、それを映像化するっていう松居大悟が映画をつくったという作品になってます。ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』ね、好きな人、多いと思うんですけど、ウィノナ・ライダーが女性でタクシードライバーをやっていてっていう。なので、伊藤沙莉さんがね、女性でタクシードライバーをしているっていう設定が一緒なんですけど、あとは池松壮亮とのラブストーリーで、過去にどんどん遡っていって、今は別れてしまったカップルが、過去どうだったのかっていうのを、こう1年ごとに遡っていくっていう構成の作品になっています。なので、だんだんね、仲良くなっていくっていう、で、本当に最後のほうに2人が出会ってみたいなね。こう、初々しいところが。だから、この2人がこうなっていったのかみたいなのを、逆再生していくような、そういうラブストーリーになっています。これ、やっぱりねこのクリープハイプと松居大悟のコンビみたいなところもそうだし、ジャームッシュのあのところから歌にして、それをさらにまた映像化みたいなところが、結構個人的にも好きだったので、これにしました。
有坂:でも、その物語の展開でタイトルが『ちょっと思い出しただけ』って、いいんだよね。……そう来たか、意外なとこ来たな。なんか音楽賞、僕は、去年はアメリカの作曲家、『ラ・ラ・ランド』とかもやっているパセク&ポールを紹介したんですけど、今回はその作曲家とかではない。そこがやっぱり、音楽賞の難しいところだなと思うんですけど……。
有坂の2022年《音楽賞》
『リコリス・ピザ』監督/ポール・トーマス・アンダーソン,2021年,アメリカ,134分
渡辺:ああー!
有坂:ポール・トーマス・アンダーソンが監督した映画ですね。で、何が難しいかっていうと、映画音楽って一口に言っても、例えば『ニュー・シネマ・パラダイス』のモリコーネみたいな、映画音楽の作曲家が劇中のシーンに合わせて、曲をこうオリジナルで作っていくっていうパターンもあれば、タランティーノとか、ソフィア・コッポラに現れているように、既存の曲をシーンに当てはめていくっていう、まあDJのような映画の音のはめ方があって、今の時代ってどっちも共存しているじゃない。
渡辺:そうだね。
有坂:そういう意味で、前回のパセク&ポールっていう作曲家メインとは、今回は逆の切り口で、『リコリス・ピザ』を選びました。とは言っても、もちろん、劇伴を担当しているミュージシャンはいて。
渡辺:「ハイム」?
有坂:いや、ジョニー・グリーンウッド。「レディオヘッド」のメンバーで、今や映画音楽の作曲家として第一人者のジョニー・グリーンウッドって人が、一応音楽は担当しているんですけど、それ以外にかかる、例えば、ボブ・ディランとか、デヴィッド・ボウイとか、ニーナ・シモンとか、そういう選曲は全部、監督のポール・トーマス・アンダーソンがやっている。
渡辺:この時代に合わせているんだよね。
有坂:そう、この70年代の時代に合わせて。
渡辺:72年とかだっけ?
有坂:73年、それで選曲してるんですね。なんかポール・トーマス・アンダーソンが言うには、あの昔、ジョージ・ルーカスがつくった『アメリカン・グラフィティ』をイメージして、『リコリス・ピザ』はつくりたいって言っているぐらいだから、やっぱりこう重なる部分っていうのはたくさんあって、なんか個人的に良かったのは、ラジオから結構曲が流れてくる。で、あのラジオから曲を流すって、結構いろんな意味があるなと思っていて、というのも、例えばこう主人公が走っているシーンで、まあこの映画でも、例えばデヴィッド・ボウイの曲がかかったりするんですよ。でも、それって映画を観ている観客はデヴィッド・ボウイを聴いているけど、走っている主人公は、そのデヴィッド・ボウイは聴こえてないわけじゃん。
渡辺:うんうん。
有坂:あくまで映画の効果音として流れている。だけど、ラジオから流れてくる音楽って、そこの車の中でそのラジオの曲を主人公が聴いている。で、それを観ている観客も同じ曲を聴いている。だから、割とこう同一化しやすいような演出なんだろうなって勝手に思っている。その使い方が、ポール・トーマス・アンダーソンっていう監督がすごくうまくて、そのバランスが。観せるところは、あえて主人公を走らせて、ボウイのあの曲を使ってしまうとか、やっぱりほんとに今までもずっと感じていましたけど、耳のいい監督だなってことが、今回の『リコリス・ピザ』で、改めてはっきりしました。
で、さっき、順也がね、「ハイム」って言いましたけど、この映画の主人公を演じた女性は、ハイムっていうバンド、姉妹バンドの一人が主演を演じてるんですね。なので、しかも他にトム・ウェイツが出演したりとかとかね。
渡辺:そうだね。ショーン・ペンとかね。
有坂:そうそう、割とだからレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが音楽をやるとか、やっぱり耳のいい音楽マニアでもある、ポール・トーマス・アンダーソンが肩の力を抜いてつくったなっていう意味で、なんか今年を個人的には代表する一作でもあるのかな、と思っています。
渡辺:なるほど。
有坂:トム・ウェイツとショーン・ペンって、同じシーンで出てくるんですよ。その2人が出てくるところいいよねとか、贅沢だよねっていう意見もあるんですけど、僕はむしろそこが苦手で、あのシーンさえなければって、もっと良かったのに、って個人的には思っている。
渡辺:へー、そうなんだ。
有坂:そうそう、だから、そこはもうほんとにみなさん好みの違いで、あくまで、この映画の物語って、若い男の子と女の子のボーイミーツガールの話なんですよ。それを1973年っていう時代の中で描いている。そこのバランスと合っているかどうかっていうことが、やっぱりあくまで大事なわけで、ちょっとなんかね、いたずらが過ぎたなっていう感じが(笑)。
渡辺:ほんと? そう?
有坂:いたずらが過ぎたなっていうか、なんだろう。やっぱり強すぎるから、あの2人が。
渡辺:これハイムって入ってないんだっけ、曲?
有坂:入ってないんじゃない。
渡辺:あ、そうなんだっけ。
有坂:ミュージックビデオをね。ハイムのミュージックビデオをポール・トーマス・アンダーソンが監督していたり、もともと家族ぐるみの付き合いだった。だから、そういうパーソナルな付き合いをベースに、自分のつくりたい映画をこの規模でつくれるっていうのが、ポール・トーマス・アンダーソンという監督の面白いところかなと思うので、ぜひそのミュージックビデオもね、合わせて観ていただきたいなと。
渡辺:いいもんね、ハイムのミュージックビデオ。
有坂:めちゃくちゃいいよ。そのポール・トーマス・アンダーソンが監督してないのもいいので、ぜひね、そういうところも合わせてお楽しみいただければと思います。
──
有坂:かぶらなかったね。
渡辺:そうだね。結局ね。
有坂:よかったよかった! 順也、主演俳優賞が、もう当然トム・クルーズだと思ったんだけど(笑)
渡辺:(笑)
有坂:ではなかったね。
渡辺:そうでした。ホアキン・フェニックスでした。
有坂:怒られるよ、トムに。
渡辺:(笑)
有坂:あんな頑張ったのに。
渡辺:うん、頑張ったよ。
有坂:頑張ったよね、ということで、今月の「ニューシネマワンダーランド」は終わりなんですけど、最後に何か。
渡辺:そうですね。僕たちは、年末に毎年その年のベスト10発表会をやっています。個人的に。なんの配信とかもしていないんですけど。
有坂:誰にも頼まれていないのにやっている(笑)。
渡辺:それもInstagramとか、そういったところで発表したいと思いますので、それもぜひチェックしていただけるとうれしいです。
有坂:そっちはね、外国映画と日本映画、それぞれベスト10を挙げています。フィルマークスのほうでは何か?
渡辺:フィルマークスでは、特にないです。
有坂:はい、わかりました。まあ、僕もそうですね。その年間ベスト10と、あと、コロナ禍でちょっとしばらく中断が続いてた「あなたのために映画をえらびます」というイベントも、来年(2023年)はもうできる限り再開させていきたいと思っていますので、何を観たいかわからない、悩んでるっていう方だったり、自分の映画の好みを広げていきたいって思う方は、そちらにもご参加いただけると嬉しいです。
渡辺:それは毎月やる?
有坂:一応月1でやろうと思っています。はい、ということで、2022年もね、12回、みなさんお付き合いいただきまして、ありがとうございます! また、来年もいろんな映画をご紹介したいと思います。では、これをもってキノ・イグルーの「ニューシネマワンダーランド」を終わりたいと思います。どうも、ありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました!!
有坂:良いお年を〜!
渡辺:良いお年を〜!
選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)
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