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手紙社リスト映画編 VOL.22「キノ・イグルーの、観て欲しい『未来都市』な映画10作」

あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「未来都市な映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。

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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。

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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月も渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。

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渡辺セレクト1.『her 世界でひとつの彼女』
監督/スパイク・ジョーンズ,2013年,アメリカ,120分

有坂:うんうん。
渡辺:スパイク・ジョーンズ監督の作品で、ホアキン・フェニックスですね、あと、スカーレット・ヨハンソン主演の近未来を描いた、人間とAIのラブストーリーになります。これが、ちょうど10年前の映画かな。なので、10年前に近未来を描いているっていうところなので、一見そんなに変わらないんですよね。街並みだったりとか。やっぱり、ちょっとタワーマンションとか、そういう高層ビルが多いみたいなところはありつつも、服装だったりとか、そんなに日常生活は、未来未来してないみたいな。でも、ところどころアイテムが、ちょっと近未来的っていうところの絶妙な匙加減が、ほんとに直近の未来を描いてるっていうところが魅力的な作品です。それで、今だと結構普通なんですけど、例えば、イヤホンをワイヤレスでやっていたりとか、あとは音声で認識させるとかですね。今、Googleとかも文字検索じゃなくて、音声検索が普通にできるようになってきましたけど、やっぱり10年前ってなかったんで、割と今できているみたいなことが、このときは結構斬新だったっていうものがあるので、この『her』、当時観たときに、「あっ、こんなことできたらいいな」が、もう今実際にできているっていうことが、もういくつかあったりとかですね。まだないもので言うと、やっぱりそのOSとかAIみたいなところが、もっとこうパーソナルになっていて、個人個人にそれぞれ適したものに、どんどんカスタマイズされていくっていう、そういうAIが進化したところが特徴的で、しかも、主人公のホアキン・フェニックスは、そこに恋愛感情を抱いてしまうっていうですね。実は、そのAI側も、もう個人用にカスタマイズされていくので、そこでラブストーリーになっていくっていうね、まさかの展開なので。これはちょっとぜひ、どういう展開になっていったのかっていうのは、観ていただきたいなと思うんですけど。本当にちょっとすぐ先のありそうな未来みたいなところを描いた作品です。なんで、これは都市は結構、ちょっと高層ビルが多いみたいな、普通のところではあったんですけど、割とアイテムみたいなところが、しかもお洒落にデザインも描かれていたりして、すごい魅力的に描かれていました。ちなみに、これは舞台がアメリカなんですけど、未来都市として当時撮影された場所が、当時の上海らしいんですね。なので、いかに上海が高層ビル群になっていて、あのアメリカから見ても、ちょっと未来都市っぽかったのか、みたいなところが感じられる作品となっています。
有坂:だよね。
渡辺:一番、これは被りそうかなって。
有坂:そうそう、これはじゃんけん負けたら奪われると思ったから、想定内です(笑)。『her』は、スパイク・ジョーンズが監督した映画の中で、もっとも業界的な評価が高かかった。アカデミー賞に5部門ノミネートされて、脚本賞を受賞した映画で。
渡辺:そうだよね。
有坂:ストリートから出てきたスケボー少年のスパイク・ジョーンズが、いよいよ映画監督としても、もうアカデミーに絡むようなとこまで到達したというね。ある意味、記念碑的な作品でもあるかなと思いますが、みなさんは観たのかな? いい映画だったよね。
渡辺:結構、これは観た人、多そうな感じがします。
有坂:やっぱり、まあホアキン・フェニックスはね。前回もホアキンの話を結構しましたけど、割とこう体が大きくて、なんだろう、圧力を感じる雰囲気を持っている人だから、やれる幅って、結構限られているのかなと思いきや。やっぱりもともと持っているメンタルが、すごい繊細だからね。こういう『her』とか、なんだっけ? ジョーカーじゃなくて、前回の……
渡辺:カモン カモン
有坂:そう『カモン カモン』とかにハマるのもね、やっぱりそういうメンタリティだからハマるという。もう役者として本当に幅広いね。
渡辺:すごいねぇ。やっぱり、いい映画に出てるね。
有坂:そうだね。改めて証明したと。はい、じゃあ、僕の1本目に行きたいと思います。僕はフランス映画からスタートです。

有坂セレクト1.『プレイタイム』
監督/ジャック・タチ,1967年,フランス,125分

渡辺:うーん!
​有坂:これはですね、フランスを代表するコメディ監督・ジャック・タチの代表作。まあ、彼は6本しかつくっていないので、その中でも割と、監督としての評価をきちんと得て、もうなんでもつくれるような状況でつくった、懇身の一作が『プレイタイム』になります。ジャック・タチという人は、ぼくの伯父さん。いわゆる、ユロー伯父さんシリーズで有名になって、それで世界的な評価を得た後に、この『プレイタイム』をつくったんですけれども、まず、この映画がどういう内容かというと、アメリカ人観光客がフランスの空港に到着して、パリ観光に出かけると。で、そういう面と、あとはパリに住むユローおじさんの話っていうのが、ゆるーく繋がっていくような物語。物語自体は、本当に有って無いような作品になっています。それで、その中で巻き起こる人間模様みたいなものを面白おかしく、本当にジャック・タチらしい。もう説明とは一切無縁の体を使ったギャグとか、あとはそういう視覚的なものだけではなくて、ドアを開閉する音を使ってギャグにするとか、かなりね、高度な笑いをもう凝縮して125分の映画をつくりました。
渡辺:うんうん。
有坂:この映画は超大作って呼ばれているんですけど、それはなぜかというと、実はこの映画ってパリのある街が舞台になっている設定なんですけど、実はロケ撮影じゃなくて、これは全部セットを組んで、ジャック・タチがなんと自分のイメージする街をつくってしまったんです。なので、高層ビル群とか出てくるんですけど、それも実は全部セットなんです。そのミニチュアを撮影してとかっていう、ギミックを使っているわけじゃなくて、本当に巨大な建物とかを建ててしまっているので、ものすごい予算がかかって、途中で製作費も足りなくなって、私財も投げ打ってつくったら、まったくヒットしなかった。で、自分の会社が潰れてしまったっていう、ある意味呪われた映画って言われているんですけど、まあ、そこまでしてジャック・タチが、やっと得られたクリエイティブな面での自由を、もうとことん後悔することなく、その情熱を注ぎ込んでつくった映画が『プレイタイム』なんですね。そこまで思いがこもっているんですけど、でも、映画自体は本当に飄々としたコメディ映画っていう、そのバランスが面白いのと、でも、やっぱりさっきドアの開閉を使ったギャグって言いましたけど、そういうことって、ほんとに1秒でもずれたらギャグにならないので、そういうディテールに、すごいこだわっているんですね。なので、もうその完璧な世界観、自分でここのギャグとかも音のタイミングも全部合わせてつくり上げるっていう。もうある意味、ジャック・タチは、これをつくったら、もう燃え尽き症候群で、次を作れないんじゃないかって言われるぐらい、もう彼の中のイメージを具現化したような作品になっています。ジャック・タチの映画っていうのは、笑える要素もいいんですけど、音楽もやっぱりすごく良くて。この映画も、割とこうビジュアル的には、なんていうんでしょう、ビルとかオフィスの風景も全部直線的で、割とこう、ちょっと硬質な、ちょっと硬い映像のイメージなんですけど、それを崩してくれるような、ちょっとメリーゴーランド的なやわらかい音楽をのせて、ほんとジャック・タチにしかつくれない世界観の中で、125分存分に笑わせてくれるという映画になています。
渡辺:これ70ミリなんだよね。
有坂:そうそうそう。
渡辺:だから、もう本当に映画館でちゃんと味わった方がいいタイプの作品で。まあ、たまにね、リバイバル上映をやったりするので、そういうときに、ぜひチャンスがあったら、おすすめの作品です。これ結構美術も無機質な感じだよね。
有坂:そう、色も少なくて。あえて、そうやって、もう色のコントロールも全部自分でやっているので、セットを組むことで自分でできる。なので、もう全部こう映画の世界観を自分でつくり上げたっていう意味では、あのグランド・ブダペスト・ホテルって​ウェス・アンダーソンと同じような映画の作り方。で、実際、ウェス・アンダーソンはジャック・タチを尊敬してるので、まあウェスの映画が好きな人は、やっぱりね、ジャック・タチを観てほしいし、ジャック・タチの頂点は『プレイタイム』かなと思うので、ぜひなんか世界の映画史に残る唯一無二の傑作を、観ていただきたいなと思います。
渡辺:なるほどね。まあ、ジャック・タチっぽい、こう未来のデザインというか。
有坂:そうだね。モダンなデザイン。デザインとか建築とかが好きな人は、本当にもう刺激たっぷりな映画になっているので、ぜひ観てみてください。
渡辺:……なるほど、選びそうだわ。
有坂:でしょう、これも早い者勝ちな感じだよね。
渡辺:じゃあ、2本目にいきたいと思います。王道をいきます。

渡辺セレクト2.『ブレードランナー』
監督/リドリー・スコット,1982年,アメリカ、香港,117分

有坂:ふふふ。
渡辺:これは、監督はリドリー・スコットですね。リドリー・スコットは、エイリアンとか、そういうSFを結構得意としている人の割と初期作として、結構SF映画の金字塔みたいに言われている作品です。舞台になっているのが、2019年だから、なんと今より過去なんですけど、当時、82年当時の近未来として描かれています。どういう都市かっていうと、中央部はもうめちゃくちゃ巨大な、いかにもSF映画で出てきそうな、巨大な建物がそびえ立っています。でも、下町みたいなところがあって、そこはなんかすごくアジアっぽいんですね。日本の屋台みたいなのが並んでいて、で、アジア人の、日本語をしゃべっていたりするんですけど、屋台のうどん屋さんに、ハリソン・フォードが「うどん1つ」とかって言っているみたいな。で、ずっと雨が降ってるんですね。雨は酸性雨です。80年代当時は、結構、公害の問題とか環境の問題で、酸性雨がちょうど社会問題になっていたりしたので、もう酸性雨がずっと降り注ぐみたいな、ちょっとディストピアっぽい、未来を描いた作品になっています。話としては、人型のAIロボットが、どんどん進化してしまって、人類に反乱を起こすと。そのレプリカントっていうロボットを操作するのがブレードランナーで、それが、もとブレードランナーの男が、ハリソン・フォードなんですけど。レプリカントの男と対決して、なぜか友情的なものも芽生えながらみたいな、そういうお話になっています。で、結構ずっと夜を描いているような感じ、常に暗くて、雨が降ってるみたいな、冷たい感じの街なんですけど、そこにちょっとアジアっぽいネオン街があったりとか、そこで屋台があったりとか、そういうアナログっぽいところに絶妙な交じり加減があるっていうところが、この映画の特徴かなと思います。なんか、その辺の未来感みたいなのが、割とスター・ウォーズとかだと、もう完全に「かっちり整備された宇宙のものしかない」みたいな、無機質な街が多いんですけど、この『ブレードランナー』はそういうちょっとアナログ部分も混じり合っている、そういうところが魅力かなと思います。作品としても、本当にSF映画の金字塔みたいに言われている作品なので、名作といわれる中に必ず入ってくる作品なので、未見の方がいたら、ぜひこちらも観ていただきたいなと思います。
有坂:『ブレードランナー』を語るときに、その『ブレードランナー』の評価軸で、やっぱり世界観とか必ず出てくる。で、物語とか、やっぱりその主人公が何を考えているかとか、そういうことも映画は大事だけど、なんか改めてこの世界観をつくった監督、クリエイターとして素晴らしいっていう評価がね、『ブレードランナー』っていうのは、年々高まってるじゃん? もう、SF映画ってある意味、賞味期限がある中で、もう、その映画の時代設定を超えてもなお、輝く未来を描けているっていうのは、やっぱりその時代が追いつけないぐらいのね、クリエイティビティを発揮してしまった1本が『ブレードランナー』って言ってもいいのかもしれないね。
渡辺:そうだね、今観ても、やっぱり結構映像美は、全然衰えてないというか。
有坂:今だったら、もっと簡単にできちゃうことだからね。アナログな時代だからね。
渡辺:どうやって撮っていたんだろう。力技でね、つくったんだと思うんだけど。
有坂:『ブレードランナー』、挙げるよね。
渡辺:そうです。王道でいきました。
有坂:じゃあ、僕の2本目、行きたいと思います。えっと、僕は同じアメリカ映画、2018年の作品です。

有坂セレクト2.『レディ・プレイヤー1』
監督/スティーヴン・スピルバーグ,2018年,アメリカ,140分

​​渡辺:ああー。
有坂:今回ですね、「未来都市」な映画ということで、まあ未来都市の定義って結構難しいなと。というのも、今の『ブレードランナー』の時代っていうのは、明らかにその主人公が物語をこう展開していく舞台が未来都市なんですけど、もうここ10年前ぐらいからSF映画で描かれる世界っていうのは、リアルではなくなってきているわけです。だから、こう未来都市というのは、実はリアルだけではないんじゃないかと。
渡辺:うんうん。
有坂:仮想空間の中にいよいよ出てきたなということで、ある意味、それを象徴する1本として、『レディ・プレイヤー1』を挙げました。これはまあ、スティーヴン・スピルバーグが監督した映画で、一応これ原作ものなんですよね。『ゲームウォーズ』っていう小説があって、それをスピルバーグが監督したものなんですけども、あの映画の設定は2045年です。で、この時代はもう貧富の格差が生じていて、でなかなか貧しくて暮らしていけないみたいな人が、宝くじを当てるかのように一攫千金を狙ってる中で、仮想現実の空間、オアシスっていう仮想空間で、これをつくった創設者の人が、莫大な遺産を残すと。それをゲットできるのはこのオアシスの中でゲームに勝った人のみだということで、それを得るべく、この仮想空間の中でいろんなプレイヤーたちのバトルが始まるというのが、大きな意味での映画の物語となっています。この映画がやっぱり面白いのは、1980年代から90年代のポップカルチャー。例えば、映画、音楽、ゲームなど、そういったポップカルチャーの要素を、もうギュウギュウに、ギュウギュウ! に詰め込んだところが、もうこの映画のまず1番面白いところかなと思います。具体的にどういうポップカルチャーが引用されているかというと、スター・ウォーズ、スタートレック、バットマン、トランスフォーマー、チャイルド・プレイ、13日の金曜日、ジュラシック・パーク、シャイニングもあるし、サタデー・ナイト・フィーバーもある。で、日本のポップカルチャーもあって、AKIRA、ガンダム、ゴジラ、キティちゃん、ストリートファイター、もうこれ、今挙げたものだけでも、相当それぞれ個性も色も違うんですけど、そういった要素、例えばこの映画の中に出てくるキャラクターが、何々っぽいとか、ここで流れた音楽があの映画の音楽だ、っていう意味で、いろんな映画の引用で成り立っているのが、この『レディ・プレイヤー1』の大きな魅力です。これもともと、原作者がこれを映画にしたいっていうことで、このスピルバーグが映画化する前にプロジェクトが1回動いたらしい。でも、そのときはこのポップカルチャーの引用こそが面白いんだけど、映画にすると権利問題でクリアできないから。
渡辺:いや、すごい権利だもんね。これね。
有坂:そこを排除して1回プロジェクト動かしたんだけど、もうファンから「それ、違うだろう」と。そもそも変わってしまうから、ベースが変わってしまうからっていうんで、改めてもう1回プロジェクトをつくり直すタイミングで、もうその原作者が愛するスピルバーグに声をかけ、スピルバーグは、やっぱりこの映画のいいところはそのポップカルチャーの引用がまずあるってことで、そこをクリアしようってことで、なんかそれをね、数年かけて権利の許諾を得るためだけに、数年かけて作品になったっていう。観ている側としては、そういう権利処理とかってわからない世界の話だし、大変だなとしか思わないけど、実際、いろんな映画の中で、これだけのね、映画とか、ゲームとかの名前が、キャラクターが出てこないっていうのは、そこをやっぱりクリアするのがいかに大変か。それを、これだけの数のキャラクターを権利処理をし、この世界観、本当にカオスな世界観をつくり上げたってことが、この映画も本当に素晴らしい作品だし、ひとつここに基準をつくってしまったって意味ではね。同じような内容のものをつくりたくても、なかなか超えられないぐらいの、ある意味、ひとつの到達点みたいなものを、スピルバーグがつくってしまったかなと思います。もうまさにね、人気キャラが大渋滞状態です。だから、1回観ただけでは拾い切れない、いろんなキャラクターとかもあるので、2回、3回観ていく楽しさも詰まっている映画かなと思います。これを入れたのは、ちょうどスピルバーグの最新作が、これから公開されると。スピルバーグの自伝的な映画がこれから公開されるので、それも含めてぜひ紹介したいなということで、『レディ・プレイヤー1』を選びました。
渡辺:森崎ウィンのね「 俺はガンダムで行く」が、だいぶ有名になったもんね。
有坂:そうそう、日本語でね。本当は英語だったんだよね。あのセリフ。
渡辺:そうなんだ。
有坂:そう、それを急遽日本語に変えた。でも、それが話題になっているっていうね。
渡辺:これさ、街並みも出ていて、トレーラーハウスが積み上がっているっていう。で、みんなこのメタバースの……
有坂:そうだね、ゴーグルでね。
渡辺:ゴーグルで仮想空間に、もう老若男女がはまっているっていう世界なんだよね。あのトレーラーハウスってやっぱりなんかアメリカでいうとさ、その低所得者の住まい。
有坂:そうだね。
渡辺:で、普通にトレーラーが置いてあるのが、あれがこう積み上がっているっていう、高層ビル化しているっていうのが、街並みとしてすごいなと思って、……言おうと思ったのにな。
有坂:あら、よかった。セーフ! そう、このへんね、被る可能性のあるものをちょっと抑えられたところで、なんか映像の調子がちょっと悪いみたいで、たまに僕たちがカクカクなりますけど、音声聞き取れているかな?
渡辺:じゃあ、続けて3本目。それに連動して。
有坂:おっ! やばい!
渡辺:やばくない。僕の、まあ連動っていっても、直接的じゃないんで。3本目です。

渡辺セレクト3.『アフター・ヤン』
監督/コゴナダ,2021年,アメリカ,96分

有坂:ああー。
渡辺:なぜ、これが連動しているかというと、今の『レディ・プレイヤー1』。これが、実は舞台がオハイオ州コロンバスなんだよね。そのトレーラーハウスが積み上がっていた。
有坂:コロンバスなんだ。へー知らなかった。
渡辺:っていう設定で、そのコロンバスっていう町は、モダニズム建築の町といわれていて、そのコロンバスって映画をつくったコゴナダという監督がいまして、その人の最新作が『アフター・ヤン』という作品になります。『アフター・ヤン』は去年公開されたばかりの作品なので、まだ映画館によっては、やっているところもあるかもしれない、という新しい作品です。で、コゴナダ監督っていうのはその前作の『コロンバス』でも、モダニズム建築の町のコロンバスのいろんな建築を、綺麗な映像美で映し出したような、割と美意識が高くて、建築にも造詣が深い。というタイプの人の近未来作品です。これは、家族のお話なんですけど、近未来なので、人型のAIロボットが、もう家族の一員のような感じで、家政婦として働いているんですけど、ヤンという名前で。ある日、そのヤンが動かなくなってしまって、必死に直そうとするんですけど、直らない。そのヤンがいなくなってしまった後、“アフター・ヤン”の家族の話というのを描いているストーリーなんですね。やっぱりコゴナダ監督の美意識の高さみたいなのが、すごく美術でも感じる。部屋の中のインテリアとかも、もう無駄なものが一切ない。ちょっとアジアテイストなんですけど、めちゃくちゃ綺麗で、庭とかもすごい整備されていて、そういう建築家に頼んで、注文住宅をつくりましたみたいな、戸建てが並ぶ街並みっていうですね、そういう未来都市というか、未来の町の世界観になっています。なので、やっぱり監督によって、そういう家だったりとか、町だったり、中のインテリアだったりとかっていうのは、すごく影響されるなっていうのは感じるんですけど、先ほどの『レディ・プレイヤー1』は、もう本当にディストピアみたいな感じで描かれていて、トレーラーハウスが積み上がった高層で、もう下には車のスクラップだらけっていう、そういうコロンバスをわざと多分そういうふうに描いているんだと思うんですけど。対照的に、コロンバスをすごく綺麗な街として描いた、コゴナダ監督が描く近未来は、やっぱここまで綺麗なのかっていうですね、それがすごく対照的に感じたので、その流れでちょっと選んでみました。
有坂:じゃあ、本当はその流れで紹介しようと思ったんだね。
渡辺:そうそう! 『レディ・プレイヤー1』を紹介してっていう。
有坂:『アフター・ヤン』は順也のね、去年の洋画ベスト10の中にも入っている、お気に入りの一本。
渡辺:そうそう、これは話としてもめちゃくちゃいいので。まあ家族の話ってさらっと言っちゃいましたけど、これもなかなかちょっと考えさせられるし、ちょっと泣ける話だったりするんで。
有坂:この画像でいうと、前列の左側のお兄さんが人型ロボットのヤン。
渡辺:そうですね。で、女の子も養女なんですよね。人種の多様性もあり、養女がアジア系だから、アジア系のロボットを連れてきたっていうのがヤン。
有坂:そういう設定からして、もうなんかあれだよね、ちょっと今までとは違う現実が迫ってきているなっていうのを、なんか映画を通して感じることができるね。
渡辺:今っぽいよね。そういう多様性を感じる。
有坂:今っぽいよね。今っぽいっていうか、今でもまだ追いついていないような感覚を、この『アフター・ヤン』の世界観がこれから常識になっていくかもしれない。だいぶ早く、何十年も前に映画にしていたねって言われるかもしれない一本なので、このリアルタイムの時代の空気の中で観ておくのも、おすすめかもしれないね。
渡辺:そうだね。
有坂:はい、よろしいでしょうか。じゃあ、僕の3本目、行きたいと思います。2010年のアメリカ映画です。

有坂セレクト3.『トロン:レガシー』
監督/ジョセフ・コシンスキー,2010年,アメリカ,125分

​渡辺:おお! SFど真ん中。
有坂:これは、さっきの『レディ・プレイヤー1』と同じで、やっぱり現実世界ではなくて、仮想世界の話ということで、どうしても、さっきとちょっと繰り返しになりますけど、未来都市の定義が、現実、リアル世界だけではなくなってきてるということで、この『トロン:レガシー』も紹介したいなと思います。これは、トロンっていう、まずオリジナル作品があるんですよ。これは1982年の映画なんですけど、それの続編に当たるのが、この『トロン:レガシー』です。28年ぶりの続編になるんですけど、1作目の『トロン』っていうのは、当時すごく話題になった映画で、なんでかというと、映画史上初めてCGが導入された作品なんです。今観ると、本当にすごい、ちょっと素朴な感じで、ちょっと微笑ましい世界観なんですけど、その『トロン』があったことで、その後のジュラシック・パークとか、いろんな映画に繋がっていくわけです。そんなCGを初めて導入した映画の続編ということで、今回は逆にほぼ全てのシーンに特殊効果がCGとして導入されてるということで、どれだけこの28年の中で技術が進化したかっていうことが、2作続けて観ると、よりわかるという映画になってます。これ、主人公のお父さんがデジタル業界のカリスマということで、そのカリスマが子どもを残して失踪してしまい、20年後に父からの謎のメッセージに導かれて、この息子がコンピューターの世界に迷い込むと。その迷い込んだ世界というのは、お父さんが理想とした世界、お父さんが創造した世界なんですね。ただ、その世界が、ある独裁者に乗っ取られてしまっていて、その中で主人公のサムが、人類の存亡をかけて戦うという物語となっています。これ、まあ物語的には、このフィルマークスの評価が3.3っていうのに表れているかなと思うんだけど、「おいおい」ってツッコミどころ満載。ツッコミどころがある映画は、僕は悪い映画ではないと思っているので、そういう楽しみ方ができる人は物語も楽しいと思うんですけど、まあ、そこは全部置いておいて、このね、世界観が本当に素晴らしいなと思っていて、このパッケージに描かれてるように漆黒の中に、このブルーを中心とした光が、発光した光、この世界観で全編ほぼ進むんだよね。
渡辺:そうだね。
有坂:公開当時って、これ3Dだよね。3Dで上映されたので、このね、本当に色もそんなに使わず、真っ黒な中に発光した光っていう世界の中で、3Dとしてそれが体験できるっていうのは、すごい新鮮な体験をしてるなと思いながら、2010年のときに観ていました。IMAX3Dで観たから、もう映像と、音もやっぱりこれはすごいこだわっていて、音楽を担当したのが、ダフト・パンクですね。フレンチエレクトロの、もう本当に代表的なミュージシャンのダフト・パンクが音楽を担当しているだけじゃなくて、彼らは出演もしているんですよ。DJとして出演しているので、ぜひそこもね、見逃さないでもらいたいなと思うんですけれども。そういう音楽含めた、音、映像、光、そういった世界観が、とにかく秀逸。本当に、こういう近未来が待っているんじゃないかなとか、こういう世界観で何かこうできないかなと思っていたら、これ上海のディズニーランドにアトラクションとしてあるんだって。
渡辺:そうなの!?
有坂:それ、僕も今日調べていて知ったんですけど、世界中でも上海のディズニーしかない。
渡辺:聞いたことないもんね。
有坂:そう、「トロン・ライトサイクル・パワーラン」という、もうまさにその『トロン・レガシー』の世界観を、バイク型のローラーコースターで駆け抜ける、そんな体験ができるっていうアトラクションがあるぐらいなので、やっぱりね、いろんなSF映画とかCGを使った世界観って観たことあるけど、その中でもちょっと特別な体験ができるのが、この『トロン・レガシー』かなと思います。で、ヒロイン役がオリヴィア・ワイルド。もう、今となってはブックスマートからね、映画監督としてブレイクした彼女が、ヒロインとして出ていたり。あと、今回紹介しようと思った一番大きなきっかけは、監督です。ジョセフ・コシンスキーといえば、みなさんわかりますか?
渡辺:なんだっけ?
有坂:ちょっと! おい(笑)、 あれですよ、われらがトム・クルーズのトップガン マーヴェリックの監督です。
渡辺:あ! そうか、そうか(笑)
有坂:そうなんですよ。この監督自体は、もともとCM……、NIKEとかadidasとかのCMをつくっていたり、大学ではCGを教えているような人で、この制作者が、彼がつくるCMの未来感がすごくいいと。自分たちがこれからつくりたい『トロン・レガシー』に合っているんじゃないかっていうことで大抜擢して、それをトム・クルーズが気に入って、『トップガン・マーヴェリック』に採用しているんですよ。その前にオブリビオンかなんかでも、一緒にやってるのかな。でもね、あの『トップガン マーヴェリック』の中で印象的なバイクで失踪するシーン、これと同じようなシーンが、この『トロン・レガシー』にもあるので、そこも注目ポイントです。ぜひ観てみてください。
渡辺:なるほどね。そうきましたか。じゃあ、僕のですね、4本目。またちょっと違うところからいこうかな。

渡辺セレクト4.『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
監督/ジョージ・ミラー,2015年,アメリカ,120分

有坂:あ?
渡辺:これはもう未来都市です(笑)。
有坂:未来都市?
渡辺:未来都市です。マッドマックスってシリーズなんですけど、どういう世界観かというと、世界大戦でもう世界中が荒廃してしまった後の人類の話なんですね。なので、もういったん全部荒廃しています。で、あとはもう暴力の世界で、暴力が強いやつが牛耳るっていう世界観です。みんなバイクとか車とかに乗って、もうライダースとか着て、バット振り回して、とにかく強いやつが一番みたいな、そういう世界観。で、この世界観を漫画にしたのが『北斗の拳』です。なので、そのベースとなってるのが、この『マッドマックス』で、それの最新作がこの『怒りのデス・ロード』で、もう傑作なんですけど、ストーリーは、本当によく言われるんですけど、「行って帰ってくるだけの話」っていうですね、とてもシンプルなんですけど、もう内容が面白ければ、そのベースのストーリーなんて、別にシンプルで、全然構わないんだってことをやってのけたのが、本当にこの作品です。で、本当に、「え? 未来都市?」って思わせるぐらいのもう砂漠なんですよね。荒廃しきっているので、水が超貴重っていう、そのぐらいもう枯渇しきってしまった未来なので、本当になんか、この砂漠の部族が、ちょっとした洞穴を家にしてるみたいな。そういう都市なんですよね。だから、「これ都市って言えるの?」みたいなところはあるんですけど、もう本当にそれが街になっているという状態です。なんで、これは近未来の都市っていうと、スター・ウォーズ的なものとはやっぱりまた全然違う。もう砂漠の中にある、だけど、間違いなく未来の話というところで、ちょっと違う角度からこういうのも面白いかなというので、選びました。
有坂:こうなってほしくない。
渡辺:そうね。
有坂:未来としてはね。なるほど。
渡辺:もう本当にとにかく水が貴重っていう、もう枯渇しきった世界で、よくこういうなんか未来のディストピアで、砂漠化してるやつって、日本だとあんまり描かれないんですけど、それってやっぱり日本の風土とかと、すごく密接だなって思ってるのが、日本って放っておくと砂漠化って絶対しない。そういう土地じゃないから。日本はどうなるかっていうと、森林化するって言われるんですよね。日本のアニメとか漫画とかで、未来のディストピアみたいなのって、こう荒廃したビルから木が生えているみたいな、ああいう森に飲み込まれちゃうみたいな、そういう描写が多いと思うんですけど、それってやっぱ日本的な発想で、それは、やっぱり日本の風土がそういう緑が豊かだからって。で、水がなくなるって、日本だとやっぱりありえないらしいんですよね。資源が豊かすぎて。でも、なんか今ニュースで、結構日本の水が狙われているって、外国人が日本の土地を、水田を買っているみたいなことがあったりするんですけど、それってやっぱり日本は豊かすぎて、意外と日本の価値に気付いてないみたいなとこが、日本人はあるらしいんですけど、海外はやっぱり砂漠化とか、リアルにあるから、水が貴重みたいな、ああいう本当に砂になっちゃうみたいな。
有坂:そうか、じゃあ、海外の人が観た方が、やっぱり『マッドマックス』は、より多分切実な。
渡辺:多分そう、そうらしいですよ。それはすごい感じますね。これも普通に面白いんで、映画として。
有坂:さっき順也も言いましたけど、その映画ってやっぱりね、ストーリーを楽しむっていうのもひとつだし、逆にシンプルなストーリーをどういうふうに見せるか。その見せ方で90分とか120分、描ける作品もあって、そういう意味ではね、後者のタイプの映画かなと思うので。なかなか、こういった割とハード系のアクションを観ない人にとっては、たどり着かない映画かなと思うんですけど、ある意味、そのアクション映画の中でも振り切った1本なのでね。そこまで行けば逆にいろんな人が楽しいと。
渡辺:そうだね。
有坂:そういうものかもしれないので、ぜひ観てみてください。じゃあ、続けて僕の4本目に行きたいと思います。フランス映画です。

有坂セレクト4.『アルファヴィル』
監督/ジャン=リュック・ゴダール(ハンス・リュカス),1965年,フランス、イタリア,100分

渡辺:うんうん。
​​有坂:これは、昨年惜しくも亡くなってしまった、ジャン=リュック・ゴダールが、60年代につくった近未来SF映画の1本です。で、これは人工知能に支配されている銀河帝国アルファヴィルという設定の映画になっていて、まあ、一切の感情を失った娘の人間性を回復させようとする、あれは探偵なのかな? 主人公は。その男の物語です。なんか設定自体はシンプルで、フランス映画なのでわかりやすく物語が展開していくというよりは、このモノクロで、その銀河帝国っていう、その世界観をやっぱりこう堪能できる作品かなと思ってるんですけど、個人的にこの映画がすごいなと思ったのは、やっぱり60年代なのでCGがないわけです。さっきの『トロン』からCGが始まった。あれが1982年なので、それよりももっともっと前、20何年も前に、そんな技術がないけど、SF映画をつくろうと思った心意気。どうやって、じゃあ、SF近未来感を出すかっていうときに、やっぱり工夫が必要になってくるんです。で、ゴダールがこの映画でやったのは、セットとかミニチュアとかそういう特殊効果に頼るんじゃなくて、実際の建物を使ってSF感を出そうということで、実際のパリのね、実景を使って撮っています。で、ちょっと印象的なすごいモダンな建築物を、ちょっと人があまり見ないような角度から撮ってみたり、それをモノクロで撮ることで現実感をこうちょっとなくして、こう本当ゴダールならではのSF近未来の世界観をつくることに、結果的に、本当に素晴らしく成功した一本かなと思います。シャルル・ド・ゴール空港とかも確か、出てくるのかな。なので、そういったお金をかければ世界観がつくれるってわけではなくて、やっぱり監督のアイデアだったり、センスっていうもので、本当にもう有無を言わせぬ近未来をつくることもできるんだなということを教えてくれた一本が、この『アルファヴィル』かなと思います。主人公を演じるのは、アンナ・カリーナですね。ゴダールのミューズといわれた人で、女は女であるとか、気狂いピエロとか、二人でつくった名作はたくさんありますけど、そのアンナ・カリーナとゴダールというのは、実生活でもパートナーで、結婚もしたんですね。で、その二人が一番ラブラブだったときにつくった映画が『女は女である』。本当にアンナ・カリーナのことが好きなんだなっていうのが、あの映画を観ているとわかるんだよね。本当に浮かれてんなゴダールみたいな。一方、この『アルファヴィル』は、もう二人が泥沼になって、本当に創作上のパートナーだけで繋がっているということ、もうアンナ・カリーナが一切笑わない。もう映画のトーンも重いんですよ。だから、よくも悪くも、そういう自分のプライベートが映画に思いっきり出る。
渡辺:本当だよね。
有坂:観比べると、やっぱり面白くて、でも、そのラブラブな時代のアンナ・カリーナは確かにわかりやすく魅力的なんだけど、でも、このクールなアンナ・カリーナも、すごい魅力的じゃん。だから、それはもちろん、魅力がないと映画の世界はつくれないので、もちろんゴダールは考えてやっているんですけど、ただ観比べると、そのプライベートの情報も含めて観ると、よりなんか立体的に楽しめて面白いかなと思います(笑)。
渡辺:気難しい天才みたいな感じだけどね。
有坂:そう、もうほんと嫉妬の鬼だったらしいからね。今だったら結構やばいんじゃないかって言われている。
渡辺:あの、ほら短編のやつも超ラブラブじゃん!
有坂:そう!
渡辺:マクドナルド橋のフィアンセ
有坂:アニエス・ヴァルダの映画の劇中短編ね。
渡辺:あれなんか、もう今死んじゃったけどね、死にたくなるぐらい恥ずかしいだろうね。
有坂:もうあれはね、若気の至りとして、多分観られないと思うよ。
渡辺:キノ・イグルーのイベントでもね、たまにおまけでやったりするんですけど。すごい面白いね。
有坂:まあ、映画は残っちゃうからね。
渡辺:ラブラブ過ぎて。そこからの『アルファヴィル』、すごいよね。
有坂:そうそうそう、でも、その軌跡を辿どれるっていう意味では、どっちも観てほしいし、多分、ゴダールは、この映画の実際に彼なりのSF感をパリの実景を使って撮ったことが、手応えをやっぱり感じたっぽくて。というのは、この2年後に『未来展望』という短編をつくっているんですよ。これも、まったく同じ構成、モノクロで、実景を使った短編映画。これはね、オルリー空港を舞台にした、20分の短編映画で、確か愛すべき女・女(め・め)たちっていうオムニバスに入っている一編なんですけど、もう1回、多分、あのロジックでSFをつくりたいと思って、多分つくった作品もありますので、こちらも機会があったら観ていただければと思います。
渡辺:では、いよいよ、5本目はいきたいと思います。僕の5本目はどうしようかな。
有坂:そんな選択肢あるの?
渡辺:あるんですけど、はい、これでいきます! 僕の5本目は日本のアニメです。

渡辺セレクト5.『アキラ AKIRA』
監督/大友克洋,1988年,日本,124分

有坂:うんうん。
渡辺:これは1988年制作の日本のアニメーションで、大友克洋監督の近未来を描いた作品です。これは、舞台はネオ東京というところで、ここは第3次世界大戦で、ここも一旦荒廃してしまった東京。今の東京湾にお台場とかありますけど、あそこにもっと巨大な埋め立て地が、ネオ東京としてできていると、そういう未来都市になってます。で、中央はすごい、巨大なビル群なんですけど、それ以外の東京っていうのは、今の東京と同じような、しかもちょっと下町の町中華とかがあるような、そういうところが舞台になってます。主人公たちは、そういう町で暮らす不良の少年たちで、バイクを乗り回す暴走族なんですね。で、チーム同士で抗争を繰り返していたりするんですけど、ある時、その仲間の1人が事故にあって、彼が病院に行ってしまうんですけど、そこで覚醒して特殊な力を身につけてしまうと。それが鉄雄というやつで、鉄雄が暴走しだして、それを主人公の金田たちが止めに行くと。で、その不思議な力ってなんなんだみたいな、老人の顔をした子どもたちがいたりとか、何か実は政府が特殊な実験をしていたらしい……みたいなところで、主人公が実は金田ってやつで、アキラていうやつが出てこないっていうですね。アキラって誰なんだみたいな、途中までわからないんですけど、実はその老人の顔をした子どもたち、特殊な能力を持った子どもたちの中心にいたのが、アキラという少年だったみたいなことがわかってくるというですね、そういう話になってます。結構漫画は、もっと壮大だったりするんですけど、劇場版は劇場版の内容になってるんですけど、これはもう、なんて言うんでしょう、日本映画史の中でも残るぐらいの名作になっていて、しかも、設定が東京オリンピックがまたやってきて、それが延期されるみたいな設定になっていてですね、本当に先日のオリンピックは、コロナで1回延期しましたけど、それを予見していたかのような内容で、その時期にリバイバル上映をやっていたんですね。僕、それで、また映画館観に行って、もう巨大なシネコンの大スクリーンで観たのが初めてだったんで、もう内容もすごいし、迫力、今観てもすごいんで、大感動するしですね。で、その予知夢的な内容にも改めて驚かされる。これは本当にすごいし。あとアキラの映画の中で、このジャケットにバイクが出ていますけど、このバイクをキーってこう横滑りでブレーキをかけるシーンがあるんですけど、これって結構ね、他の映画でもオマージュがされていたりとか、最近の映画でもあったりとか、まあ言っちゃうと、NOPE/ノープという去年公開のアメリカ映画があるんですけど。
有坂:やばいアメリカ映画(笑)。
渡辺:そこでも、実はこの『アキラ AKIRA』のバイクでキーって、横滑りで止まるシーンがオマージュされてたりとかですね、出てます。なので、これは結構、世界でも観られている作品です。
有坂:そうだね。
渡辺:いろんなオマージュがありつつ、これもなんかアナログ的な、下町的な町並みと、超高層の中心部みたいな、そういうコントラストが面白い近未来として感じさせている作品です。
有坂:来たね、『アキラ AKIRA』。さっきのね、僕が紹介した『レディ・プレイヤー1』の中でも、アキラオマージュもありますし、もう多分、日本のアニメっていうよりは、世界のポップカルチャー史の中に入ってくるようなね。
渡辺:そうだね。
有坂:一本といっていいんじゃないかな。日本人として『アキラ AKIRA』っていう映画がすごい、アニメとしてこういう表現してくれた、かっこいいって思っていた感覚が、実は日本人だけではなくて、もう同時代に世界で共有されていた感覚。そういう、それぐらいのスケール感のある作品かなと思います。はい、じゃあえっと最後、僕の5本目、行きたいと思います。僕は2010年のアメリカ映画です。

有坂セレクト5.『アイム・ヒア』
監督/スパイク・ジョーンズ,2010年,アメリカ,32分

​​渡辺:ああ!
有坂:これは、順也が1本目に紹介した『her 世界でひとつの彼女 』と同じスパイク・ジョーンズが監督した、32分のショートフィルムになっています。で、これ言うと、僕は順也が『her』を紹介するだろうと思ったから、最初からね、『アイム・ヒア』を準備していた(笑)。
渡辺:笑!!!
有坂:ジャンケン、負けたの悔しかったけど、「きたきた、またやっているよ」と。「うける!」と思って。
渡辺:なるほど、絶対『her』が来ると思っていたんだ。
有坂:だから、『her』は僕のリストから外れていました。
渡辺:またまた、負け惜しみを(笑)。
有坂:で、『アイム・ヒア』はどういう映画かというと、人間とロボットが共生して生きる近未来の話です。一応、これ、近未来のロサンゼルスっていう設定にはなってるので、何年かっていう時代設定は、はっきりしていないんですけど、舞台はロサンゼルスになっています。で、このパッケージのね、ちょっとぼやっとして、わかりづらいんですけど、こう顔がですね、パソコンのデスクトップみたいになっているロボットの、すごく純粋な彼が、図書館で勤務しているんですけど。ちょっと孤独で、素直なロボット君が、なんか自由に気ままに生きる女性ロボットと出会って、なんか輝きに満ちた新しいロボット人生が始まるっていうショートフィルムになってます。まあ、いわゆるロボットの純愛を描いた作品になっています。これが、なんかねロボットが、『アフター・ヤン』みたいにさ、人間のお手伝いとして存在するんではなくて、あくまで人間と共生しているっていうところが、やっぱりまずいいなって思いました。ちゃんと人間の奴隷とかではなくて、まあ普通に部屋もあるし、なんか人とっていうか、ロボットとの繋がりもあったり、普通に生活をしていると。ただ、その中でロボットは車に乗っちゃいけないとか、ところどころハッとするような、なんかこれってロボットに対する差別なんじゃないかな。それを人間に置き換えてね、その黒人差別だったりとかに重ねられるような、多分世界のつくり方をスパイク・ジョーンズはしているんですけど、そういった意味で、この世界の中でロボットのとしての人権は、完全にはまだ認められていないっていう設定の近未来になっています。なんかね、これ純愛の話なんですけど、本当に、「ああ、二人の恋愛が実ってよかった! ハッピーエンド」っていう、わかりやすい話ではなくて、切なさと愛しさと……。
渡辺:(笑)
有坂:違う違う、切なさと、あのね、自己犠牲。なんか自己犠牲を描いているんです。純愛の中で。それはなんかね、人間の世界の純愛物語を映画にしようと思ったら、なかなか描ききれない自己犠牲を、作品にしているってところは、本当にやっぱりスパイク・ジョーンズうまいな、ロボットにした意味がちゃんとそこにあったんだなって思いますし、ここでのやっぱり成功した手応えが『her』に繋がっていると思うんだうよね。で、やっぱりスパイク・ジョーンズって監督は、今でも例えば友達と一緒におふざけで短編映画つくったり、自分が楽しくって映像をつくっていたようなことを、仕事の合間とかに短編とかでつくるんですよ。で、そういうものが、やっぱり手応えとして長編に生きてくる。なので、そういった意味では、昔のスタジオ・システムで映画をつくっていたような時代の監督とは、まったく監督としてのあり方が違う。で、そういった実験が次に生きるっていう意味では、やっぱり『アイム・ヒア』と『her』も、ぜひ続けて観てもらいたいなと思う作品になってますので。
渡辺:『アイム・ヒア』、なかなか観られないよね。
有坂:配信ではないよね。DVDとか出てるので、買ってでも観たいって人は、ぜひ観てほしいなと思いますけど、まあ、スパイク・ジョーンズ自体は、最近、映画の話聞かないけど、表現者としては、第一線で活躍してる人なので、また観られる機会はいずれあると思うので、ぜひタイトルだけでも頭に入れておいていただけたらと思います。ポスタービジュアルも可愛いので、ぜひちょっと検索して観てみていただけたらと思います。

──

渡辺:また、盛りだくさんの10本が出ました。
有坂:よかったよかった。ちゃんと予定通り!
渡辺:ほんとかよ!
有坂:最初は、『her』だったんだけど、絶対こればっかりは被るだろうなと思って、よかったです。ということで、ぜひ10本ね、観られるものも観られないものもありますけど、心に留めておいていただけたらと思います。では、最後に何かお知らせがあれば。
渡辺:お知らせは、今度「横須賀美術館」で、さっきコゴナダ監督っていう、ちょうどモダニズム建築の話をしましたけど、まさにそのときの『コロンバス』という作品を、横須賀美術館、 2023年2月4日(土)、5日(日)でやりますので、でもあれか、もう締め切っちゃったかな?
有坂:今日は21日の土曜日? 今日の23時59分まで予約を受け付けています。あと1時間半ぐらい。一応、予約制で、応募多数の場合は抽選っていう形で、現状、もうその定員数には達しているので、抽選って形にはなってしまうんですけど、この映画、建築の街のコロンバスが舞台なので、すごく美しい建築がいっぱい出てくるんですけど、その建築映画を横須賀美術館という名建築で観る、名建築の白壁に直接投映して観られるっていう特別な体験になるかなと思うので、ぜひ観てください。あと、さっき、順也がちらっと言った、年末に僕らが発表しているその年の映画のベスト10、外国映画、日本映画、それぞれ10本ずつ発表したものを、キノ・イグルーのホームページにアップしています。今年は、洋画の1位が被ったね。
渡辺:うん、ですね。
有坂:迷わず、あの映画だなっていう感じのものも紹介していますので、ぜひそちらも合わせて観ていただけたらと思います。じゃあ、今月も完全燃焼ということで、10本の映画を紹介しました。キノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」今月は、これをもって終了となります。遅い時間までみなさん、どうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい!
有坂:また来月!!


選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe


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